プロトンポンプ阻害薬(PPI)の長期使用は胃がんリスクを高めるのか?(BMJ. 2026)

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北欧5か国・全国規模データからの検討

PPI長期使用の影響とは?

プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、逆流性食道炎や消化性潰瘍などで広く使用されている薬剤です。一方で、「PPIの長期使用は胃がんリスクを高めるのではないか」という懸念が、これまで複数の観察研究で報告されてきました。

しかし、既存研究の多くには

  • 逆因果(診断直前のPPI使用)
  • H. pylori 感染の不十分な調整
  • 胃噴門部がんの混入

といった方法論的な問題が指摘されています。

今回ご紹介する論文は、これらの弱点(試験の限界)を考慮した設計で、PPI長期使用と胃腺癌(非噴門部)との関連を検討した大規模研究です。


試験結果から明らかになったことは?

◆研究の概要

研究デザイン

  • 研究タイプ:人口ベース・症例対照研究
  • データソース:北欧5か国(デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)の全国レジストリ
  • 観察期間:1994年〜2000年

対象

  • 症例:胃腺癌(非噴門部)患者 17,232例
  • 対照:一般人口から無作為抽出された対照 172,297例
  • 症例1例につき、年齢・性別・暦年・国を一致させた10例の対照をマッチング

曝露定義

  • PPI長期使用
    • 1年以上の使用
    • 診断(または対照の登録)前12か月間の使用は除外
  • 比較として H2受容体拮抗薬(H2RA)長期使用 も解析

主要評価項目

  • 胃非噴門部腺癌の発症

◆試験結果

患者背景と曝露状況

項目症例群対照群
対象人数17,232172,297
PPI長期使用1,766例(10.2%)16,312例(9.5%)

主解析結果(多変量調整後)

曝露調整オッズ比95%信頼区間
PPI長期使用1.010.96~1.07
H2RA長期使用1.030.86~1.23

※調整因子

  • Helicobacter pylori 除菌治療歴
  • 消化性潰瘍
  • 喫煙関連疾患
  • アルコール関連疾患
  • 肥満または2型糖尿病
  • メトホルミン、NSAIDs、スタチン使用

この研究から何が言えるか

  • PPIの1年以上の長期使用と、胃非噴門部腺癌との間に関連は認められなかった
  • 同様に、H2受容体拮抗薬でもリスク上昇は認められなかった
  • 過去研究で報告されていた「リスク上昇」は、
    • 診断直前のPPI使用
    • 短期使用の混入
    • 胃噴門部がんの含有
    • H. pylori 関連因子の未調整
      といった要因により、偽陽性となった可能性が示唆された

試験の限界

本研究は方法論的に洗練されていますが、以下の限界があります。

  1. 観察研究である点
    • 因果関係を直接証明するものではない
    • 未測定交絡(食事内容、詳細な喫煙量など)は完全には排除できない
  2. PPI使用量・服薬遵守の詳細が不明
    • 処方データに基づく評価であり、実際の服用状況までは反映されていない
  3. 解析対象が北欧5か国に限定
    • 医療制度・H. pylori 感染率・遺伝背景が異なる地域への一般化には注意が必要
  4. 観察期間が2000年まで
    • 近年のPPI使用実態(より長期・高用量)とは異なる可能性がある

臨床・薬局現場への示唆

  • 適応に基づいたPPIの長期使用そのものが、胃がんリスクを高めるとは言えない
  • 不必要な中止や過度な不安喚起は、現時点ではエビデンスに基づかない
  • 一方で、漫然投与の見直し定期的な適応評価の重要性は変わらない

コメント

◆まとめ

本研究は、北欧5か国の全国規模データを用い、既存研究のバイアスを考慮した設計により、

「PPIの長期使用は、胃非噴門部腺癌のリスク増加と関連しない可能性が高い」

ことを示しました。
PPIと胃がんリスクを巡る議論において、現時点で最も信頼性の高い否定的エビデンスの一つと位置づけられる研究です。

ただし、使用期間は中央値で5年(最長で約9年)であり、より長期で使用した場合の影響については不明です。また症例対照研究であることから、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 欧州の症例対照研究の結果、 プロトンポンプ阻害剤の長期使用は、胃腺癌のリスク増加とは関連していなかった。

根拠となった試験の抄録

目的: 既存の文献の方法論的弱点を考慮した研究を計画することにより、プロトンポンプ阻害剤の長期使用が胃腺癌のリスク増加と関連しているかどうかを明らかにすること。

試験設計: 北欧 5 か国の複数の完全な全国登録から前向きに収集されたデータを使用した人口ベースの症例対照研究。

試験設定: 1994 年から 2000 年までの北欧 5 か国 (デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン) のすべての医療。

試験参加者: 胃腺癌の症例患者。年齢、性別、暦年、国がそれぞれマッチングされ、対照群は各国の全人口からランダムに選ばれた 10 名でした。

曝露: 曝露は、診断日 (症例) または組み入れ日 (対照) 前の 12 ヶ月を除く、長期 (1 年超) のプロトンポンプ阻害薬の使用であった。プロトンポンプ阻害薬の使用に関する知見の妥当性および特異性を評価するため、ヒスタミン 2 受容体拮抗薬の長期 (1 年超) 使用が分析された。主要評価項目: 結果は、胃噴門部以外の腺癌であった。胃噴門部腺癌は、適応症 (すなわち、胃食​​道逆流症) による交絡を避けるため除外した。マッチング変数をコントロールするだけでなく、多変量ロジスティック回帰により、国、ヘリコバクター ピロリの治療、消化性潰瘍疾患、喫煙関連疾患、アルコール関連疾患、肥満または 2 型糖尿病、およびメトホルミン、非ステロイド性抗炎症薬、スタチンによる薬物治療で調整した 95% 信頼区間のオッズ比を求めた。

結果: 本研究には、胃(噴門部以外)腺癌の症例17,232例と対照群172,297例が含まれた。長期プロトンポンプ阻害薬使用は、症例群1,766例(10.2%)、対照群16,312例(9.5%)に認められた。長期プロトンポンプ阻害薬使用と胃腺癌の間には関連は認められなかった(調整オッズ比1.01、95%信頼区間0.96~1.07)。ヒスタミン-2受容体拮抗薬使用のリスクも同様であった(調整オッズ比1.03、0.86~1.23)。偽陽性の関連につながる複数の誤差要因が特定された。胃腺癌診断直前のプロトンポンプ阻害薬使用、プロトンポンプ阻害薬の短期使用、噴門部腺癌、およびヘリコバクター・ピロリ関連変数の調整不足である。

結論: プロトンポンプ阻害剤の長期使用は、胃腺癌のリスク増加とは関連しない可能性がある。

引用文献

Long term use of proton pump inhibitors and risk of stomach cancer: population based case-control study in five Nordic countries
Onyinyechi Duru et al.
BMJ. 2026 Jan 21:392:e086384. doi: 10.1136/bmj-2025-086384.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41565320/

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