ICUの2型糖尿病患者における積極的なスライディングスケールの効果とは?
非集中治療室(ICU)の2型糖尿病患者における高血糖補正のための補助的なスライディングスケールインスリン投与は、基礎-追加インスリンレジメンと共に頻繁に使用されています。しかし、非ICUの2型糖尿病患者において、積極的なスライディングスケールが有効であるのかどうかについては充分に検証されていません。
そこで今回は、入院時血糖値(BG)140~400mg/dLで基礎-追加インスリン治療を受けている2型糖尿病患者を、食事前と就寝前に漸増で速効型インスリンを集中投与する群(BG>140mg/dLに補正、108例)または非集中投与群(BG>260mg/dLに補正、107例)へランダムに割り付け、積極的なスライディングスケールが有効であるのかどうかを検証した非劣性ランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験では、基礎-追加インスリン治療を受けている患者において、食事前と就寝前に積極的にスライディングスケールインスリンを投与してもしなくても、血糖コントロールが同等であるかどうかを検証しました。本試験の参加者における入院中のBG>260mg/dLに対するスライディングスケールインスリンの投与量は両群とも同量でした。本試験の主要評価項目は、入院中の1日平均BG値の群間差でした。
試験結果から明らかになったことは?
非集中投与群 | 集中投与群 | |
1日平均BG値 | 173±43mg/dL (非劣性マージン18mg/dL) 非劣性P=0.001 | 172±38mg/dL |
非集中投与群の1日平均血糖(BG)値は集中投与群のBG値に対して非劣性でした(集中投与群 172±38mg/dL vs. 非集中投与群 173±43mg/dL、非劣性マージン18mg/dL、非劣性P=0.001)。
目標血糖値 70~180mg/dL、<70mg/dLまたは<54mg/dL(低血糖)、あるいは>350mg/dL(重度の高血糖)の割合、総インスリン量、基礎インスリン量、食前インスリン量に差はありませんでした。
スライディングスケールインスリンの実施は、集中投与群(98例 [91%])と比較して非集中治療群(36例 [34%])で有意に少ないものの、投与量に群間差はありませんでした(集中治療群 7±4単位/日 vs. 非集中治療群 8±4単位/日、P=0.34)。
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入院中の2型糖尿病患者における高血糖補正のための補助的なスライディングスケールインスリン投与は、基礎-追加インスリンレジメンと共に頻繁に使用されています。基礎-追加インスリンレジメンにおいて、カーボカウントなどを除いて、用いられるインスリンの投与量は一定であることが多いですが、入院中患者においては、より細やかなインスリン投与量の調整が行えます。
さて、本試験結果によれば、中等度の高血糖(BG <260mg/dL)で最適な基礎-追加インスリン療法を行っている非ICUの2型糖尿病患者において、より集中的ではないスライディングスケールインスリン療法は血糖コントロールに有意な影響を与えませんでした。ただし、本試験では、スライディングスケールに用いられたインスリン用量が同様であり、したがって、1日平均血糖(BG)値においても群間差が認められなかったことも当然の結果であると考えられます。つまり、1日平均BG値の達成度合いに群間差が認められるような試験プロトコルの実施が求められます(時々ですが、こういう臨床研究があるため、結論を鵜呑みにできません)。他の臨床試験の結果も知りたいところです。
続報に期待。
✅まとめ✅ 中等度の高血糖(BG <260mg/dL)で最適な基礎-追加インスリン療法を行っている非ICUの2型糖尿病患者において、より集中的ではないスライディングスケールインスリン療法は血糖コントロールに有意な影響を与えなかった。
根拠となった試験の抄録
目的:非集中治療室(ICU)の2型糖尿病患者における高血糖補正のための補助的なスライディングスケールインスリン投与は、基礎-追加インスリンレジメンと共に頻繁に使用されている。この非劣性ランダム化比較試験において、基礎-追加インスリン治療を受けている患者において、食事前と就寝前に積極的にスライディングスケールインスリンを投与してもしなくても、血糖コントロールが同等であるかどうかを検証した。
研究デザインおよび方法:入院時血糖値(BG)140~400mg/dLで基礎-追加インスリン治療を受けている2型糖尿病患者を、食事前と就寝前に漸増で速効型インスリンを集中投与する群(BG>140mg/dLに補正、108例)または非集中投与群(BG>260mg/dLに補正、107例)へランダムに割り付けた。BG>260mg/dLに対するスライディングスケールインスリンの投与量は両群とも同量であった。
主要評価項目は、入院中の1日平均BG値の群間差とした。
結果:非集中投与群の1日平均BG値は集中投与群のBG値に対して非劣性であった(集中投与群 172±38mg/dL vs. 非集中投与群 173±43mg/dL、非劣性マージン18mg/dL、非劣性P=0.001)。目標血糖値 70~180mg/dL、<70mg/dL、<54mg/dL(低血糖)、>350mg/dL(重度の高血糖)の割合、総インスリン量、基礎インスリン量、食前インスリン量に差はなかった。スライディングスケールインスリンの実施は、集中投与群(98例 [91%])と比較して非集中治療群(36例 [34%])で有意に少ないものの、投与量に群間差はなかった(集中治療群 7±4単位/日 vs. 非集中治療群 8±4単位/日、P=0.34)。
結論:中等度の高血糖(BG <260mg/dL)で最適な基礎-追加インスリン療法を行っている非ICUの2型糖尿病患者において、より集中的ではないスライディングスケールインスリン療法は血糖コントロールに有意な影響を与えなかった。
引用文献
Efficacy and Safety of Intensive Versus Nonintensive Supplemental Insulin With a Basal-Bolus Insulin Regimen in Hospitalized Patients With Type 2 Diabetes: A Randomized Clinical Study
Priyathama Vellanki et al. PMID: 35675498 DOI: 10.2337/dc21-1606
Diabetes Care. 2022 Jun 8;dc211606. doi: 10.2337/dc21-1606. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35675498/
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