高カリウム血症後のRASi中止は死亡や心血管リスクとなりうるのか?
レニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASi)、すなわちアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi)とアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は、高血圧、心筋梗塞、心不全、糖尿病およびタンパク尿性腎臓病の治療において広く用いられている基礎的治療法です(PMID: 29726985、PMID: 28455343、KDIGO2012、PMID: 27748494)。しかし、RASiの潜在的な有用性は、高カリウム血症を引き起こしやすいなどのリスクと比較検討される必要があります(PMID: 28735756)。
日常臨床における報告では、高カリウム血症は、特に重症の高カリウム血症患者や腎臓病または心不全の患者において、RASi治療を中止する重要な危険因子とされています(PMID: 31619367、PMID: 31711387、PMID: 32243669)。RASiの中止は高カリウム血症の再発を防ぐ可能性がある一方で、心血管リスクや死亡を増加させ、患者に害を及ぼす可能性があります(PMID: 32723383、PMID: 33372009、PMID: 32150237)。進行したCKDの場合、腎代替療法までの時間を短縮するためにRASiを中止することが、現在進行中の臨床試験(STOP-ACEi)で検討されているところです。
高カリウム血症を経験した患者においてRASiを中止した場合の影響については、限られた観察研究しか行われていません(PMID: 32243669、PMID: 26619183、PMID: 31606364)。これまでの研究では、交絡因子のコントロールが不充分であったり、使用者偏重、不死時間偏重であったり、急性心不全で入院している患者を選択していたりなどの限界がありました(PMID: 32243669、PMID: 26619183、PMID: 31606364)。このような状況下でのRASi管理に関するエビデンスの欠如は、おそらくこれらの薬剤を維持または中止すべきカリウムの閾値に関して、ガイドラインの推奨が矛盾していることを説明していると考えられます(PMID: 29726985、PMID: 28455343、KDIGO2012、PMID: 27748494)。
そこで今回は、RASi治療を開始した患者のルーチンケアデータを用いて、高カリウム血症を経験した後に治療を中止した患者と治療を継続した患者の転帰を比較した観察研究の結果をご紹介します。本試験のアウトカムは死亡、MACE、高カリウム血症再発リスクでした。
試験結果から明らかになったことは?
高カリウム血症を発症したRASiの新規使用者 5,669例(年齢中央値 72歳、女性 44%)のうち、1,425例(25%)が6ヵ月以内にRASi治療を中止しました。
リスク差、ハザード比 HR(95%CI) RASi治療中止 vs. 治療継続 | |
3年間の死亡リスク | 絶対リスク差 10.8% HR 1.49(1.34~1.64) |
MACE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中入院の複合) | リスク差 4.7% HR 1.29(1.14~1.45) |
高カリウム血症の再発リスク | リスク差 -9.5% HR 0.76(0.69~0.84) |
RASiを継続した場合と比較して、治療中止は3年間の死亡リスク(絶対リスク差 10.8%、HR 1.49、95%CI 1.34~1.64)とMACE(リスク差 4.7%、HR 1.29、1.14~1.45)の上昇と関連していましたが、高カリウム血症の再発リスク(リスク差 -9.5%、HR 0.76、0.69~0.84)については低値でした。得られた結果は、カリウムが>5.0 mmol/Lまたは>5.5 mmol/Lになった後のイベント、治療方針の変更時の打ち切り後、事前に指定したサブグループ間、アルブミン尿の調整後でも一貫して認められました。
コメント
レニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASi)は、心血管・腎イベントのリスク低下を目的として高血圧や腎臓病、心不全などの治療に用いられます。一方で、しばしば高カリウム血症が認められることから治療中止などの対応が求められますが、患者転帰への影響については充分に検証されていません。
さて、本試験結果によれば、高カリウム血症後にRASiを中止すると、高カリウム血症の再発リスクは低下するものの、死亡や心血管イベントのリスクは高くなることが示唆されたました。観察研究の結果であることから、あくまでも仮説生成的な検討結果であることには留意する必要があります。交絡因子の特定が待たれるところではありますが、RASi中止は患者転帰を不良にしてしまうかもしれません。
高カリウム血症後にRASiを中止した場合、高カリウム血症の再発予防対応策を講じつつ、RASi再開についても検討した方が良さそうです。
続報に期待。
☑まとめ☑ 高カリウム血症後にRASiを中止すると、高カリウム血症の再発リスクは低下するが、死亡や心血管イベントのリスクは高くなることが示唆された。
根拠となった試験の抄録
背景:高カリウム血症発症後にレニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASi)を中止することは一般的であるが、RASiの中止は患者の心血管系への有益な作用を奪うという意味で、治療上の妥協点を含む可能性がある。
方法:ルーチンケアでRASiを開始し、高カリウム血症(カリウム>5.0mmol/L)の初回検出エピソードで生存した患者を含むストックホルム・クレアチニン測定(SCREAM)プロジェクトからの観察的研究である。クローニング、打ち切り、重み付けに基づいたターゲットトライアルエミュレーション技術を用い、高カリウム血症後6ヵ月以内にRASiを中止する場合と継続する場合を比較した。アウトカムは、死亡、主要有害心血管イベント(MACE:心血管死、心筋梗塞、脳卒中入院の複合)、高カリウム血症再発の3年リスクとした。
結果:高カリウム血症を発症したRASiの新規使用者 5,669例(年齢中央値 72歳、女性 44%)のうち、1,425例(25%)が6ヵ月以内にRASi治療を中止した。RASiを継続した場合と比較して、治療中止は3年間の死亡リスク(絶対リスク差 10.8%、HR 1.49、95%CI 1.34~1.64)とMACE(リスク差 4.7%、HR 1.29、1.14~1.45)の上昇と関連していたが、高カリウム血症の再発リスク(リスク差 -9.5%、HR 0.76、0.69~0.84)については低値であった。結果は、カリウムが>5.0 mmol/Lまたは>5.5 mmol/Lになった後のイベント、治療方針の変更時の打ち切り後、事前に指定したサブグループ間、アルブミン尿の調整後でも一貫していた。
結論:高カリウム血症後にRASiを中止すると、高カリウム血症の再発リスクは低下するが、死亡や心血管イベントのリスクは高くなることが示唆された。
キーワード:死亡、高カリウム血症、MACE、RASi、Target-trial emulation
引用文献
Stopping renin-angiotensin system inhibitors after hyperkalemia and risk of adverse outcomes
Yang Xu et al. PMID: 34610282 DOI: 10.1016/j.ahj.2021.09.014
Am Heart J. 2022 Jan;243:177-186. doi: 10.1016/j.ahj.2021.09.014. Epub 2021 Oct 2.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34610282/
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