2型糖尿病の治療薬と腎結石との関連性は?
2型糖尿病(T2D)は腎結石リスクの上昇と関連していることが報告されています。一方、ナトリウム-グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2i)は尿組成を変化させることにより腎結石のリスクを低下させる可能性を有しています。しかし、糖尿病治療薬と腎結石リスクとの関連性については充分に検証されていません。
そこで今回は、米国で日常診療を受けている患者におけるSGLT2iの使用と腎結石リスクとの関連を検討したコホート研究(新規使用者アクティブコンパレータコホート試験)の結果をご紹介します。
本研究では、臨床診療におけるSGLT2iの使用と腎石症リスクとの関連を調査するために2013年4月1日~2020年12月31日の間にSGLT2i、グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬(GLP-1RA)、ジペプチジルペプチダーゼ4阻害薬(DPP4i)の治療を開始したT2Dの商業保険加入成人(18歳以上)のデータが用いられました(データ解析期間:2021年7月〜2023年6月)。曝露はSGLT2i、GLP-1RA、DPP4iの新規投与開始でした。
本研究の主要アウトカムは入院または外来で国際疾病分類コードにより診断された腎石症でした。SGLT2iの新規使用者とGLP-1RAまたはDPP4iの新規使用者が1対1の傾向スコアでマッチされ、一対比較されました。発生率、発生率の差(RD)、推定ハザード比(HR)、95%CIが算出されました。
試験結果から明らかになったことは?
1対1の傾向スコアマッチング後、SGLT2iまたはGLP-1RAを開始した成人T2D患者716,406例(358組203例)(平均年齢は両群とも61.4[SD 9.7]歳、女性 51.4% vs. 51.2%、男性 48. 6% vs. 男性48.5%)およびSGLT2iまたはDPP4iを開始した成人662,056例(331,028組)(平均年齢 61.8[SD 9.3] vs. 61.7[SD 10.1]歳、女性 47.4% vs. 47.3%、男性 52.6% vs. 52.7%)が対象となりました。
SGLT2i vs. GLP-1RA | GLP-1RA | SGLT2i vs. DPP4i | DPP4i | |
腎結石 | 14.9イベント | 21.3イベント | 14.6件 | 19.9件 |
ハザード比(HR) | HR 0.69 [95%CI 0.67〜0.72] | – | HR 0.74 [95%CI 0.71〜0.77] | – |
発生率の差(RD) | RD -6.4 [95%CI -7.1 〜 5.7] | – | RD -5.3 [95%CI -6.0 〜 4.6] | – |
追跡期間中央値192日(IQR 88〜409)において、SGLT2iを開始した患者では、GLP-1RAを開始した患者よりも腎結石(腎石症)のリスクが低いことが示されました(1,000人・年あたり14.9イベント vs. 21.3イベント;HR 0.69[95%CI 0.67〜0.72];RD -6.4[95%CI -7.1 〜 5.7])またはDPP4i(1,000人・年当たり14.6件 vs. 19.9件;HR 0.74[95%CI 0.71〜0.77];RD -5.3[95%CI -6.0 〜 4.6])。
SGLT2iの使用と腎石症リスクとの関連は、性別、人種・民族、慢性腎臓病の既往、肥満によっても同様でした。
SGLT2i使用によるリスク減少の大きさは、70歳未満と70歳以上の成人において大きいことが示されました(HR 0.85[95%CI 0.79〜0.91];RD 1,000人・年当たり -3.46[95%CI -4.87 ~ -2.05];交互作用P<0.001)。
コメント
2型糖尿病患者における腎結石リスクと糖尿病治療薬との関連性については充分に検証されていません。
さて、米国のコホート研究の結果、成人の2型糖尿病患者において、SGLT2iの使用はGLP-1RAやDPP4isと比較して腎石症のリスクを低下させる可能性が示唆されました。あくまでも相関関係が示されたに過ぎませんが、作用機序、これまでの報告を踏まえると当然の結果であると考えられます。ただし、米国の限られた患者集団で示された結果であることから更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 米国のコホート研究の結果、成人の2型糖尿病患者において、SGLT2iの使用はGLP-1RAやDPP4isと比較して腎石症のリスクを低下させる可能性が示唆された。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:2型糖尿病(T2D)は腎結石リスクの上昇と関連している。ナトリウム-グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2i)は尿組成を変化させることにより腎結石のリスクを低下させる可能性がある。しかし、米国で日常診療を受けている患者におけるSGLT2iの使用と腎結石リスクとの関連を検討した研究はない。
目的:臨床診療におけるSGLT2iの使用と腎石症リスクとの関連を調査すること。
試験デザイン、設定、参加者:2013年4月1日~2020年12月31日の間にSGLT2i、グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬(GLP-1RA)、ジペプチジルペプチダーゼ4阻害薬(DPP4i)の治療を開始したT2Dの商業保険加入成人(18歳以上)のデータを用いた新規使用者アクティブコンパレータコホート試験。2021年7月から2023年6月までのデータを解析した。
曝露:SGLT2i、GLP-1RA、DPP4iの新規投与開始。
主要アウトカムと評価基準:主要アウトカムは入院または外来で国際疾病分類コードにより診断された腎石症。SGLT2iの新規使用者とGLP-1RAまたはDPP4iの新規使用者を1対1の傾向スコアでマッチさせ、一対比較した。発生率、発生率の差(RD)、推定ハザード比(HR)、95%CIを算出した。
結果:1対1の傾向スコアマッチング後、SGLT2iまたはGLP-1RAを開始した成人T2D患者716,406例(358組203例)(平均年齢は両群とも61.4[SD 9.7]歳、女性 51.4% vs. 51.2%、男性 48. 6% vs. 男性48.5%)およびSGLT2iまたはDPP4iを開始した成人662,056例(331,028組)(平均年齢 61.8[SD 9.3] vs. 61.7[SD 10.1]歳、女性 47.4% vs. 47.3%、男性 52.6% vs. 52.7%)を対象とした。追跡期間中央値192日(IQR 88〜409)において、SGLT2iを開始した患者では、GLP-1RAを開始した患者よりも腎石症のリスクが低かった(1,000人・年あたり14.9イベント vs. 21.3イベント;HR 0.69[95%CI 0.67〜0.72];RD -6.4[95%CI -7.1 〜 5.7])またはDPP4i(1,000人・年当たり14.6件 vs. 19.9件;HR 0.74[95%CI 0.71〜0.77];RD -5.3[95%CI -6.0 〜 4.6])。SGLT2iの使用と腎石症リスクとの関連は、性別、人種・民族、慢性腎臓病の既往、肥満によっても同様であった。SGLT2i使用によるリスク減少の大きさは、70歳未満と70歳以上の成人において大きかった(HR 0.85[95%CI 0.79〜0.91];RD 1,000人・年当たり -3.46[95%CI -4.87 ~ -2.05];交互作用P<0.001)。
結論と関連性:これらの知見は、成人のT2D患者において、SGLT2iの使用はGLP-1RAやDPP4isと比較して腎石症のリスクを低下させる可能性があることを示唆しており、腎石症を発症するリスクのある患者に糖低下薬を処方する際の意思決定に役立つ可能性がある。
引用文献
Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibitors and Nephrolithiasis Risk in Patients With Type 2 Diabetes
Julie M Paik et al. PMID: 38285598 PMCID: PMC10825784 (available on 2025-01-29) DOI: 10.1001/jamainternmed.2023.7660
JAMA Intern Med. 2024 Jan 29:e237660. doi: 10.1001/jamainternmed.2023.7660. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38285598/
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