糖尿病患者の年間eGFR減少率においてSGLT2阻害薬間で差はないかもしれない(代用のアウトカム; データベース研究; Kidney Int. 2022)

two people holding pineapple fruit on their palm 05_内分泌代謝系
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個々のSGLT2阻害薬によって、糖尿病患者のeGFR減少率に差はあるのか?

糖尿病患者は世界的に増加していることが国際糖尿病連合(IDF)から報告されています。この報告(糖尿病アトラス)によれば、世界の糖尿病人口は5億3,700万人。成人の10人に1人(10.5%)が糖尿病に罹患しています。糖尿病アトラスでは、世界を7地域に区分し統計値を出しています。この7地域の中で日本が含まれる「西太平洋地域」は、世界でもっとも糖尿病人口の多く、成人2億600万人(8人に1人)が糖尿病とともに生きていることになります。全世界の糖尿病人口の38%以上がこの地域に集中しています。この地域の糖尿病人口は、2030年までに2億3,800万人、2045年までに27%増えて2億6,000万人に増加すると予想されています。

糖尿病の治療は基本的に運動療法・食事療法です。これらを行っても血糖コントロール(空腹時血糖、HbA1cなど)が不良の場合に、薬物療法が開始されます。薬物治療として、多くの薬効群が販売されており、中でもグルカゴン様タンパク質(GLP)-1受容体作動薬およびナトリウム・グルコース・共輸送体2(SGLT2)阻害薬に注目が集まっています。

SGLT2阻害薬は近位尿細管においてグルコースの再吸収を阻害して尿糖排泄量を増加させることにより、インスリン非依存的に血糖値を低下させます。これまでの大規模臨床試験の結果、一部のSGLT2阻害薬において、プラセボと比較して、心血管イベントや腎臓インベントの発症抑制効果が示されています。しかし、個々のSGLT2阻害薬間で腎臓の転帰を比較したデータは限られています。

そこで今回は、個々のSGLT2阻害剤間の腎臓の転帰のその後のリスクを比較したデータベース研究の結果をご紹介します。

本試験は、大規模な実世界のデータセットを用いて、個々のSGLT2阻害薬で新規治療を受けた糖尿病患者の腎臓の転帰を比較した最初の研究です。本研究では、異なるSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン:2,573例、ダパグリフロジン:2,214例、カナグリフロジン:2,100例、その他のSGLT2阻害剤:5,213例)を服用していた糖尿病患者12,100例の結果を解析しました。本試験の主要評価項目は、非構造化共分散を用いた線形混合効果モデルにより評価した推定糸球体濾過量(eGFR)低下率でした。

試験結果から明らかになったことは?

患者の年齢中央値は53歳で、84.4%が男性でした。空腹時血糖値およびHbA1c値の中央値はそれぞれ147(四分位範囲 126〜178)mg/dLおよび7.5(6.9〜8.4)%でした。eGFR中央値は78 mL/min/1.73m2(四分位範囲 68〜90)、平均フォローアップ期間は773日でした。

年間eGFR勾配 ml/min/1.73m2
(95%信頼区間、CI)
エンパグリフロジン-1.15
-1.33 ~ -0.96
ダパグリフロジン-1.14
-1.32 ~ -0.96
カナグリフロジン-1.24
-1.44 ~ 1.04
その他のSGLT2阻害薬-1.06
-1.18 ~ 0.94

エンパグリフロジン、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、その他のSGLT2阻害薬の年間eGFR勾配は、それぞれ-1.15(95%信頼区間 -1.33 ~ -0.96)、-1.14(-1.32 ~ -0.96)、-1.24(-1.44 ~ 1.04)、-1.06(-1.18 ~ 0.94)ml/min/1.73m2でした。

線形混合効果モデルを用いて、SGLT2阻害剤と時間との間に有意な相互作用は検出されませんでした。多くの感度分析により、主要な結果の頑健性が確認されました。

コメント

SGLT2阻害薬の有用な結果が報告されていますが、いずれもプラセボ対照の大規模臨床試験であることから、SGLT2阻害薬間の比較結果が求められます。

さて、本試験結果によれば、エンパグリフロジン、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、その他のSGLT2阻害剤を服用した患者間において、年間のeGFR低下勾配に有意な差はありませんでした。リアルワールドデータの結果であることから、異なる国や地域で同様の結果が得られるのかについては不明です。

続報に期待。

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✅まとめ✅ データベース研究の結果、エンパグリフロジン、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、その他のSGLT2阻害剤を服用した患者間において、年間のeGFR低下勾配に有意な差はなかった。

根拠となった試験の抄録

背景:ナトリウム・グルコース・コトランスポーター-2(SGLT2)阻害剤の個々の薬剤間で腎臓の転帰を比較したデータは限られている。ここでは、個々の阻害剤間の腎臓の転帰のその後のリスクを比較することを目的とした。

方法:大規模な実世界のデータセットを用いて、個々のSGLT2阻害剤で新規治療を受けた糖尿病患者の腎臓の転帰を比較した最初の研究となる。そのために、異なるSGLT2阻害剤(エンパグリフロジン:2,573例、ダパグリフロジン:2,214例、カナグリフロジン:2,100例、その他のSGLT2阻害剤:5,213例)を服用していた糖尿病患者12,100例の結果を解析した。主要評価項目は、非構造化共分散を用いた線形混合効果モデルにより評価した推定糸球体濾過量(eGFR)低下率とした。

結果:患者の年齢中央値は53歳で、84.4%が男性であった。空腹時血糖値およびHbA1c値の中央値はそれぞれ147(四分位範囲 126〜178)mg/dLおよび7.5(6.9〜8.4)%であった。eGFR中央値は78 mL/min/1.73m2(四分位範囲 68〜90)であった。平均フォローアップ期間は773日であった。エンパグリフロジン、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、その他のSGLT2阻害薬の年間eGFR勾配は、それぞれ-1.15(95%信頼区間 -1.33 ~ -0.96)、-1.14(-1.32 ~ -0.96)、-1.24(-1.44 ~ 1.04)、-1.06(-1.18 ~ 0.94)ml/min/1.73m2であった。線形混合効果モデルを用いて、SGLT2阻害剤と時間との間に有意な相互作用は検出されなかった。多くの感度分析により、主要な結果の頑健性が確認された。

結論:異なるSGLT2阻害剤を服用した患者間で、年間のeGFR低下勾配に有意な差はないことがわかった。

キーワード:SGLT2阻害剤、糖尿病、推定糸球体濾過量減少率

引用文献

Kidney outcomes in patients with diabetes mellitus did not differ between individual sodium-glucose cotransporter-2 inhibitors
Yuta Suzuki et al. PMID: 35961884 DOI: 10.1016/j.kint.2022.05.031
Kidney Int. 2022 Aug 4;S0085-2538(22)00510-5. doi: 10.1016/j.kint.2022.05.031. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35961884/

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