子癇前症のリスクを軽減するためのカルシウム予防投与量はどのくらいが良いのか?
世界保健機関(WHO)は、子癇前症のリスクを軽減するため、食事からのカルシウム摂取量が少ない集団の妊娠者(妊婦)に対して、1日1,500~2,000mgのカルシウムを3回に分けて補給することを推奨しています。しかし、この用量・投与方法は複雑であるため、実施の障壁となっています。
そこで今回は、1日500mgのカルシウム補充量と1日1,500mgのカルシウム補充量の非劣性を評価するために実施されたランダム化比較試験の結果についてご紹介します。
インドとタンザニアでカルシウム補充に関する2件の独立したランダム化比較試験が実施されました。各試験において、2つの主要アウトカムは子癇前症および早産であり、相対リスクの非劣性マージンはそれぞれ1.54および1.16でした。
試験結果から明らかになったことは?
各試験には合計11,000例の未経産妊婦が組み入れられました。
子癇前症の累積発生率 | Ca 500mg群 | Ca 1,500mg群 | 相対リスク |
インドの試験 | 3.0% | 3.6% | 0.84(95%CI 0.68~1.03) 非劣性マージン 1.54 |
タンザニアの試験 | 3.0% | 2.7% | 1.10(95%CI 0.88~1.36) 非劣性マージン 1.16 |
子癇前症の累積発生率は、インドの試験では500mg群で3.0%、1,500mg群で3.6%(相対リスク 0.84、95%信頼区間[CI] 0.68~1.03)、タンザニアの試験ではそれぞれ3.0%、2.7%(相対リスク 1.10、95%CI 0.88~1.36)であり、両試験における低用量の非劣性と一致する所見でした。
早産児の割合 | Ca 500mg群 | Ca 1,500mg群 | 相対リスク |
インドの試験 | 11.4% | 12.8% | 0.89(95%CI 0.80~0.98) 非劣性マージン 1.54 |
タンザニアの試験 | 10.4% | 9.7% | 1.07(95%CI 0.95~1.21) 非劣性マージン 1.16 |
早産児の割合は、インドの試験では500mg群で11.4%、1,500mg群で12.8%(相対リスク 0.89、95%CI 0.80~0.98)であり、これは非劣性マージンの1.16以内でした。タンザニア試験では、それぞれの割合は10.4%、9.7%(相対リスク 1.07、95%CI 0.95~1.21)であり、非劣性マージンを超えていました。
コメント
妊婦におけるカルシウム補充の用量において、WHOの推奨と実臨床での乖離が課題となっています。
さて、2件のランダム化比較試験の結果、低用量カルシウム補充は高用量カルシウム補充に対して子癇前症のリスクに関して非劣性でした。低用量は500mg/日であり、日本で推奨されている補充量650mgと同程度です。一方、早産リスクについては非劣性の基準を満たすことができませんでした。とはいえ、リスク増加は過度に大きくないことから、許容できるか否かは患者背景によると考えられます。
少なくとも妊婦転帰に大きく影響する子癇前症の発生リスクについては非劣性であることから、カルシウムの用量は500mgでもよさそうです。
続報に期待。
✅まとめ✅ 2件のランダム化比較試験において、低用量カルシウム補充は高用量カルシウム補充に対して子癇前症のリスクに関して非劣性であった。
根拠となった試験の抄録
背景:世界保健機関(WHO)は、子癇前症のリスクを軽減するため、食事からのカルシウム摂取量が少ない集団の妊娠者に対して、1日1,500~2,000mgのカルシウムを3回に分けて補給することを推奨している。しかし、この投与法は複雑であるため、実施の障壁となっている。
方法:1日500mgのカルシウム補充量と1日1,500mgのカルシウム補充量の非劣性を評価するために、インドとタンザニアでカルシウム補充に関する2件の独立したランダム化比較試験を実施した。各試験において、2つの主要アウトカムは子癇前症および早産であり、相対リスクの非劣性マージンはそれぞれ1.54および1.16であった。
結果:各試験には合計11,000例の未経産妊婦が組み入れられた。子癇前症の累積発生率は、インドの試験では500mg群で3.0%、1,500mg群で3.6%(相対リスク 0.84、95%信頼区間[CI] 0.68~1.03)、タンザニアの試験ではそれぞれ3.0%、2.7%(相対リスク 1.10、95%CI 0.88~1.36)であり、両試験における低用量の非劣性と一致する所見であった。早産児の割合は、インドの試験では500mg群で11.4%、1,500mg群で12.8%(相対リスク 0.89、95%CI 0.80~0.98)であり、これは非劣性マージンの1.16以内であった。タンザニア試験では、それぞれの割合は10.4%、9.7%(相対リスク 1.07、95%CI 0.95~1.21)であり、非劣性マージンを超えていた。
結論:これら2件のランダム化比較試験において、低用量カルシウム補充は高用量カルシウム補充に対して子癇前症のリスクに関して非劣性であった。インドでの試験では早産リスクに関して非劣性であったが、タンザニアでの試験では認められなかった。
資金提供:ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団 他
ClinicalTrials.gov番号:NCT03350516
Clinical Trials Registry-India番号:CTRI/2018/02/012119
Tanzania Medicines and Medical Devices Authority Trials Registry番号:TFDA0018/CTR/0010/5
引用文献
Two Randomized Trials of Low-Dose Calcium Supplementation in Pregnancy
Pratibha Dwarkanath et al. PMID: 38197817 DOI: 10.1056/NEJMoa2307212
N Engl J Med. 2024 Jan 11;390(2):143-153. doi: 10.1056/NEJMoa2307212.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38197817/
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