COVID-19発症は帯状疱疹リスクを増加させるのか?
帯状疱疹(HZ)は、潜伏している水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化によって引き起こされ、痛みを伴う小水疱状の皮膚発疹によって特徴付けられます(PMID: 23863052、PMID: 20510263) 。HZのリスク因子には、高齢(50歳以降で発生率が急増)および免疫抑制(例えば、移植患者、悪性腫瘍患者、免疫抑制剤投与中の患者)が含まれます(PMID: 20510263、PMID: 24916088、PMID: 32010734、PMID: 31677266)。 これらの集団におけるHZリスクの上昇は、VZVに特異的な細胞媒介免疫が、ウイルスの潜伏を維持するために必要な閾値以下に低下した結果であると考えられています(PMID: 20510263、PMID: 32010734)。
新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックが始まって以来(WHO)、COVID-19患者におけるHZ症例を説明するいくつかのケースレポートやケースシリーズが発表されており、多くの場合COVID-19診断またはCOVID-19による入院が1週間以内に発生しています(PMID: 33999370)。ブラジル保健省のデータの記述的分析では、2020年3月から8月にかけて、2017年から2019年の同時期と比較して、HZ診断が35%増加したことが示されています(PMID: 34172380)。 同様に、トルコの外来診療所では、2019年の同時期と比較して、2020年5月と6月にHZ感染の倍増が見られました(PMID: 32594828)。 以前、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に感染すると、SARS-CoV-2によるT細胞免疫機能障害の結果、VZVが再活性化するという仮説がありました(PMID: 33999370、PMID: 32282949、PMID: 32399806、PMID: 32227123、PMID: 33937096、PMID: 32203186)。SARS-CoV-2感染がHZを誘発することは生物学的にもっともらしいようですが、COVID-19患者におけるHZリスクを評価する強力な疫学的証拠は今のところありません。
そこで今回は、COVID-19と診断された集団が、COVID-19と診断されなかった集団よりもHZを発症しやすいかどうかを調べるために、行政の医療請求データを用いた後ろ向きコホート研究の結果をご紹介します。
本研究において、50歳以上の高齢者はHZと重症COVID-19の両方のリスクが高いため、50歳以上の高齢者に焦点が当てられました(PMID: 20510263、PMID: 24916088、CDC、CDC)。
試験結果から明らかになったことは?
50歳以上のCOVID-19集団 394,677例と非COVID-19集団 1,577,346例がマッチングされました。COVID-19診断後の平均追跡期間およびベースライン特性はコホート間で均衡がとれていました
帯状疱疹(HZ)の調整後発生率比(aIRR) | |
COVID-19集団 (vs. 非COVID-19集団) | aIRR 1.15 (95%CI 1.07〜1.24) P<0.001 |
COVID-19による入院後 (vs. 非COVID-19集団) | aIRR 1.21 (95%CI 1.03〜1.41) P=0.02 |
COVID-19と診断された集団は、非COVID-19集団に比べてHZリスクが15%高いことが示されました(aIRR 1.15、95%CI 1.07〜1.24; P<0.001)。HZリスクの増加は、COVID-19による入院後により顕著でした(aIRR 1.21、95%CI 1.03〜1.41; P=0.02)。
コメント
COVID-19患者における帯状疱疹の発症リスク増加が報告されています。しかしいずれも小規模かつエビデンスレベルの低い報告であるため、より大規模で質を高めた試験報告が待たれていました。
さて、本試験結果によれば、50歳以上のCOVID-19発症と帯状疱疹の発症リスクに関連性が示されました。ただし、本試験はあくまでも相関関係が示されたに過ぎません。追試が求められます。さらに本試験では帯状疱疹ワクチン接種の有無による比較は実施されていません。したがって、COVID-19患者において、帯状疱疹ワクチン接種が帯状疱疹リスクを軽減できるのかについては不明です。今後の検討結果が待たれます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 50歳以上のCOVID-19発症と帯状疱疹の発症リスクに関連性が示された。帯状疱疹ワクチン接種の有無による比較は実施されなかったため、今後の検討結果が待たれる。
根拠となった試験の抄録
背景:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者における帯状疱疹(HZ)の症例報告がなされている。しかし、これは関連性を示す低質なエビデンスである。そこで、COVID-19診断後のHZ発症リスクを評価するために、後向きコホート研究を実施した。
方法:50歳以上でCOVID-19と診断された者とCOVID-19と診断されなかった者におけるHZ発症率を比較した。US MarketScan Commercial Claims and Encounters and Medicare Supplemental(3/2020-2/2021)and Optum Clinformatics Data Mart(3-12/2020)databasesからのデータを使用した。COVID-19集団は、年齢、性別、HZ危険因子の有無、医療費水準によって、非COVID-19集団と1対4で正確にマッチングされた。調整後発生率比(aIRR)はポアソン回帰により推定した。
結果:50歳以上のCOVID-19集団 394,677例と非COVID-19集団 1,577,346例がマッチングされた。COVID-19診断後の平均追跡期間およびベースライン特性はコホート間で均衡がとれていた。COVID-19と診断された集団は、非COVID-19集団に比べてHZリスクが15%高かった(aIRR 1.15、95%CI 1.07〜1.24; P<0.001)。HZリスクの増加は、COVID-19による入院後により顕著(21%)であった(aIRR 1.21、95%CI 1.03〜1.41; P=0.02)。
結論:50歳以上のCOVID-19診断とHZ発症リスクの有意な上昇が認められ、HZワクチン接種の継続が重要であることが強調された。
キーワード:COVID-19、SARS-CoV-2、コロナウイルス、帯状疱疹(herpes zoster)、帯状疱疹(shingles)
引用文献
Increased Risk of Herpes Zoster in Adults ≥50 Years Old Diagnosed With COVID-19 in the United States
Amit Bhavsar et al. PMID: 35392454 PMCID: PMC8982770 DOI: 10.1093/ofid/ofac118
Open Forum Infect Dis. 2022 Mar 9;9(5):ofac118. doi: 10.1093/ofid/ofac118. eCollection 2022 May.
— 読み進める academic.oup.com/ofid/article/9/5/ofac118/6545460
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