― 最新メタ解析が示した「結論」とは
はじめに
妊娠中の解熱鎮痛薬として、アセトアミノフェン(カロナール®、パラセタモール)は長年「比較的安全」とされてきました。
一方で近年、「妊娠中のアセトアミノフェン使用が、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDのリスクを高めるのではないか」という報告があり、世界的に議論となってきました。
こうした背景を受け、2026年に Lancet誌に掲載された最新のシステマティックレビュー・メタ解析 では、これまでの研究を厳密に再評価し、
本当にリスクは増えるのか?
という点が検証されました。
本記事では、その内容をわかりやすく解説します。
試験結果から明らかになったことは?
◆研究の概要
対象論文
- 掲載誌:The Lancet(2026年)
- 研究デザイン:
システマティックレビュー+メタ解析 - 登録:PROSPERO(CRD420251156690)
解析対象
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象研究 | コホート研究 |
| 対象人数 | 43研究(メタ解析に含まれたのは17研究) |
| 対象 | 妊娠中にアセトアミノフェンを使用した母親と児 |
| 評価疾患 | 自閉スペクトラム症(ASD) ADHD 知的障害 |
| 評価方法 | 調整済みオッズ比(OR) |
| 特徴 | 兄弟比較研究(Sibling comparison)を重視 |
※兄弟比較とは「同じ母親から生まれた兄弟で、曝露の有無だけが異なるケース」を比較する方法で、遺伝・家庭環境の影響を最小化できるとされています。
◆主要アウトカム
■ 自閉スペクトラム症(ASD)
| 解析条件 | オッズ比(OR) | 95%信頼区間 | 有意差 |
|---|---|---|---|
| 兄弟比較 | 0.98 | 0.93–1.03 | なし |
| 低バイアス研究のみ | 1.03 | 0.86–1.23 | なし |
■ ADHD
| 解析条件 | OR | 95% CI | 有意差 |
|---|---|---|---|
| 兄弟比較 | 0.95 | 0.86–1.05 | なし |
| 低バイアス研究のみ | 0.97 | 0.89–1.05 | なし |
■ 知的障害
| 解析条件 | OR | 95% CI | 有意差 |
|---|---|---|---|
| 兄弟比較 | 0.93 | 0.69–1.24 | なし |
| 低バイアス研究のみ | 1.11 | 0.92–1.34 | なし |
重要な結論(結果の解釈)
✔ 妊娠中のアセトアミノフェン使用は
ASD・ADHD・知的障害のリスク上昇と関連しなかった
✔ 兄弟比較という厳密な方法でも関連なし
✔ バイアスの少ない研究に限定しても結果は同様
➡ 「通常用量・適正使用」であれば、神経発達リスクを増やす明確な証拠はない
と結論づけられています。
試験の限界
本研究は質の高い解析ですが、以下の限界があります。
① 観察研究である
- ランダム化比較試験(RCT)ではない
- 因果関係を完全に証明できるわけではない
② 使用量・使用理由の詳細が不十分
- 「何mgを」「何日間」使ったかの詳細が不明な研究が多い
- 発熱・感染症そのものの影響を完全に除外できない
③ 自己申告データが中心
- 一部研究では母親の申告に依存
- 記憶バイアスの可能性あり
④ 高用量・長期使用の評価は不十分
- 「短期間・通常量」の評価が中心
- 慢性的・高用量使用の安全性は今後の課題
薬剤師としての実践的まとめ
✔ 妊娠中のアセトアミノフェンは
→ 現時点で神経発達リスクを上げる明確な証拠はない
✔ 発熱・疼痛のコントロールを怠る方が、母体・胎児に不利益となる可能性がある
✔ ただし
- 最小有効量
- 必要最小限の期間
- 自己判断の連用は避ける
という原則は引き続き重要
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◆まとめ
| 項目 | 結論 |
|---|---|
| ASD | 関連なし |
| ADHD | 関連なし |
| 知的障害 | 関連なし |
| エビデンスの質 | 高(兄弟比較+調整済み) |
| 臨床的意義 | 妊娠中の適正使用は支持される |
| 注意点 | 長期・高用量使用の評価は今後の課題 |
質の高い研究では、アセトアミノフェン使用と自閉症スペクトラムやADHDなどの中枢神経関連事象の発症リスクとの関連性において、一貫してリスク増加は示されていません。
一方で、質の低い研究や一部のレビュー論文ではリスク増加を示唆する報告があります。しかし、利益相反(COI)に重大な問題を抱える研究論文が多いことから、現時点では上記のリスクはなさそうと考えられます。
引き続き継続して情報収集していきたいテーマです。
続報に期待。

✅まとめ✅ システマティックレビュー・メタ解析の結果、アセトアミノフェンを指示通りに使用する妊婦の子供において、自閉症スペクトラム障害、ADHD、または知的障害の可能性が臨床的に重要な程度まで増加することはなかった。
試験結果から明らかになったことは?
