駆出率維持および軽度の低下を伴う心不全の最適な薬物治療クラスは?(SR&NMA; JAMA Netw Open. 2022)

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軽度の駆出率低下型(HFmrEF)あるいは駆出率維持型(HFpEF)の心不全に対する最適な薬物治療クラスは?

心不全の患者数は世界で約6,400万人であり、その罹患率と死亡率は極めて高いことが報告されています(PMID: 28919117PMID: 26673558)。最近のガイドラインにおいて心不全は、左室駆出率(LVEF)に基づき、駆出率低下型(HFrEF)、軽度の駆出率低下型(HFmrEF)、駆出率維持型(HFpEF)に分類されています(PMID: 34447992PMID: 35379503)。

30年前から、HFrEFに対する薬物療法は改善され続けています。欧米の臨床ガイドラインでは、HFrEF患者に対する疾患修飾療法として、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、β-ブロッカー、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNI)等が推奨されています(PMID: 34447992PMID: 35379503)。また、これらの薬剤を段階的に併用することにより、HFrEF患者さんのベネフィットを向上させることに貢献しています(PMID: 35097007)。

しかしながら、LVEFの高い心不全に対する薬物療法の開発は、期待に沿うものではありませんでした。ARNI、MRA、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬に関する多くの大規模臨床試験では、HFpEFおよびHFmrEF患者の死亡またはHF入院という主要複合アウトカムにおいて中立的な結果が示された(PMID: 32231333)。しかし、これらの薬剤は、HFpEFとHFmrEFの治療において、HF入院に関するわずかな利益しかないため、米国のガイドラインで推奨されています(PMID: 35379503)。
最近、ある大規模臨床試験において、HFpEFおよびHFmrEF患者において、エンパグリフロジンはプラセボと比較して主要複合エンドポイントであるHF入院または心血管死を有意に改善することが示されましたが、これは死亡率を有意に低下させずにHF入院を減少させることに起因していました(PMID: 34449189)。そのため、最新の米国ガイドラインでは、SGLT2阻害薬は、HFpEFまたはHFmrEFの患者に対して、他の薬剤クラスよりも優先的に推奨されています(PMID: 35379503)。
このような患者群に対してSGLT2阻害薬と他のHF薬効群を比較したhead-to-head試験は存在しません。

ネットワークメタ解析は、head-to-head試験なしに複数の異なる介入を同時に比較する信頼性の高い方法です(PMID: 35097007)。

そこで今回は、ベイジアンネットワークメタ解析を用いて、HFpEFまたはHFmrEF患者に対するこれらのHF治療薬に関連するアウトカムを比較し、高駆動率HF患者に対するこれらの薬剤に関連するベネフィットがHFrEF患者と同様に蓄積されるかどうかを検討した試験の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

この分析では、著しいバイアスリスクのない、駆出率40%以上のHF患者20,633例を含む19件のランダム化比較試験が対象となりました。


vs. プラセボ
SGLT2阻害薬HR 0.71
[95%CrI 0.60〜0.83]
ARNIHR 0.76
[95%CrI 0.61〜0.95]
MRAHR 0.83
[95%CrI 0.69〜0.99]

プラセボと比較して、全死亡や心血管死のリスクを有意に減少させた治療法はありませんでした。SGLT2阻害薬、ARNI、MRAはプラセボと比較して、HF入院のリスクを有意に減少させました(SGLT2阻害薬:HR 0.71 [95%CrI 0.60〜0.83]; ARNI:HR 0.76 [95%CrI 0.61〜0.95]; MRAs: HR 0.83 [95%CrI 0.69〜0.99]) 。

特にSGLT2阻害剤は、HF入院のリスク低減の観点から最適な薬物クラスでした。

感度分析の結果、薬物クラスの使用の増加に伴い、HF入院のリスクは徐々に減少し、平均順位が上昇することが示されました。

コメント

心不全は心臓のポンプ機能の障害により、体組織の代謝に見合う十分な血液を供給できない状態と定義されます。他の疾患に伴い発症するため、疾患というより症候群として捉えられています。以前、心不全は左室収縮力が低下し(左室駆出率が50%未満)、代償的に左室が拡大した “収縮不全” が主たる原因であると考えられていました。しかし、収縮力が保たれているにもかかわらず、心不全症状を示す患者、”拡張不全” を原因とする心不全が半数以上認められることが明らかとなりました。本来は左室の拡張機能の低下が主因で生じる心不全を指しますが、実際には拡張能を正確に評価することが困難なことが多いため、左室駆出率が保たれた心不全 heart failure with preserved ejection fraction(HFpEF)とよばれています。

