帝王切開分娩後の輸血や死亡リスクに対するトラネキサム酸の予防投与の効果は?
帝王切開分娩時のトラネキサム酸の予防的使用は理論上、出血量を減少させることが示されていますが、輸血の必要性や母体死亡リスクへの影響は不明です。
そこで今回は、米国の病院31施設で帝王切開分娩を受けた患者を、臍帯クランプ後にトラネキサム酸を投与する群とプラセボを投与する群のいずれかにランダムに割り付け、効果検証を行なった二重盲検ランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験の主要アウトカムは、退院時または分娩後7日のいずれか早い時点までの母体死亡または輸血の複合でした。主要副次的アウトカムは、推定1L以上の術中出血(主要副次的転帰として事前に規定)、出血および関連合併症に対する介入、ヘモグロビン値の術前術後変化、産後の感染性合併症でした。また有害事象についても評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
合計11,000例の参加者がランダム化を受けました(トラネキサム酸群:5,529例、プラセボ群:5,471例)。予定帝王切開分娩は、各群の分娩の50.1%と49.2%を占めました。
トラネキサム酸群 | プラセボ群 | 調整相対リスク (95.26%CI) | |
主要アウトカム (退院時または分娩後7日のいずれか早い時点までの母体死亡または輸血の複合) | 5,525例中201例 (3.6%) | 5,470例中233例 (4.3%) | 0.89 (0.74~1.07) P=0.19 |
一次アウトカム事象は、トラネキサム酸群では5,525例中201例(3.6%)、プラセボ群では5,470例中233例(4.3%)に生じました(調整相対リスク 0.89、95.26%信頼区間[CI] 0.74~1.07、P=0.19)。
推定1L以上の術中出血は、トラネキサム酸群では7.3%、プラセボ群では8.0%に認められました(相対リスク 0.91、95%CI 0.79〜1.05)。
出血性合併症に対する介入は、トラネキサム酸群16.1%、プラセボ群18.0%(相対リスク 0.90、95%CI 0.82~0.97)、ヘモグロビン値の変化は-1.8g/dLおよび-1.9g/dL(平均差 -0.1g/dL、95%CI -0.2 ~ -0.1)、産後の感染性合併症はそれぞれ3.2%と2.5%に認められました(相対リスク 1.28、95%CI 1.02~1.61)。
血栓塞栓症イベントおよびその他の有害事象の発生頻度は、両群で同様でした。
コメント
帝王切開は侵襲性の高い手術の一つであることから、母体への輸血が必要となる場合もあります(血液製剤の使用指針-改定版 2005)。出血リスクが高いことは母体死亡リスクとなることから、出血量を抑えることが肝要です。そのためトラネキサム酸の予防的投与は理に適った戦略であるように思われます。
さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、帝王切開分娩時のトラネキサム酸の予防的使用は、プラセボと比較して、母体死亡または輸血の複合転帰のリスクを有意に低下させることはありませんでした。
トラネキサム酸のルーティンな予防的投与は臨床上有効な方法ではないようです。ただし、出血リスクの高い集団においては、異なる結果となる可能性が高いと考えられます。どのような患者背景を有する集団において、トラネキサム酸などの予防的投与が求められるのか、さらなる益が得られるのか検証が求められます。
続報に期待。
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