三叉神経領域の帯状疱疹に対するアメナメビルの効果はどのくらい?(症例報告; 臨床神経学 2021)

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三叉神経領域の帯状疱疹に対する抗ウイルス薬として何が適してるのか?

帯状疱疹性脳血管炎は水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus,以下VZVと略記)の再活性化や初感染によって、自己免疫性に脳梗塞や動脈瘤、動脈解離を来す病態です。1997年から2001年の間に帯状疱疹に罹患した18歳以上の症例のうち、1.47%が1年以内に脳卒中を発症していました1

アメナメビルは2017年に発売された帯状疱疹に対する治療薬であり、ヘルペスウイルスに対し新規作用機序を有し、1日1回投与でクレアチニンクリアランスによる投与量設定の変更を行う必要がないことが特徴です2

比較的新しい抗ウイルス薬であるアメナメビル(商品名:アメナリーフ)は、脳や脊髄への移行が乏しいことが雄性マウスでの検証結果で示されていますが、ヒトにおける検証は充分ではありません。

そこで今回は、三叉神経領域*に帯状疱疹を発症した症例におけるアメナメビルの効果について考察した症例報告の結果をご紹介します。

*三叉神経領域:三叉神経の支配領域は、三つの枝(眼神経、上顎神経、下顎神経)に分かれる。額から眼球までを第1枝領域、下眼瞼から頬・上唇・上歯茎までを第2枝領域、下唇から下顎・下歯茎・舌の半分までを第3枝領域がつかさどる。

試験結果から明らかになったことは?

対象は、三叉神経第1枝領域に発症した帯状疱疹に対しアメナメビル内服で治療を行い、帯状疱疹性髄膜脳炎と脳血管炎を合併した1例。

症例

症例:78歳、女性

主訴:意識障害、左片麻痺

既往歴:高血圧症、70歳時に左乳癌に対し乳房部分切除とリンパ節郭清術を受け、残存乳房への放射線照射とアナストロゾール内服を5年間継続し以後は1年毎に外来受診していた。

生活歴:日常生活動作は自立していた。

内服薬:ロサルタンカリウム。

現病歴:2019年2月下旬に右前額部痛を自覚し、3月上旬に当院救急外来を受診した。疼痛部位に一致して水疱を認め、右三叉神経第一枝領域の帯状疱疹と診断されアメナメビルを7日間処方された。皮疹は改善したが右前額部痛が増悪し、帯状疱疹後神経痛に対する疼痛緩和目的で3月末から他院麻酔科に入院した。プレガバリンとアミトリプチン内服で疼痛は改善したが、入院後から発熱が持続し精査されたが熱源は不明だった。入院から約2週間後の4月初旬に、前日までと比較して活気が低下し左口角下垂と左上下肢脱力が出現した。翌日には指示に従えなくなり、頭部MRIで右放線冠に急性期脳梗塞を認め当院へ転院となった。

コメント

帯状疱疹では、痛みやかゆみが現れ、その後、体の一部(通常は片側)に帯状の発疹や水疱ができます。最もよくみられるのは、胴体や顔、特に目の周りです。アメナメビルは血液脳関門から脳内への移行が乏しいことから、三叉神経領域の帯状疱疹に対して有効でない可能性がありますが、実臨床における検証は充分に行われていません。

さて、症例報告で得られた結果から、三叉神経第1枝領域の帯状疱疹に対して、アメナメビル内服は不適となる可能性が示されました。

アメナメビルは髄液移行性がほとんどないため、結果的に脳神経領域の帯状疱疹に対して不完全な治療となり、本例が重症化した経過に関連している可能性が示唆されました。

アメナメビルが処方された症例に対しては、発症部位を確認し、顔面あるいは顔面に近い部位である場合は、アシクロビルなど、アメナメビル以外の抗ウイルス薬への変更を提案した方が良いと考えられます。

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✅まとめ✅ 三叉神経第1枝領域の帯状疱疹に対して、アメナメビル内服は不適となる可能性が示された。アメナメビルは髄液移行性がほとんどないため、結果的に脳神経領域の帯状疱疹に対して不完全な治療となり、本例が重症化した経過に関連している可能性が示唆された。

根拠となった試験の抄録

症例:1ヵ月前に三叉神経第一枝領域の帯状疱疹をアメナメビル内服で治療された78歳女性。帯状疱疹後神経痛に対し入院治療中に左片麻痺が出現し、頭部MRIで右放線冠に急性期梗塞を認め転院した。発熱と意識障害がみられ、髄液検査と頭部造影MRIで帯状疱疹性髄膜脳炎と脳血管炎の合併と診断した。抗血栓療法に加えアシクロビル点滴とステロイドパルス療法で加療したが、意識障害が遷延した。

一般理学所見:体温38.2°C、血圧171/105 mmHg、脈拍98回/分、SpO2 97%。右前額部の三叉神経第1枝領域に一致して皮疹治癒後の色素沈着を認めた。
神経学的所見:Japan Coma Scale 10の意識障害を認め、常に落ち着きなくベッド上で動き回っていたが、簡単な指示動作は可能であった。項部硬直やKernig徴候などの髄膜刺激徴候は認めなかった。軽度の左口角下垂を認め、左上下肢ともに挙上保持は可能だが動揺がみられた。
検査所見:血液検査ではWBC 5,520/μL、CRP 0.1mg/dLと炎症所見はなく、その他の生化学検査もHbA1c 6.7%であった以外に異常はなかった。凝固系ではPT、APTT、Dダイマー、アンチトロンビンIIIはいずれも正常範囲内であった。脳脊髄液検査では細胞数25/μL(単核球25/μL)、蛋白72mg/dL、血糖60mg/mL(同時血糖131mg/dL)と単核球優位の細胞数増加と髄液蛋白上昇がみられた。入院3日目の血清VZV-IgM(EIA)1.24、VZV-IgG(EIA)≧128、同日の髄液VZV-IgG(EIA)≧12.8と上昇していた。なお採取できた髄液が少量だったため、VZV-DNAのPCR検査は実施できなかった。頭部MRIでは、DWIで右放線冠に急性期脳梗塞がみられた。さらにガドリニウム(Gd)造影MRIで右中大脳動脈(middle cerebral artery、以下MCAと略記)-M1遠位や右前大脳動脈(anterior cerebral artery、以下ACAと略記)に壁肥厚や造影効果を認めた。FLAIR画像では右三叉神経から三叉神経脊髄路核(spinal trigeminal nucleus and tract、以下STNTと略記)に沿った高信号域がみられ、DWIでも同部位に高信号域を認めた。さらに造影FLAIR画像で右頭頂葉や右後頭葉、左弁蓋部脳表に斑状の造影効果がみられ髄膜炎に伴う変化と考えられた。

考察:アメナメビルは髄液移行性がほとんどないため、結果的に脳神経領域の帯状疱疹に対して不完全な治療となり、本例が重症化した経過に関連している可能性が示唆された。

引用文献

三叉神経領域の帯状疱疹をアメナメビルで治療後に帯状疱疹性髄膜脳炎と脳血管炎を合併した1例
谷口 葉子 ら.
臨床神経学 2021年 61巻 4号 p.239-242
ー 続きを読む https://www.jstage.jst.go.jp/article/clinicalneurol/61/4/61_cn-001531/_html/-char/ja

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