急性非心臓塞栓性虚血性脳卒中後の脳梗塞や脳出血に対する第XIa因子阻害剤アスンデキサンの効果はどのくらいですか?(BD-RCT; PACIFIC-Stroke試験; Lancet 2022)

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開発中の第XIa因子阻害剤の有効性と安全性はどのくらいなのか?

第XI因子(FXI)は血栓形成に深く関わっていますが、止血への関与は部分的であることが明らかになっています。したがって、FXIの活性阻害によって、出血リスクを高めずに病的血栓形成を抑制できる可能性が示唆されており、新たな抗凝固薬開発のターゲットになっています。Asundexian(アスンデキサン:Bayer AG, Leverkusen, Germany)は経口低分子第XIa因子(FXIa)阻害薬であり、出血を増加させずに血栓症を予防する可能性があります。しかし、脳卒中再発の二次予防効果は不明です。

そこで今回は、45歳以上で、抗血小板療法を受け、ベースラインのMRI検査が可能な急性非心臓塞栓性虚血性脳卒中後の患者(ランダム化前または72時間以内)を対象に、無症候性脳梗塞(隠れ脳梗塞)と症候性虚血性脳卒中の再発、出血について検証したPACIFIC-Stroke試験の結果をご紹介します。

本試験は、ランダム化二重盲検プラセボ対照第2b相用量設定試験(PACIFIC-Stroke)であり、急性(48時間以内)の非心臓塞栓性虚血性脳卒中患者を23ヵ国の196病院から募集しました。対象者は、インタラクティブウェブベース回答システムを用いて、予想される抗血小板療法(単剤と二剤)に応じて層別化され、通常の抗血小板療法に加えて、アスンデキサン(BAY 2433334)10mg、20mg、50mg、またはプラセボの1日1回経口投与にランダム(1:1:1:1)に割り付けられ、26~52週間の治療中のフォローアップが行われました。脳MRIは試験開始時、26週時、または治療中止後できるだけ早い時期に撮影されました。本試験の有効性の主要評価項目は、ランダム化後26週間までにMRIで検出された隠れ脳梗塞と症候性虚血性脳卒中の再発の複合に対する用量反応性効果であり、安全性の主要評価項目は、国際血栓止血学会の基準による大出血または臨床的意義のある非大出血とされました。

試験結果から明らかになったことは?

2020年6月15日から2021年7月22日の間に、1,880例の患者がスクリーニングされ、1,808例がアスンデキサン10mg(455例)、20mg(450例)、50mg(447例)、またはプラセボ(456例)にランダムに割り当てられました。平均年齢は67歳(SD 10)、女性615例(34%)、男性1,193例(66%)、白人1,505例(83%)、アジア人268例(15%)でした。脳卒中の指標からランダム化までの平均時間は36時間(SD 10)、ベースラインのNational Institutes of Health Stroke Scaleスコアの中央値は2.0(IQR 1.0〜4.0)でした。783例(43%)がランダム化後、平均70.1日(SD 113.4)の間、二重抗血小板療法を受けました。

26週時点の主要評価項目
ランダム化後26週間までにMRIで検出された隠れ脳梗塞と
症候性虚血性脳卒中の再発の複合
粗発生比
[90%CI]
アスンデキサン10mg群86/455例(19%)0.99
0.79〜1.24
アスンデキサン20mg群99/450例(22%)1.15
0.93〜1.43
アスンデキサン50mg群90/447例(20%)1.06
0.85〜1.32
t統計量 -0.68;p=0.80
プラセボ群87/456例(19%)Reference

26週時点の主要評価項目(ランダム化後26週間までにMRIで検出された隠れ脳梗塞と症候性虚血性脳卒中の再発の複合)は、プラセボ群456例中87例(19%)に対し、アスンデキサン10mg群455例中86例(19%)(粗発生比 0.99[90%CI 0.79〜1.24])、アスンデキサン20mg群450例中99例(22%)(1.15 [0.93〜1.43])、アスンデキサン50mg群447例中90例(20%)(1.06 [0.85〜1.32]、t統計量 -0.68;p=0.80)でした。

安全性の主要評価項目
国際血栓止血学会の基準による大出血または
臨床的意義のある非大出血
アスンデキサン10mg群19/445例(4%)
アスンデキサン20mg群14/446例(3%)
アスンデキサン50mg群19/443例(4%)
プラセボ群11/452例(2%)

安全性の主要評価項目(国際血栓止血学会の基準による大出血または臨床的意義のある非大出血)は、プラセボ群452例中11例(2%)に対して、アスンデキサン10mg群445例中19例(4%)、アスンデキサン20mg群446例中14例(3%)、アスンデキサン50mg群443例中19例(4%)に認められた(全用量プール vs. プラセボ:ハザード比 1.57[90%CI 0.91〜2.71])。

