アテロームと心血管イベントにおけるマイクロプラスチック・ナノプラスチックの影響は?(観察研究; N Engl J Med. 2024)

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マイクロプラスチック・ナノプラスチックによる人体への影響はどのくらいか?

プラスチックは加工しやすく、耐久もあることから広く使用されています。便利な反面、環境問題への影響が指摘されています。具体的には “環境中にあり続ける” ということです。⻭磨き粉や洗顔剤に含まれるビーズなどの⼩さなプラスチック、あるいはレジ袋やペットボトルといったプラスチックごみ等が環境中に放置されると、紫外線や波、微生物等によって細かくなっていきますが、完全には分解されないためです。

近年、環境中に放置されたプラスチックが自然に分解・変性して形成されたプラスチックの微小粒子であるマイクロプラスチック(粒径1µm〜5mm)やナノプラスチック(粒径1〜100nm)による生物環境への影響が指摘されています。

驚くべきことに、ナノプラスチックは、海洋だけでなく大気中にも拡散していること、その性質から細胞膜を通過し生体組織や臓器に侵入することが可能であることなどが明らかとなってきています。したがって、我々人類は、増え続ける途方もない数のナノプラスチックが海洋・大気中に含まれた環境で生活していることになりますが、ナノサイズまで小さくなったプラスチックの人体への危険性についての知見はほとんど得られていません。

人が日々どれほどの量のナノプラスチックを摂り込んでいるのか、ナノプラスチックが接することになる消化器や呼吸器にどのような影響があるのか、さらに、それらから血管に入り込み脳組織にも侵入するのか、長い間にそれらは蓄積していかないのかなど、全くといって良いほどわかっていないというのが現状です。前臨床試験において、マイクロプラスチックやナノプラスチック(Microplastics and nanoplastics, MNPs)は、心血管疾患の潜在的な危険因子としてあげられていますが、このリスクがヒトにも及ぶという直接的な証拠は不足しています。

そこで今回は、無症候性頸動脈疾患に対して頸動脈内膜剥離術を受けた患者を対象とした前向き多施設観察研究の結果をご紹介します。摘出された頸動脈プラーク検体は、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法、安定同位体分析法、電子顕微鏡法を用いてMNPsの存在について分析されました。炎症性バイオマーカーは酵素結合免疫吸着測定法および免疫組織化学的測定法で評価されました。

本研究の主要エンドポイントは、心筋梗塞、脳卒中、心筋梗塞による死亡の複合でした。

試験結果から明らかになったことは?

合計304例の患者が登録され、257例が平均(±SD)33.7±6.9ヵ月の追跡を完了しました。

150例の患者(58.4%)の頸動脈プラークからポリエチレンが検出され、その平均レベルはプラーク1mg当たり21.7±24.5μgでした;31例の患者(12.1%)にも測定可能な量のポリ塩化ビニルが検出され、その平均レベルはプラーク1mg当たり5.2±2.4μgでした。

電子顕微鏡検査では、プラークのマクロファージ中に、目に見えるギザギザのエッジを有した異物が存在し、外部破片中に散在していることが明らかになりました。

X線検査では、これらの粒子の一部に塩素が含まれていることが示されました。

ハザード比(95%信頼区間)
主要エンドポイント
(心筋梗塞、脳卒中、心筋梗塞による死亡の複合)
ハザード比 4.53
2.00〜10.27;P<0.001

アテローム内にMNPが検出された患者では、これらの物質が検出されなかった患者よりも一次エンドポイントイベントのリスクが高いことが明らかとなりました(ハザード比 4.53、95%信頼区間 2.00〜10.27;P<0.001)。

コメント

環境中のマイクロプラスチック・ナノプラスチックによる人類への影響については明らかとなっていません。

さて、前向き多施設観察研究の結果、マイクロ・ナノプラスチックが検出された頸動脈プラークを有する患者は、検出されなかった患者に比べて、追跡34ヵ月後に心筋梗塞、脳卒中、または何らかの原因による死亡の複合リスクが高いことが示されました。

あくまでも観察研究であることから、因果関係を結論づけることはできません。しかし、これほど多くのプラスチックごみが環境中に存在していることは周知の事実であり、かつ完全には生分解されないことから、人体への影響が少なからずありことは容易に推察できます。倫理的観点から、ランダム化比較試験の実施は困難であるため、再現性の確認は大規模なコホート研究で実施されるものと考えられます。国や地域によって、研究結果が異なるのか注目したいところです。

改めて、海洋プラスチックの増加による汚染と生態系の破壊、ゴミ焼却によるCO2排出量増加で地球温暖化が加速することなど、プラスチックによりもたらされる恩恵が、環境破壊という代償を伴っていることが指摘されています。

バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの利活用が求められます。

続報に期待。

assorted plastic bottles

✅まとめ✅ 前向き多施設観察研究の結果、マイクロ・ナノプラスチックが検出された頸動脈プラークを有する患者は、検出されなかった患者に比べて、追跡34ヵ月後に心筋梗塞、脳卒中、または何らかの原因による死亡の複合リスクが高かった。

根拠となった試験の抄録

背景:マイクロプラスチックやナノプラスチック(Microplastics and nanoplastics, MNPs)は、前臨床試験において心血管疾患の潜在的な危険因子として浮上している。このリスクがヒトにも及ぶという直接的な証拠は不足している。

方法:無症候性頸動脈疾患に対して頸動脈内膜剥離術を受けた患者を対象とした前向き多施設観察研究を行った。摘出された頸動脈プラーク検体は、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法、安定同位体分析法、電子顕微鏡法を用いてMNPの存在について分析された。炎症性バイオマーカーは酵素結合免疫吸着測定法および免疫組織化学的測定法で評価した。
主要エンドポイントは、心筋梗塞、脳卒中、心筋梗塞による死亡の複合とした。

結果:合計304例の患者が登録され、257例が平均(±SD)33.7±6.9ヵ月の追跡を完了した。150例の患者(58.4%)の頸動脈プラークからポリエチレンが検出され、その平均レベルはプラーク1mg当たり21.7±24.5μgであった;31例の患者(12.1%)にも測定可能な量のポリ塩化ビニルが検出され、その平均レベルはプラーク1mg当たり5.2±2.4μgであった。電子顕微鏡検査では、プラークのマクロファージ中に、目に見えるギザギザのエッジをもった異物が存在し、外部破片中に散在していることが明らかになった。X線検査では、これらの粒子の一部に塩素が含まれていることが示された。アテローム内にMNPが検出された患者では、これらの物質が検出されなかった患者よりも一次エンドポイントイベントのリスクが高かった(ハザード比 4.53、95%信頼区間 2.00〜10.27;P<0.001)。

結論:この研究では、MNPが検出された頸動脈プラークを有する患者は、MNPが検出されなかった患者に比べて、追跡34ヵ月後に心筋梗塞、脳卒中、または何らかの原因による死亡の複合リスクが高かった。

資金提供:Programmi di Ricerca Scientifica di Rilevante Interesse Nazionale 他

試験登録:ClinicalTrials.gov番号 NCT05900947

引用文献

Microplastics and Nanoplastics in Atheromas and Cardiovascular Events
Raffaele Marfella et al. PMID: 38446676 PMCID: PMC11009876 (available on 2024-09-07)
DOI: 10.1056/NEJMoa2309822
N Engl J Med. 2024 Mar 7;390(10):900-910. doi: 10.1056/NEJMoa2309822.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38446676/

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