膿尿または細菌尿のある高齢者のせん妄に対する抗生物質の効果は?(系統的レビュー; J Am Geriatr Soc. 2024)

healthy man couple love 01_中枢神経系
Photo by Mikhail Nilov on Pexels.com
この記事は約5分で読めます。
ランキングに参加しています!応援してもよいよという方はポチってください!

せん妄転帰と抗生物質との関連性は?

せん妄は高齢者によく見られる神経精神症候群で、認知機能と注意力の急激で変動的な変化が特徴です。せん妄は、死亡、施設入所、認知症のリスク増加など、深刻な長期的合併症を伴う医学的緊急事態であることから、対症療法や予防療法の確立が求められています。

せん妄と膿尿または細菌尿を呈し、発熱、血行動態の安定性、泌尿生殖器症状のない高齢者に対する推奨は、診療ガイドラインごとで異なり結論が得られていません。

そこで今回は、全身性の感染徴候や泌尿生殖器症状を伴わない膿尿または細菌尿を有する高齢者において、抗生物質がせん妄の転帰に影響を及ぼすかどうかを検証したシステマティックレビューの結果をご紹介します。

膿尿(尿検査またはディップスティック検査で白血球が検出される)または細菌尿(尿培養で細菌が増殖する)を有し、全身性の感染徴候(体温>37.9℃[>100.2F]またはベースライン体温より1.5℃[>2.4F]上昇、および/または血行動態不安定)または泌尿生殖器症状(急性排尿障害または新規/悪化した排尿症状)を認めなかった患者が対象でした。

2名のレビュアーが独立して検索結果をスクリーニングし、データを要約し、バイアスのリスクを評価しました。全文のランダム化比較試験(RCT)および観察研究デザインは、研究の言語、期間、発表年に制限なく対象となりました。

試験結果から明らかになったことは?

984件の引用文献をスクリーニングし、652人の高齢者(平均年齢 84.6歳、女性 63.5%)から成る4件の研究を組み入れました。

4件の研究は1996年から2022年の間に発表され、1件のRCT、2件の前向き観察コホート研究、1件のレトロスペクティブチャートレビューが含まれていました。

4件の研究のいずれも、せん妄の転帰に対する抗生物質の有意な効果を示しておらず、2件の研究では抗生物質を投与された成人の転帰の悪化が報告されました。

対象となった3件の観察研究では、全体的なバイアスのリスクが中等度または重度でしたが、1件のRCTでは全体的なバイアスのリスクが高いことが示されました。

コメント

膿尿または細菌尿が、せん妄の要因となっている可能性があり、これに対して抗生物質が有効である可能性があります。しかし、実臨床における検証は充分ではありません。

さて、系統的レビューでは、膿尿または細菌尿があり、全身性の感染徴候や泌尿生殖器症状を伴わない高齢者において、抗生物質による治療がせん妄の転帰改善と関連するという証拠はみられませんでした。しかし、研究数が不足しており、研究の質についても低いことを踏まえると、本レビュー結果だけでは結論が出せません。更なる検証が求められます。

続報に期待。

cup of coffee on the newspaper

✅まとめ✅ 系統的レビューでは、膿尿または細菌尿があり、全身性の感染徴候や泌尿生殖器症状を伴わない高齢者において、抗生物質による治療がせん妄の転帰改善と関連するという証拠は見いだされなかったが、研究数及び研究の質を踏まえると更なる検証が求められる。

根拠となった試験の抄録

背景:全身性の感染徴候や泌尿生殖器症状を伴わない膿尿または細菌尿を有する高齢者において、抗生物質がせん妄の転帰に影響を及ぼすかどうかは不明である。

方法:PROSPEROにシステマティックレビュープロトコルを登録した(CRD42023418091)。膿尿(尿検査またはディップスティック検査で白血球が検出される)または細菌尿(尿培養で細菌が増殖する)を有し、全身性の感染徴候(体温>37.9℃[>100.2F]またはベースライン体温より1.5℃[>2.4F]上昇、および/または血行動態不安定)または泌尿生殖器症状(急性排尿障害または新規/悪化した排尿症状)を認めなかった。2名のレビュアーが独立して検索結果をスクリーニングし、データを抄録し、バイアスのリスクを評価した。全文のランダム化比較試験(RCT)および観察研究デザインは、研究の言語、期間、発表年に制限なく対象とした。

結果:984件の引用文献をスクリーニングし、652人の高齢者(平均年齢 84.6歳、女性 63.5%)から成る4件の研究を組み入れた。4件の研究は1996年から2022年の間に発表され、1件のRCT、2件の前向き観察コホート研究、1件のレトロスペクティブチャートレビューが含まれていた。4件の研究のいずれも、せん妄の転帰に対する抗生物質の有意な効果を示しておらず、2つの研究では抗生物質を投与された成人の転帰の悪化が報告された。対象となった3件の観察研究では、全体的なバイアスのリスクが中等度または重度であったが、1件のRCTでは全体的なバイアスのリスクが高かった。

結論:われわれの系統的レビューでは、膿尿または細菌尿があり、全身性の感染徴候や泌尿生殖器症状を伴わない高齢者において、抗生物質による治療がせん妄の転帰改善と関連するという証拠は見いだされなかった。全体的に、エビデンスは限られており、大部分は観察的で、かなりのバイアスリスクがあった。

キーワード:抗生物質;細菌尿;せん妄;膿尿;尿路感染症

引用文献

Antibiotics for delirium in older adults with pyuria or bacteriuria: A systematic review
Nathan M Stall et al. PMID: 38895992 DOI: 10.1111/jgs.18964
J Am Geriatr Soc. 2024 Aug;72(8):2566-2578. doi: 10.1111/jgs.18964. Epub 2024 Jun 19.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38895992/

コメント

タイトルとURLをコピーしました