急性心不全における利尿薬抵抗性に効果的な薬剤は?
◆導入
急性心不全(acute heart failure, HF)では、体液貯留に対する利尿薬抵抗性(diuretic resistance)が問題となることが多く、ループ利尿薬単独では除水が不十分となる症例が少なくありません。
これまでの臨床試験では「ループ利尿薬+追加利尿薬」vs.「ループ利尿薬単独」の比較が主であり、各追加薬同士の直接比較はほとんど行われていません。
今回ご紹介するのは、2025年に報告された系統的レビューおよびネットワークメタ解析(NMA)で、急性心不全患者における各種追加利尿療法の有効性と安全性を比較評価した研究です。
試験結果から明らかになったことは?
◆背景
急性心不全治療において、体液貯留の解除(decongestion)は入院管理の中心課題です。
しかし、慢性ループ利尿薬使用者や腎機能低下例では効果減弱が生じやすく、多段的ネフロンブロック(sequential nephron blockade)による併用が検討されます。
代表的な追加薬として以下が挙げられます:
- アセタゾラミド(近位尿細管でのNa⁺再吸収抑制)
- サイアザイド系利尿薬(遠位尿細管作用)
- SGLT2阻害薬(近位尿細管Na⁺・糖再吸収抑制)
- バソプレシン拮抗薬(自由水排泄促進)
本研究では、これら多様な薬剤の直接比較データを統合し、臨床的意義のある入院期間(length of stay)を主要評価項目として解析しました。
◆研究概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | 系統的レビューおよびネットワークメタ解析(NMA) |
| 対象試験 | 急性心不全入院患者における「ループ利尿薬+追加利尿薬」を評価したRCT |
| データベース | PubMedおよびEMBASE(2024年3月29日まで) |
| 登録試験数 | 29件(総症例数:8,362例) |
| 主な追加薬剤 | アセタゾラミド、SGLT2阻害薬、トルバプタン、サイアザイド系利尿薬など |
| 主要評価項目 | 入院期間(length of stay) |
| 解析方法 | ランダム効果モデル+頻度主義NMA、SUCRA法による順位推定 |
| プロトコル登録 | PROSPERO: CRD42023476669 |
◆試験結果(表)
1. 直接比較メタ解析
| 指標 | 結果 |
|---|---|
| 平均差(MD) | -0.42日(95%CI -0.87〜0.02) |
| 統計的有意性 | 有意差なし(p>0.05) |
➡ 個々のRCTを統合した直接比較では、追加の利尿薬併用による入院期間短縮効果に有意差は認められませんでした。
2. ネットワークメタ解析(NMA)による順位付け(SUCRA値)
| 薬剤 | SUCRA値 | 推定順位 |
|---|---|---|
| アセタゾラミド | 0.89 | 1位 |
| SGLT2阻害薬 | 0.70 | 2位 |
| サイアザイド系利尿薬 | 0.46 | 中間 |
| トルバプタン | 0.35 | 下位 |
| ループ単独 | 0.19 | 最下位 |
➡ アセタゾラミドが最も高い確率で「入院期間短縮」に寄与する可能性が示唆されました。
SGLT2阻害薬も比較的高い順位を示し、除水補助効果を支持する傾向がみられました。
3. エビデンスの確実性
- 推定精度は中等度〜非常に低い(moderate to very low)
- 研究間の異質性や盲検化不足が主な限界因子
◆試験の限界
- 各試験間で患者背景・投与タイミング・併用薬に差があり、直接比較の信頼性に制限。
- 入院期間は臨床環境により左右されるアウトカムで、客観的な除水量や死亡率ではない。
- 多くの試験が単施設・小規模であり、NMAによる推定には不確実性を伴う。
- 出版バイアスの影響が除外できない。
◆今後の検討課題
- 除水効果だけでなく、再入院率・死亡率など臨床的転帰の評価
- 腎機能別・併用薬別のサブグループ解析
- 心不全の表現型(HFrEF/HFpEF)に応じた最適な組み合わせの確立
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◆まとめ
このネットワークメタ解析では、急性心不全入院患者における追加利尿薬の比較検討を行い、以下の結論が得られました。
- アセタゾラミドが最も短い入院期間と関連(SUCRA=0.89)
- SGLT2阻害薬も次点の有望候補(SUCRA=0.70)
- 直接比較では有意差は認められず、エビデンス確実性は限定的
現段階では、アセタゾラミドやSGLT2阻害薬の併用が除水促進および入院期間短縮に寄与する可能性があるものの、確定的な結論を得るにはさらなる直接比較試験が必要です。
急性心不全における利尿抵抗性への対応は「多段的ネフロンブロック戦略」として進化しており、薬理作用・腎機能・代謝特性を踏まえた個別化治療が今後の方向性となります。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ネットワークメタ解析の結果、追加療法の有効性は入院期間の短縮と関連していた。追加の薬剤としてはアセタゾラミドやSGLT2阻害薬が有用である可能性が示唆された。
根拠となった試験の抄録
背景: 急性心不全(HF)で入院した患者は利尿薬抵抗性を示す場合があり、ループ利尿薬の投与量を増やしても追加療法が必要になることがあります。ランダム化比較試験(RCT)では追加療法とループ利尿薬のみを比較していますが、さまざまな追加療法を直接比較した文献はわずかです。急性HFで入院した患者に対するさまざまな利尿薬追加療法の有効性と安全性を評価するため、RCTの系統的レビューとネットワークメタアナリシスを実施しました。
方法: 急性HFで入院した患者に対する追加利尿薬療法の効果を評価するRCTはすべて組み入れ対象であった。EMBASEとPubMedの系統的検索を2024年3月29日まで実施しました。主要評価項目は入院期間でした。直接比較のためにランダム効果モデルを使用してデータをプールした。ランダム効果多重治療比較のもとで頻度主義的方法を用いたネットワークメタアナリシスを実施した。累積ランキング曲線下面法(SUCRA)を用いてランキング確率を評価した。
結果: 1,103件の文献のうち、8,362人の患者を登録した29件のRCTが適格基準を満たし、組み入れられた。直接比較では、入院期間に有意差はなかった(MD -0.42、95%CI -0.87 ~ 0.02)。SUCRAに基づくランキング確率では、入院期間の短縮に対してアセタゾラミドが最良の治療である可能性が最も高く(SUCRA 0.89)、次いでSGLT2阻害薬(SUCRA 0.70)であることが示された。すべてのアウトカムの推定値の確実性は、中程度から非常に低い範囲であった。
結論: 追加療法の有効性は入院期間の短縮と関連していた。不確実ではあるが、NMAの結果は、HF患者のうっ血を除去して正常血液量を達成・維持するための最適な治療戦略が存在する可能性を示唆する初期のエビデンスを提供している。しかし、推定値の確実性を高めるには、適切に設計された直接比較RCTが必要である。
試験登録番号: プロトコルはPROSPEROに登録されている(CRD42023476669)。
キーワード: うっ血性心不全、利尿薬抵抗性、間接比較、ネフロン遮断
引用文献
Efficacy and Safety of Different Combinations of Add-on Diuretic Therapy in Acute Heart Failure: A Systematic Review and Network Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials
Andrew Sephien et al. PMID: 40876527 DOI: 10.1016/j.amjcard.2025.08.041
Am J Cardiol. 2025 Aug 26:258:27-34. doi: 10.1016/j.amjcard.2025.08.041. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40876527/

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