背景:妊娠中のパラセタモール使用が、特に自閉症スペクトラム障害との関連において、子供の神経発達に及ぼす影響について懸念が高まっています。本研究では、既存のエビデンスを統合し、出生前のパラセタモール曝露と自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、および知的障害との関連性を調査することを目的としました。
方法:このシステマティックレビューとメタアナリシスのために、我々は開始から2025年9月30日までのMEDLINE、Embase、ClinicalTrials.gov、およびCochrane Libraryを検索し、自閉スペクトラム症、ADHD、および知的障害のリスクの調整推定値を報告しているコホート研究を探した。適格な研究は、検証済みの質問票または医療記録を用いてアウトカムを定義し、母親の合併症と治療法を報告し、パラセタモール曝露のある妊娠とない妊娠を比較し、未調整の研究は除外した。対象研究の質の評価は、Quality In Prognosis Studies (QUIPS)ツールを使用して実施した。主要アウトカムは、出生前パラセタモール曝露と自閉スペクトラム症、ADHD、および知的障害の可能性との関連であった。解析は、調整推定値を用いた兄弟比較研究に限定し、オッズ比(OR)を計算した。ランダム効果メタアナリシスでは、一般逆分散法を使用した。可能な範囲でサブグループ解析(妊娠期間、使用期間、出生児の性別、追跡期間)を実施しました。本研究はPROSPEROに登録されており、CRD420251156690です。
調査結果:43件の研究がシステマティックレビューに含まれ、17件の研究がメタアナリシスに含まれました。兄弟比較研究を考慮すると、妊娠中のパラセタモール曝露は、自閉スペクトラム症(オッズ比 0.98、95%信頼区間0.93–1.03、p=0.45)、ADHD(0.95、0.86–1.05、p=0.31)、知的障害(0.93、0.69–1.24、p=0.63)のリスクと関連していませんでした。 QUIPSによるバイアスリスクが低い研究のみを考慮した場合、妊娠中のパラセタモール摂取と自閉症スペクトラム障害(OR 1.03、95% CI 0.86–1.23、p=0.78)、ADHD(0.97、0.89–1.05、p=0.49)、知的障害(1.11、0.92–1.34、p=0.28)との間にも関連は認められなかった。この関連の欠如は、調整推定値を用いたすべての研究と5年以上の追跡調査を行った研究においても認められた。
結果の解釈:現在の証拠は、パラセタモールを指示通りに使用する妊婦の子供において、自閉症スペクトラム障害、ADHD、または知的障害の可能性が臨床的に重要な程度まで増加することを示さず、その安全性に関する既存の推奨事項を裏付けています。
資金調達:該当なし
引用文献
Prenatal paracetamol exposure and child neurodevelopment: a systematic review and meta-analysis
Francesco D’Antonio et al.
Lancet 2026, Obstetrics, Gynaecology, & Women’s Health. January 16, 2026
ー 続きを読む https://www.thelancet.com/action/showFullText?pii=S3050503825002110

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