せん妄を有するICU患者におけるオランザピンの効果はどのくらいか?
非定型抗精神病薬であるオランザピンは、せん妄抑制に最もよく使用される薬剤の一つです。しかし、重症成人のせん妄抑制に対するオランザピンの有効性と安全性に関する系統的な評価やメタ解析は存在しません。
そこで今回は、集中治療室(ICU)に入院中の重症成人のせん妄抑制に対するオランザピンの有効性・安全性を評価したメタ解析の結果をご紹介します。
データベース開始時から2022年10月まで、12の電子データベースが検索されました。せん妄を有する重症成人を対象に、オランザピンとルーチンケア(介入なし)、非薬物介入、薬物介入を含む他の介入の効果を比較したランダム化比較試験(RCT)およびレトロスペクティブ・コホート研究が対象でした。本試験の主要アウトカムは、(a)せん妄症状の緩和、(b)せん妄持続時間の短縮でした。副次的アウトカムは、ICUおよび院内死亡率、ICUおよび入院期間、有害事象の発生率、認知機能、睡眠の質、QOL、機械換気時間、気管内挿管率、せん妄再発率でした。
試験結果から明らかになったことは?
7,076例の患者(オランザピン群 2,459例、対照群 4,617例)が参加した10件の研究(RCT4件、レトロスペクティブ・コホート研究6件)のデータが含まれました。
オッズ比(OR) あるいは 標準化平均差(SMD) | |
せん妄症状 | OR 1.36 (95%CI 0.83〜2.28) p=0.21 |
せん妄の期間 | SMD 0.02 (95%CI -1.04 〜 1.09) p=0.97 |
オランザピンは、他の介入と比較して、せん妄症状を効果的に緩和せず(OR 1.36、95%CI 0.83〜2.28、p=0.21)、せん妄の期間を短縮しませんでした(標準化平均差 SMD 0.02、95%CI -1.04 〜 1.09、p=0.97)。
3試験のプールデータでは、オランザピンの使用により、他の医薬品と比較して低血圧の発生率が低下しました(OR 0.44、95%CI 0.20〜0.95、p=0.04)。
ICUまたは病院滞在期間、院内死亡率、錐体外路反応、QTc間隔延長、その他の有害反応の総合発生率など、その他の副次的アウトカムには有意差はありませんでした。
オランザピンと介入なしとの比較を行うには、対象となった研究数は不充分でした。
コメント
せん妄とは、脳の機能低下に伴う注意力や思考力が低下している状態のことです。一般に精神状態に異常を来しているものを指します。一時的な症状で終わることもありますが、数ヵ月以上もせん妄の状態が続き、そのまま昏睡状態に陥るケースもまれにあるため注意が必要を要します。
せん妄が起こりやすい要因として、ICU入室があげられます。したがって、ICU患者におけるせん妄コントロールが重要です。
さて、本試験結果によれば、他の介入と比較して、オランザピンは重症成人におけるせん妄症状の緩和およびせん妄持続時間の短縮に優位性を示しませんでした。ただし、本メタ解析に組み入れられた研究は、最大でも10研究(RCT4件、レトロスペクティブ・コホート研究6件)です。アウトカムによっては、異質性(I2)が90%を超えており、結果を統合しない方が良いと考えられます。
したがって、現時点では、ICU患者のせん妄に対してオランザピンは効果がない、と結論づけられません。
続報に期待。
✅まとめ✅ 他の介入と比較して、オランザピンは重症成人におけるせん妄症状の緩和およびせん妄持続時間の短縮に優位性は示されなかったが、汲み入れられた試験数、解析手法に課題が残ることから追試が求められる。
根拠となった試験の抄録
背景:非定型抗精神病薬であるオランザピンは、せん妄抑制に最もよく使用される薬剤の一つである。重症成人における譫妄抑制に対するオランザピンの有効性と安全性に関する系統的な評価やメタ解析は存在しない。
目的:本メタ解析では、集中治療室(ICU)に入院中の重症成人におけるせん妄抑制に対するオランザピンの有効性・安全性を評価した。
データソースと方法:開始時から2022年10月まで、12の電子データベースを検索した。せん妄を有する重症成人を対象に、オランザピンとルーチンケア(介入なし)、非薬物介入、薬物介入を含む他の介入の効果を比較したランダム化比較試験(RCT)およびレトロスペクティブ・コホート研究を検索した。
主要アウトカム指標は、(a)せん妄症状の緩和、(b)せん妄持続時間の短縮であった。副次的アウトカムは、ICUおよび院内死亡率、ICUおよび入院期間、有害事象の発生率、認知機能、睡眠の質、QOL、機械換気時間、気管内挿管率、せん妄再発率。ランダム効果モデルを適用した。
結果:7,076例の患者(オランザピン群 2,459例、対照群 4,617例)が参加した10件の研究(RCT4件、レトロスペクティブ・コホート研究6件)のデータが含まれた。オランザピンは、他の介入と比較して、せん妄症状を効果的に緩和せず(OR 1.36、95%CI 0.83〜2.28、p=0.21)、せん妄の期間を短縮しなかった(標準化平均差 SMD 0.02、95%CI -1.04 〜 1.09、p=0.97)。3試験のプールデータでは、オランザピンの使用により、他の医薬品と比較して低血圧の発生率が低下した(OR 0.44、95%CI 0.20〜0.95、p=0.04)。ICUまたは病院滞在期間、院内死亡率、錐体外路反応、QTc間隔延長、その他の有害反応の総合発生率など、その他の副次的アウトカムには有意差はなかった。オランザピンと介入なしとの比較を行うには、対象となった研究数は充分ではなかった。
結論:他の介入と比較して、オランザピンは重症成人におけるせん妄症状の緩和およびせん妄持続時間の短縮に優位性はない。しかし、オランザピンを投与された患者では、他の医薬介入を受けた患者よりも低血圧の発生率が低いというエビデンスがある。ICUまたは入院期間、院内死亡率、その他の有害反応には有意な差はなかった。本研究は、重症成人におけるせん妄研究および臨床薬物介入戦略のための参考データを提供するものである。
試験登録:Prospective Register of Systematic Reviews(PROSPERO登録番号:CRD42021277232)。
キーワード:せん妄、集中治療室、メタアナリシス、オランザピン、システマティックレビュー
引用文献
Olanzapine for the treatment of ICU delirium: a systematic review and meta-analysis
Si Bo Liu et al. PMID: 36845642 PMCID: PMC9944192 DOI: 10.1177/20451253231152113
Ther Adv Psychopharmacol. 2023 Feb 20;13:20451253231152113. doi: 10.1177/20451253231152113. eCollection 2023.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36845642/
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