スプルー様腸症はオルメサルタン使用者で報告されているが、、、
高血圧治療で広く使用されているアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)。その中でもオルメサルタンは「スプルー様腸症(sprue-like enteropathy)」との関連が報告されてきました。
一方で、この腸症はオルメサルタン特有の副作用なのか、それともARB全体に共通するクラスエフェクトなのかについては、明確な結論が得られていませんでした。
今回ご紹介する論文は、すべてのARBを対象に、スプルー様腸症に関する報告を網羅的に整理した系統的レビューです。
試験結果から明らかになったことは?
◆背景
スプルー様腸症は、慢性下痢、体重減少、栄養障害などを呈し、小腸絨毛萎縮を特徴とする病態です。臨床像や病理像はセリアック病に類似しますが、
- セリアック関連抗体は陰性
- グルテン除去食が無効
- 薬剤中止で改善
といった点が異なります。
2012年以降、オルメサルタン関連症例が多数報告され「ARB全体にも同様のリスクがあるのではないか」という疑問が生じていました。
◆研究概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | 系統的レビュー |
| データベース | PubMed、Embase |
| 検索期間 | 2018年11月21日まで |
| 対象文献 | 症例報告、症例集積研究、比較研究 |
| 解析対象 | 82件の症例報告・症例集積+5件の比較研究 |
| 総症例数 | 248例 |
◆試験結果(レビュー結果)
① 原因薬剤の内訳
| ARB | 症例数 | 割合 |
|---|---|---|
| オルメサルタン | 233例 | 94.0% |
| テルミサルタン | 5例 | 2.0% |
| イルベサルタン | 4例 | 1.6% |
| バルサルタン | 3例 | 1.2% |
| ロサルタン | 2例 | 0.8% |
| エプロサルタン | 1例 | 0.4% |
→ 大多数がオルメサルタンであり、他ARBの報告は少数に限られていました。
② 発症までの期間
- ARB開始から2週間〜13年
→ 長期服用後の発症もあり得ることが示されています。
③ 病理・検査所見
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 小腸生検実施例 | 218例 |
| 絨毛萎縮 | 201例(92.2%) |
| 上皮内リンパ球増加 | 131例(60.1%) |
| HLA-DQ2/DQ8陽性 | 105 / 147例(71.4%) |
| セリアック抗体陰性 | 167 / 169例(98.8%) |
④ 治療反応
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| グルテン除去食で改善せず | 127 / 130例(97.7%) |
| ARB中止で症状消失 | 233 / 239例(97.4%) |
| オルメサルタン再投与で再発 | 7例(2.8%) |
| 他ARBでの再投与試験 | 報告なし |
研究結果の解釈
本レビューからは、
- スプルー様腸症は非常にまれ
- 圧倒的にオルメサルタン関連症例が多い
- 他のARBでも症例報告は存在するが、因果関係の強さは限定的
であることが示唆されます。
また、薬剤中止による改善率が極めて高いことから、臨床的には「原因不明の慢性下痢・体重減少」がある場合、ARB、とくにオルメサルタンの中止を検討する視点が重要と考えられます。
試験の限界
本研究には以下の限界があります:
- 症例報告・症例集積が中心
→ 発生頻度や相対リスクを定量的に評価できない。 - 出版バイアスの影響
→ オルメサルタンは注目度が高く、他ARBより報告されやすい可能性。 - 比較研究のデザインが不均一
→ 観察期間、症例定義、評価項目が研究ごとに異なる。 - 非オルメサルタンARBの再投与試験が未実施
→ クラスエフェクトの検証は不十分。 - 背景因子(併用薬・基礎疾患)の統制不足
→ 因果関係の厳密な評価には限界がある。
まとめ
この系統的レビューから、
- ARB関連スプルー様腸症は稀だが実在する副作用
- 現時点ではオルメサルタン特異性が強く示唆される
- ただし、ARB全体として完全に否定はできない
という位置づけが妥当と考えられます。
長期服用中でも発症し得る点は重要であり、原因不明の慢性下痢や体重減少を認めた場合、薬剤性腸症を鑑別に挙げる姿勢が求められます。
これまでの報告結果を踏まえると、オルメサルタン特有の副作用である可能性が高いでしょう。他の要因を排除しても持続するような慢性下痢症例にであったときに気が付けるよう、要因の一つとして頭の片隅に置いておいた方が良さそうです。
続報に期待。

✅まとめ✅ 系統的レビューの結果、ARB使用症例における腸症はまれではあるが、特にオルメサルタン使用者で発生するようであった。臨床医は投薬開始後何年も経った後でもこの潜在的な有害事象に注意を払う必要がある。
根拠となった試験の抄録
背景: アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)であるオルメサルタンは、スプルー様腸症に類似した消化管症状と関連している。腸症はオルメサルタン特異的ではなく、クラス効果(薬剤のクラス効果)である可能性があるという意見もある。我々は、全てのARBにおけるスプルー様腸症に関する文献を同定するために、システマティックレビューを実施した。
方法: 2018年11月21日までPubMedおよびEmbaseデータベースでARBの症例報告、症例シリーズ、比較研究を検索し、評価した。
結果: 症例報告および症例シリーズ計82件、ならびに比較研究5件(計248例)を選択し、解析した。症例報告に記載されたARBは、オルメサルタン(使用者233名、94.0%)、テルミサルタン(使用者5名、2.0%)、イルベサルタン(使用者4名、1.6%)、バルサルタン(使用者3名、1.2%)、ロサルタン(使用者2名、0.8%)、エプロサルタン(使用者1名、0.4%)であった。ARB投与開始から症状発現までの期間は2週間から13年までの範囲であった。組織学的所見は218例で報告され、そのうち201例(92.2%)は絨毛萎縮、131例(60.1%)は上皮内リンパ球増多であった。 147人の患者でヒト白血球抗原(HLA)検査を実施し、そのうち105人(71.4%)はHLA-DQ2またはHLA-DQ8ハプロタイプであった。169人の患者でセリアック病関連抗体を検査し、そのうち167人(98.8%)は陰性であった。食事からグルテンを除去しても、情報のある130人の患者のうち127人(97.7%)で腸症の症状が緩和しなかった。情報のある239人の患者のうち233人(97.4%)でARBの中止後の症状の完全寛解が報告された。7例(2.8%)でオルメサルタンの再開後に症状が再発したと報告されたが、オルメサルタン以外のARBについては再投与は報告されなかった。世界中で実施された後ろ向き研究では、研究デザイン(研究期間や症例定義の違いなど)および結果に一貫性がなかった。
結論: 腸症はまれではあるが、臨床医は投薬開始後何年も経った後でもこの潜在的な有害事象に注意を払う必要がある。
キーワード: アンジオテンシン II 受容体拮抗薬、下痢、腸疾患、オルメサルタン
引用文献
Angiotensin II receptor blockers and gastrointestinal adverse events of resembling sprue-like enteropathy: a systematic review
Ayesha Kamal et al. PMID: 31217979 PMCID: PMC6573796 DOI: 10.1093/gastro/goz019
Gastroenterol Rep (Oxf). 2019 Jun;7(3):162-167. doi: 10.1093/gastro/goz019. Epub 2019 Jun 1.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31217979/

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