2017年頃以降、心不全は、左室駆出率(LVEF)に基づき、駆出率低下型(HFrEF)、軽度の駆出率低下型(HFmrEF)、駆出率維持型(HFpEF)の3つに大きく分類されています。駆出率が低い心不全であるHFrEFについては多くの臨床試験で予後が良好となることが報告されています。一方、駆出率が保たれている心不全であるHFpEFについては、心不全による入院や心不全悪化などのソフトアウトカムの改善は示されているものの、死亡リスクを低減する治療法は認められていません。

さて、本試験結果によれば、SGLT2阻害薬はARNI、MRAと比較して、HFpEFおよびHFmrEFに対し最適な薬物クラスであり、最新のガイドラインの推奨と一致することが示唆されました。ただし、いずれの治療法においてもプラセボと比較して、全死亡や心血管死のリスクを有意に減少することはできませんでした。したがって、心不全が増悪しやすい患者においてはSGLT2阻害薬の使用を考慮しても良いのかもしれません。しかし、それ以上の効果は期待できません。

安易に全ての心不全患者へSGLT2阻害薬を使用することは避けた方が良いと考えられます。SGLT2阻害薬を使用する際には、ケトアシドーシスのリスク評価が求められることも念頭におきたいところです。

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✅まとめ✅ ネットワークメタ解析の結果、SGLT2阻害薬はHFpEFおよびHFmrEFに対して最適な薬物クラスであり、最新のガイドラインの推奨と一致することが示唆された。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性:近年、駆出率低下型心不全(HFrEF)の薬物療法は大きく進歩しているが、駆出率維持型心不全(HFpEF)や軽度の駆出率低下型心不全(HFmrEF)に対する薬物療法はまだ十分な根拠が得られていない。

試験の目的:HFpEFとHFmrEFの治療において、異なる薬剤の組み合わせに関連する転帰を比較すること。

データソース:PubMed、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)データベースの検索を行い、創刊から2021年10月9日までに発表された試験を対象とした。

研究の選択:HFpEFまたはHFmrEF患者に対するアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNI)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、β遮断薬、ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害剤の使用に関するランダム化比較試験。

データの抽出と統合:データ抽出とバイアス評価は、PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analyses)ガイドラインに従い、2名の査読者が独立して行った。3つのアウトカムに関する全データを固定効果モデルでプールした。

主要アウトカムと測定法:主要アウトカムは、HFによる初回入院、全死亡、心血管死亡とした。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CrI)はベイジアンネットワークメタ分析モデルで評価した。

結果:この分析では、著しいバイアスリスクのない、駆出率40%以上のHF患者20,633例を含む19件のランダム化比較試験が対象となった。プラセボと比較して、全死亡や心血管死のリスクを有意に減少させた治療法はなかった。SGLT2阻害薬、ARNI、MRAはプラセボと比較して、HF入院のリスクを有意に減少させた(SGLT2阻害薬:HR 0.71 [95%CrI 0.60〜0.83]; ARNI:HR 0.76 [95%CrI 0.61〜0.95]; MRAs:HR 0.83 [95%CrI 0.61〜0.95]; MRAs: HR 0.83 [95%CrI 0.69〜0.99]) であり、SGLT2阻害剤は、HF入院リスクの低減の観点から最適な薬物クラスであった。感度分析の結果、薬物クラスの使用の増加に伴い、HF入院のリスクは徐々に減少し、平均順位が上昇することが示された。

結論と関連性:本研究の結果、SGLT2阻害薬はHFpEFおよびHFmrEFに対して最適な薬物クラスであり、最新のガイドラインの推奨と一致することが示唆された。SGLT2阻害薬、ACE阻害薬またはARB、β遮断薬の組み合わせによる増量は、HFpEFおよびHFmrEF患者の全死亡ではなく、HF入院における累積利益と関連する可能性がある。

引用文献

Optimal Pharmacologic Treatment of Heart Failure With Preserved and Mildly Reduced Ejection Fraction: A Meta-analysis
Boyang Xiang et al. PMID: 36125813 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2022.31963
JAMA Netw Open. 2022 Sep 1;5(9):e2231963. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2022.31963.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36125813/

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