COVID-19治療のおけるレニン・アンギオテンシン系阻害薬は有効なのか?
アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)でレニン・アンギオテンシン系を阻害することにより、COVID-19の臨床転帰が改善されるかどうかについては議論の余地があります。
そこで今回は、ARBであるテルミサルタンを主に用い、COVID-19の重症度への影響について、対照群と比較検討した多施設共同第3相ランダム化比較試験(CLARITY試験)の結果をご紹介します。
本試験の参加者は、アンギオテンシン受容体拮抗薬による治療歴のない18歳以上で、検査で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)感染と確認され、COVID-19管理のために入院した患者でした。試験参加者は、アンギオテンシン受容体拮抗薬(インドではテルミサルタン)またはプラセボ(1:1)を28日間経口投与するようランダムに割り付けられました。
本試験の主要アウトカムは、14日目の修正世界保健機関臨床進行スケール(WHOスケール)を用いたCOVID-19疾患の重症度でした。副次的評価項目は、28日目のWHOスケールスコア、死亡率、集中治療室入室率、呼吸不全とした。解析はintention-to-treat集団において、順序尺度で評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
2020年5月3日から2021年11月13日の間に2,930例が適格性審査を受け、393例がアンギオテンシン受容体拮抗薬(うち388例(98.7%)はテルミサルタン40mg/日)、394例が対照群にランダムに割り付けられました。787例がランダムに割り付けられましたが、そのうち778例(98.9%)がインドから、9例(1.1%)がオーストラリアから参加しました。
ARB群 (384例) | プラセボ群 (382例) | 調整オッズ比 OR (95%CI) | |
14日目のWHOスケールスコア(中央値) | 1 (四分位範囲 1-1) | 1 (四分位範囲 1-1) | OR 1.51 (1.02~2.23) Pr(OR>1)=0.98 |
28日目のWHOスケールスコア(中央値) | – | – | OR 1.02 (0.55~1.87) Pr(OR>1)=0.53 |
14日目のWHOスケールスコアの中央値は、アンギオテンシン受容体拮抗薬投与群384例で1(四分位範囲 1-1)、プラセボ投与群382例で1(1-1)であり、調整オッズ比は1.51(95%信頼区間 1.02~2.23、1以上の確率(Pr(OR>1)=0.98)でした。
28日目のWHOスケールスコアでは、群間差はほとんど認められませんでした(1.02、0.55~1.87、Pr(OR>1)=0.53)。
本試験は、事前に設定された無益性基準が満たされた時点で中止されました。
コメント
2019年、ACE2タンパク発現とRAS阻害薬との関連性が報告されてきました。COVID-19の病原体であるSARS-CoV-2は、ACE2を介してヒトの細胞に侵入すること、RAS阻害薬使用により各組織におけるACE2タンパク発現が増加すること、これら2つの知見が示されたためです。
基礎研究では、RAS阻害薬がACE2タンパク発現を増加し、COVID-19の重症化を引き起こす可能性に注目が集まっていますが、実社会における影響は明らかとなっていません。これまでの報告では、多数の観察研究によりRAS阻害薬とCOVID-19重症化との関連性は示されていませんが、観察研究の結果は、多くの交絡因子の影響を受けていることから、ランダム化比較試験の実施が求められています。
さて、本試験結果によれば、酸素吸入を必要としない軽症のCOVID-19患者において、アンギオテンシン受容体拮抗薬(主にテルミサルタン40mg/日)による治療は、対照群と比較して、重症度スコアに基づく有益性のエビデンスが示されませんでした。
理論的にはACE2を介したCOVID-19発症や重症度への影響がありそうですが、実臨床におけるアンギオテンシン受容体拮抗薬の影響はなさそうです。
✅まとめ✅ 酸素吸入を必要としない軽症のCOVID-19患者において、アンギオテンシン受容体拮抗薬(主にテルミサルタン40mg/日)による治療は、重症度スコアに基づく有益性のエビデンスを認めなかった。
根拠となった試験の抄録
目的:アンジオテンシン受容体拮抗薬でレニン・アンギオテンシン系を阻害することにより、COVID-19の臨床転帰が改善されるかどうかを明らかにすること。
試験デザイン:CLARITYは、実用的で適応性のある多施設共同第3相ランダム化比較試験である。
試験設定:インドとオーストラリアの病院17施設
試験参加者:参加者は、アンギオテンシン受容体拮抗薬による治療歴のない18歳以上で、検査で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)感染と確認され、COVID-19管理のために入院した患者。
介入:アンギオテンシン受容体拮抗薬(インドではテルミサルタン)またはプラセボ(1:1)を28日間経口投与。
主要アウトカム:主要アウトカムは、14日目の修正世界保健機関臨床進行スケール(WHOスケール)を用いたCOVID-19疾患の重症度とした。副次的評価項目は、28日目のWHOスケールスコア、死亡率、集中治療室入室率、呼吸不全とした。解析はintention-to-treat集団において、順序尺度で評価した。
結果:2020年5月3日から2021年11月13日の間に2,930例が適格性審査を受け、393例がアンギオテンシン受容体拮抗薬(うち388例(98.7%)はテルミサルタン40mg/日)、394例が対照群にランダムに割り付けられた。787例がランダムに割り付けられたが、そのうち778例(98.9%)がインドから、9例(1.1%)がオーストラリアからであった。14日目のWHOスケールスコアの中央値は、アンギオテンシン受容体拮抗薬投与群384例で1(四分位範囲 1-1)、プラセボ投与群382例で1(1-1)だった(調整オッズ比 1.51、95%信頼区間 1.02~2.23、1以上の確率(Pr(OR>1)=0.98)。28日目のWHOスケールスコアでは、群間差はほとんど認められなかった(1.02、0.55~1.87、Pr(OR>1)=0.53)。本試験は、事前に設定された無益性基準が満たされた時点で中止された。
結論:酸素吸入を必要としない軽症のCOVID-19患者において、アンギオテンシン受容体拮抗薬(主にテルミサルタン40mg/日)による治療は、重症度スコアに基づく有益性のエビデンスを認めなかった。
臨床試験登録:ClinicalTrials.gov NCT04394117.
引用文献
Angiotensin receptor blockers for the treatment of covid-19: pragmatic, adaptive, multicentre, phase 3, randomised controlled trial
Meg J Jardine et al. PMID: 36384746 PMCID: PMC9667467 DOI: 10.1136/bmj-2022-072175
BMJ. 2022 Nov 16;379:e072175. doi: 10.1136/bmj-2022-072175.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36384746/
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