コメント

新たな抗凝固薬開発のターゲットとして、第XI因子(FXI)が注目されており、経口低分子第XIa因子(FXIa)阻害薬の開発が進められています。

さて、本試験結果によれば、アスンデキサンによるFXIa阻害は、急性非心臓塞栓性虚血性脳卒中患者において、プラセボと比較して、隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)または虚血性脳卒中の複合を減少させず、大出血または臨床的に関連する非大出血の複合を増加させないことが示されました。

残念ながら、出血リスクを最小限にして無症候性脳梗塞または虚血性脳卒中再発の発生を抑制することができませんでした。区間推定値からみて薬剤の有効性を期待することは難しいと考えられます。

FXIa阻害薬としては、アスンデキサン以外にも開発が進んでいます。そちらに期待したいところです。

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✅まとめ✅ アスンデキサンによるFXIa阻害は、急性非心臓塞栓性虚血性脳卒中患者において、プラセボと比較して、無症候性脳梗塞または虚血性脳卒中再発の複合を減少できなかった。大出血または臨床的に関連する非大出血の複合は増加傾向であった。

根拠となった試験の抄録

背景:Asundexian(アスンデキサン:Bayer AG, Leverkusen, Germany)は経口低分子第XIa因子(FXIa)阻害薬であり、出血を増加させずに血栓症を予防する可能性がある。しかし、脳卒中再発の二次予防効果は不明である。

方法:このランダム化二重盲検プラセボ対照第2b相用量設定試験(PACIFIC-Stroke)では、急性(48時間以内)の非心臓塞栓性虚血性脳卒中患者を23ヵ国の196病院から募集した。対象は、45歳以上で、抗血小板療法を受け、ベースラインのMRI検査が可能な患者(ランダム化前または72時間以内)であった。対象者は、インタラクティブウェブベース回答システムを用いて、予想される抗血小板療法(単剤と二剤)に応じて層別化され、通常の抗血小板療法に加えて、アスンデキサン(BAY 2433334)10mg、20mg、50mg、またはプラセボの1日1回経口投与にランダム(1:1:1:1)に割り付けられ、26~52週間の治療中のフォローアップが行われた。脳MRIは試験開始時、26週時、または治療中止後できるだけ早い時期に撮影された。
有効性の主要評価項目は、ランダム化後26週間までにMRIで検出された隠れ脳梗塞と症候性虚血性脳卒中の再発の複合に対する用量反応性効果であった。
安全性の主要評価項目は、国際血栓止血学会の基準による大出血または臨床的意義のある非大出血とした。
有効性評価項目は、治療に割り付けられたすべての参加者を対象に評価され、安全性評価項目は、少なくとも1回、試験治療を受けたすべての参加者を対象に評価された。
本試験はClinicalTrials.govのNCT04304508に登録されており、現在、終了している。

所見:2020年6月15日から2021年7月22日の間に、1,880例の患者がスクリーニングされ、1,808例がアスンデキサン10mg(455例)、20mg(450例)、50mg(447例)、またはプラセボ(456例)にランダムに割り当てられた。平均年齢は67歳(SD 10)、女性615例(34%)、男性1,193例(66%)、白人1,505例(83%)、アジア人268例(15%)であった。脳卒中の指標からランダム化までの平均時間は36時間(SD 10)、ベースラインのNational Institutes of Health Stroke Scaleスコアの中央値は2.0(IQR 1.0〜4.0)であった。783例(43%)がランダム化後、平均70.1日(SD 113.4)の間、二重抗血小板療法を受けた。
26週時点の主要評価項目は、プラセボ群456例中87例(19%)に対し、アスンデキサン10mg群455例中86例(19%)(粗発生比 0.99[90%CI 0.79〜1.24])、アスンデキサン20mg群450例中99例(22%)(1.15 [0.93〜1.43])、アスンデキサン50mg群447例中90例(20%)(1.06 [0.85〜1.32]、t統計量 -0.68;p=0.80)であった。
安全性の主要評価項目は、プラセボ群452例中11例(2%)に対して、アスンデキサン10mg群445例中19例(4%)、アスンデキサン20mg群446例中14例(3%)、アスンデキサン50mg群443例中19例(4%)に認められた(全用量プール vs. プラセボ:ハザード比 1.57[90%CI 0.91〜2.71])。

解釈:この第2b相試験において、アスンデキサンによるFXIa阻害は、急性非心臓塞栓性虚血性脳卒中患者において、プラセボと比較して、隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)または虚血性脳卒中の複合を減少させず、大出血または臨床的に関連する非大出血の複合を増加させないことが示された。

資金提供:Bayer AG

引用文献

Factor XIa inhibition with asundexian after acute non-cardioembolic ischaemic stroke (PACIFIC-Stroke): an international, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2b trial
Ashkan Shoamanesh et al. PMID: 36063821 DOI: 10.1016/S0140-6736(22)01588-4
Lancet. 2022 Sep 2;S0140-6736(22)01588-4. doi: 10.1016/S0140-6736(22)01588-4. Online ahead of print.
— 読み進める www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(22)01588-4/fulltext

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