RSVワクチン(RSVpreF)は心血管疾患を持つ高齢者にも有効か?

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— DAN-RSV試験のサブ解析からみる呼吸器・心血管アウトカム(Eur Heart J. 2025)


RSVワクチンの効果は患者背景で異なるのか?

2023年以降、60歳以上を対象としたRSVワクチン(RSVpreF)が世界的に承認され、呼吸器感染症対策として注目を集めています。

一方、RSV感染は高齢者において心筋梗塞・心不全増悪・脳卒中などの心血管イベント増加と関連が指摘されており、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)を有する高齢者ではリスクがより高い可能性があります。

今回ご紹介するのは、DAN-RSV試験の事前規定サブ解析で「RSVpreFワクチンの有効性が ASCVDの有無で異なるか」を検証した研究です。


試験結果から明らかになったことは?

◆研究概要(DAN-RSV サブ解析)

項目内容
デザインDAN-RSV 試験の prespecified secondary analysis(前向き・無作為化)
対象60歳以上の成人
割付RSVpreF ワクチン vs ワクチンなし(1:1)
データ取得デンマークの全国レジストリ
主要アウトカムRSV関連下気道疾患による入院
主要心血管アウトカムMACE(心筋梗塞・脳卒中・心不全の入院)
ASCVDの層別化既存ASCVD(あり/なし)で層別
解析目的ワクチン効果(VE)が ASCVD の有無で異なるかを検討

◆結果◆

◆参加者の特徴

  • ASCVDあり:14,241名
  • ASCVDなし:117,035名
    ほぼ全てのアウトカムの発生率がASCVDありの群で高かった

◆RSV関連入院に対するワクチン効果(VE)

VE(ワクチン効果)95% CI交互作用P値
ASCVDなし80.0%29.3〜96.3>0.99
ASCVDあり100.0%−141.3 〜 100.0>0.99

ASCVDの有無でワクチン効果に有意な差なし
(両群とも RSV関連入院は減少した可能性)

※ASCVDあり群の95%CIが広いのは、アウトカム発生数が非常に少なかったためであり「効果が確実に100%」という意味ではありません。


◆主要心血管イベント(MACE)に対するワクチン効果

VE(ワクチン効果)95% CI交互作用P値
ASCVDなし9.3%−15.1〜28.60.90
ASCVDあり12.0%−34.6〜43.30.90

心血管イベントを減らす効果は確認されず
→ ASCVDの有無によるVEの違いもなし。


試験の限界

  • これはワクチン vs ワクチンなしの比較であり「プラセボ対照」ではない。
  • 心血管アウトカムは事前規定の主要ではあるが、第1目的ではない
  • ASCVDあり群はアウトカムは多いが、RSV関連イベント自体が非常に稀で統計的な幅が広い。
  • 本解析はレジストリデータに依存しており、行動・曝露・基礎疾患悪化など未調整因子の残余があり得る。

今後の課題

  • RSVワクチンが心血管イベント自体を減らし得るかを検証するための、より大規模でイベント数の多い試験が必要。
  • ASCVDの中でも心不全・末梢動脈疾患・多枝病変などで層別化した検討。
  • ワクチン接種が心血管イベントの急性期の二次予防に寄与するかの評価。

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◆まとめ

DAN-RSV サブ解析の結果、RSVpreFワクチンの効果は、ASCVDの有無で大きく変わらないことが示されました。

✔ RSV関連入院は両群で減少(VE 80〜100%)

✔ 心血管イベント(MACE)は有意に減少せず

✔ ASCVDありでも、RSVワクチンを接種する意義は十分にある

(呼吸器感染リスク軽減という観点から)

心血管アウトカムの改善は明確ではありませんが、呼吸器感染による急性増悪リスクの高いASCVD患者においても、RSVワクチンの効果が一定程度期待できることが確認された点は重要です。

事前設定ではあるものの、サブ解析の結果であることから再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ DAN-RSV試験の事前に規定された二次解析の結果、呼吸器系および心血管系アウトカムに対するRSVpreFワクチン接種とワクチン未接種のワクチン効果(VE)は、既存のASCVDのある60歳以上の個人とない個人とで同様だった。

根拠となった試験の抄録

背景と目的: 二価RSウイルス融合前Fタンパク質(RSVpreF)ワクチンが、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)患者の転帰を低下させるかどうかは不明である。本研究の目的は、既存のASCVDの有無にかかわらず、RSVpreFワクチン接種と無接種の呼吸器系および心血管系アウトカムに対するワクチン効果(VE)を評価することであった。

方法: DAN-RSV試験の事前に規定された二次解析を実施した。60歳以上の成人を、RSVpreFワクチン接種群と非接種群に1:1で無作為に割り付けた。ベースラインおよびアウトカムデータは、全国登録システムから収集した。主要評価項目は、RSウイルス関連呼吸器疾患による入院とした。主要な心血管イベント(MEEV)アウトカムは、心筋梗塞、脳卒中、または心不全による入院の複合アウトカムとした。VEの異質性は、ASCVDの有無にかかわらず参加者間で評価した。

結果: ほぼ全てのアウトカムにおいて、既存のASCVDを有する参加者(n=14,241)は、有しない参加者(n=117,035)と比較して発生率が高かった。ワクチンの有効性は、ASCVDの有無にかかわらず概ね一貫していた(1つの相互作用を除くすべての相互作用について、交互作用のP≥0.05)。主要アウトカムのVEは、ASCVDのない参加者では80.0%(95%信頼区間(CI)、29.3-96.3)、ASCVDのある参加者では100.0%(95%CI -141.3 ~ 100.0)であった(交互作用のP>0.99)。主要な心血管イベントに対するワクチンの有効性は、既存のASCVDのない参加者では9.3%(95%CI -15.1 〜 28.6)、既存のASCVDのある参加者では12.0%(95%CI -34.6 〜 43.3)でした(交互作用のP=0.90)。

結論: 呼吸器系および心血管系アウトカムに対するRSVpreFワクチン接種とワクチン未接種のVEは、既存のASCVDのある60歳以上の個人とない個人とで同様でした。

キーワード: アテローム性動脈硬化症、心血管疾患、ランダム化比較試験、レジストリ、呼吸器合胞体ウイルス、ワクチン接種

引用文献

Effectiveness of bivalent respiratory syncytial virus prefusion F protein-based vaccine in individuals with or without atherosclerotic cardiovascular disease: the DAN-RSV trial
Manan Pareek et al. PMID: 40884439 PMCID: PMC12579979 DOI: 10.1093/eurheartj/ehaf679
Eur Heart J. 2025 Nov 3;46(41):4291-4298. doi: 10.1093/eurheartj/ehaf679.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40884439/

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