― 北海道薬科大学らによる全国178薬局の調査から(日本のアンケート調査; YAKUGAKU ZASSHI 2009)
患者満足度が薬局経営を左右する?
医薬分業が進むなかで、薬局は単なる「薬を渡す場所」から、患者に選ばれる医療提供施設へと変化しています。
しかし、「どのような薬局機能・サービスが患者満足度を高めるのか」は、これまで十分に検証されていませんでした。
2009年に『薬学雑誌(Yakugaku Zasshi)』に掲載された櫻井秀彦ら(北海道薬科大学ほか)の研究は、全国178薬局・約3万件の患者アンケートを解析し、薬局の機能・サービスが患者満足に与える影響を統計的に明らかにしたものです。
やや古い報告ではありますが、患者満足度の変化を捉えるために適した報告です。
試験結果から明らかになったことは?
◆研究概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象施設 | 北海道・宮城・神奈川の5企業傘下の178薬局 |
| 対象患者 | 処方せん調剤を目的に来局した患者(OTC購入者は除外) |
| 調査方法 | 87項目の薬局機能データ+患者満足度アンケート(5段階評価) |
| 回収数 | 配布94,784部/回収30,186部(回収率31.8%) |
| 解析手法 | 相関分析、因子分析、重回帰分析(SPSS 14.0J, Amos 7.0J) |
| 評価項目 | 『情報提供と説明内容』、『薬剤師の応対』、『待ち時間』、『安心感』など計11項目 |
◆主な結果
●患者が薬局を選ぶ理由
「病院に近いから」(72.5%)が最多。
一方、「薬の情報提供や説明がよい」、「待ち時間が短い」、「待合室の雰囲気がよい」も高評価でした。
●薬局に望むこと
「多少時間がかかっても、十分な説明がほしい」と回答した患者が68.4%にのぼり、
服薬指導の質を重視する傾向が明らかになりました。
◆統計解析の結果(抜粋)
| 関連項目 | 相関の傾向 | 解釈 |
|---|---|---|
| 平均待ち時間 | r=−0.299(有意) | 長いほど満足度が低下 |
| 薬剤師数 | r=−0.293(有意) | 人数が多いほど評価が低下(担当が固定されにくい) |
| 特別指導加算算定率 | r=+0.218 | 情報提供の評価が上昇 |
| 研修認定薬剤師比率 | r=+0.210 | 説明・安心感の評価が上昇 |
| ついたて付き投薬口数 | r=+0.270 | 待合環境・プライバシー評価が上昇 |
これらの結果から「特別指導加算」や「認定薬剤師比率」などの教育・指導関連機能が満足度を押し上げる要因であることが分かりました。
◆因子分析と重回帰分析の結果
患者満足度を説明する3つの潜在因子が抽出されました。
| 因子 | 構成要素 | 回帰係数(影響度) |
|---|---|---|
| 人的要因 | 薬剤師・事務員の応対、情報提供、安心感 | 0.481(最も強い) |
| 利便性要因 | 営業時間、立地、待ち時間 | 0.264 |
| 環境要因 | 待合室、プライバシー、支払い金額 | 0.269 |
➡ 患者満足度に最も強く影響するのは「人的要因」であることが統計的に示されました。
また「企業差」、「地域差」は有意でなく、薬局の立地やブランドよりもスタッフ対応が決定的とされています。
◆考察:満足度の決め手は“薬剤師の人間力”
- 「薬剤師が多いほど満足度が低下」という逆説的な結果は、担当が固定されず信頼関係が築きにくいためと考えられます。
- 患者は「待ち時間の短さ」よりも「丁寧な説明」、「安心感」を重視。
- 待合環境(イス、測定器、プライバシー)も満足度を支える要素。
- 「面分業薬局(かかりつけ薬局)」では、門前薬局より総合満足度が高い傾向が見られました。
◆まとめ:教育・研修こそが患者満足を生む
本研究は、薬局満足度の最大の決定因子は「人的要因」=薬剤師・スタッフの対応力であることを示した全国規模のエビデンスです。
単なる立地や設備よりも「信頼関係を築ける薬剤師」こそが患者の心をつなぐ鍵です。
薬局経営においても、スタッフ教育・接遇研修・継続的なスキルアップは、「選ばれる薬局」を実現する最も確実な投資といえるでしょう。
ただし、本研究報告は2009年であり、コロナ流行後の現代とは様相が異なっている可能性があります。再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 178の地域薬局を対象としたアンケート調査の結果、様々な薬剤部機能・サービスが患者満足度に影響を与え、その質の向上が患者満足度を高めることが示唆された。
根拠となった試験の抄録
背景・方法:調剤と処方機能の分離が進むにつれ、患者が期待する様々な機能が求められている。本調査では、患者満足度と薬局機能の関連性を定量的に分析した。178の地域薬局を対象にアンケート調査を実施。薬局の機能・サービスに関する質問は、情報提供、設備、安全性、職員研修など計87項目に及んだ。患者向け質問票は5段階評価で構成され、11項目(観察変数)で構成された。
結果:アンケート結果に基づき「満足患者率」を算出した。患者満足度と提供された薬局機能・サービスとの関連性を調査し、患者の薬局評価や要因が総合満足度に与える影響を確認するため、多変量解析を実施した。相関分析では「薬剤師数」と「総合満足度」に負の相関が認められた。その他の興味深い結果も得られた。因子分析の結果、「人的要因」「患者の利便性」「環境要因」の3つの潜在因子が抽出された。多重回帰分析では「人的要因」が「総合満足度」に最も強い影響を与えることが示された。
結論:様々な薬剤部機能・サービスが患者満足度に影響を与え、その質の向上が患者満足度を高める。これは患者中心の医療実践につながる。
引用文献
薬局における処方せん調剤を目的として来局した患者の満足度に影響を与える薬局機能・サービスに関する研究
櫻井 秀彦 ら. https://doi.org/10.1248/yakushi.129.581
YAKUGAKU ZASSHI 129巻 (2009) 5 号
ー 続きを読む https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/129/5/129_5_581/_article/-char/ja/

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