ACEiまたはARBは
進行した慢性腎臓病(CKD)患者において、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi)またはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)による腎代替療法を伴う腎不全のリスク(kidney failure with replacement therapy, KFRT)および死亡に及ぼす影響は不明なままです。
そこで今回は、ACEiまたはARBの治療開始とKFRTおよび死亡率との関連について、非ACEi/非ARB比較群との相対比較で検討することを目的に実施されたメタ解析の結果をご紹介します。
データ情報源は、1946年から2023年12月31日までのOvid MedlineおよびChronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration Clinical Trials Consortiumでした。ベースラインの推算糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m2未満の患者を含む、ACEiまたはARBのいずれかと比較薬(プラセボまたはACEiまたはARB以外の降圧薬)を比較するランダム化比較試験であり試験完了したものが対象となりました。
本解析の主要転帰は腎代替療法を伴う腎不全のリスク(KFRT)とし、副次的転帰はKFRT前の死亡でした。解析はintention-to-treatの原則に従ってCox比例ハザードモデルを用いて行われました。ベースラインの年齢(65歳未満 vs. 65歳以上)、eGFR(20mL/min/1.73m2未満 vs. 20mL/min/1.73m2以上)、アルブミン尿(尿中アルブミン-クレアチニン比 300mg/g未満 vs. 300mg/g以上)、および糖尿病の既往歴に応じて、事前に規定したサブグループ解析が行われました。
試験結果から明らかになったことは?
平均年齢 54.9歳、平均eGFR 22.2mL/min/1.73m2の18試験から合計1,739例が組み入れられ、そのうち624例(35.9%)がKFRTを発症し、133例(7.6%)が追跡期間中央値34ヵ月(IQR 19~40ヵ月)の間に死亡しました。
調整ハザード比 (95%CI) | |
腎代替療法を伴う腎不全のリスク(KFRT) | 調整ハザード比 0.66(0.55~0.79) |
死亡 | 調整ハザード比 0.86(0.58~1.28) |
全体として、ACEiまたはARBの治療開始はKFRTのリスクを低下させましたが(調整ハザード比 0.66、95%CI 0.55~0.79)、死亡は変化しませんでした(ハザード比 0.86、CI 0.58~1.28)。
ACEiまたはARB治療と年齢、eGFR、アルブミン尿、糖尿病との間に統計学的に有意な交互作用はみられませんでした(交互作用のPはすべて0.05以上)。
コメント
慢性腎臓病(CKD)患者にレニン・アンギオテンシン系抑制薬(ACE阻害薬やARB)を投与すると、血清クレアチニン値が上昇することがあります。
さて、メタ解析の結果、ACEiまたはARB治療の開始は進行したCKD患者において腎代替療法を伴う腎不全のリスクを予防しましたが、死亡は予防しないようでした。ただし、点推定値ではリスク減少傾向です。区間推定値の幅が広いことから統計学的な有意差が認められていませんが今後、公表される研究結果を組み入れることにより結果が覆る可能性があります。
進行したCKD患者においてもACE阻害薬やARBの使用は継続した方が良さそうです。ただし、血清クレアチニン値を含めて、継続的なモニタリングが求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ メタ解析の結果、ACEiまたはARB治療の開始は進行したCKD患者において腎代替療法を伴う腎不全のリスクを予防するが死亡は予防しないようであった。
根拠となった試験の抄録
背景:進行した慢性腎臓病(CKD)患者において、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi)またはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)による腎代替療法を伴う腎不全のリスク(kidney failure with replacement therapy, KFRT)および死亡に及ぼす影響は不明なままである。
目的:ACEiまたはARBの治療開始とKFRTおよび死亡率との関連について、非ACEiまたはARB比較群との相対比較で検討する。
データ情報源:1946年から2023年12月31日までのOvid MedlineおよびChronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration Clinical Trials Consortium。
試験の選択:ベースラインの推算糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m2未満の患者を含む、ACEiまたはARBのいずれかと比較薬(プラセボまたはACEiまたはARB以外の降圧薬)を比較するランダム化比較試験が完了したもの。
データ抽出:主要転帰はKFRTとし、副次的転帰はKFRT前の死亡とした。解析はintention-to-treatの原則に従ってCox比例ハザードモデルを用いて行われた。ベースラインの年齢(65歳未満 vs. 65歳以上)、eGFR(20mL/min/1.73m2未満 vs. 20mL/min/1.73m2以上)、アルブミン尿(尿中アルブミン-クレアチニン比 300mg/g未満 vs. 300mg/g以上)、および糖尿病の既往歴に応じて、事前に規定したサブグループ解析を行った。
データの統合:平均年齢 54.9歳、平均eGFR 22.2mL/min/1.73m2の18試験から合計1,739例が組み入れられ、そのうち624例(35.9%)がKFRTを発症し、133例(7.6%)が追跡期間中央値34ヵ月(IQR 19~40ヵ月)の間に死亡した。全体として、ACEiまたはARBの治療開始はKFRTのリスクを低下させたが(調整ハザード比 0.66、95%CI 0.55~0.79)、死亡は変化しなかった(ハザード比 0.86、CI 0.58~1.28)。ACEiまたはARB治療と年齢、eGFR、アルブミン尿、糖尿病との間に統計学的に有意な交互作用はみられなかった(交互作用のPはすべて0.05以上)。
試験の限界:高カリウム血症または急性腎障害に関する個々の参加者レベルのデータは入手できなかった。
結論:ACEiまたはARB治療の開始は進行したCKD患者においてKFRTを予防するが死亡は予防しない。
主な資金源:米国国立衛生研究所(プロスペロー:Crd42022307589)
引用文献
Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitors or Angiotensin-Receptor Blockers for Advanced Chronic Kidney Disease : A Systematic Review and Retrospective Individual Participant-Level Meta-analysis of Clinical Trials
Elaine Ku et al. PMID: 38950402 DOI: 10.7326/M23-3236
Ann Intern Med. 2024 Jul 2. doi: 10.7326/M23-3236. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38950402/
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