バイアスピリン(アスピリン腸溶錠)の服用タイミングを考える ― 最新研究からの示唆(レビュー; 2025年版)

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アスピリンは朝服用でよいのか?

アスピリン(バイアスピリン)は、心筋梗塞や脳梗塞などの二次予防として広く使われている抗血小板薬です。従来は「朝に1回服用」が一般的な指導ですが、近年、服用時間(朝・夜)によってその効果が異なる可能性が示唆されています。

ここでは、最新の臨床研究・メタ解析の知見をもとに、服用タイミングの違いがもたらす臨床的な意義について解説します。


文献調査から明らかになったことは?

1. 朝服用は「早朝のリスク時間帯」で効果が不十分?

心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントは、早朝(午前6〜9時)に最も多く発生します。この時間帯は交感神経活動や血圧上昇、血小板活性が高まるため、抗血小板作用が十分に発揮されないとリスクが高まる可能性があります。

2019年のクロスオーバー試験では、健康な成人を対象に朝(8:00)、夜(20:00)、1日2回(8:00・20:00)の3つの服用レジメンを比較しました。その結果、早朝8:00の血小板活性指標であるトロンボキサンB2(sTxB2)濃度は、朝服用群で有意に高値となり、抗血小板作用が最も弱くなることが示されました(5843 pg/mL vs. 夜服用 2877 pg/mL, 1日2回 3343 pg/mL, p<0.01)。

この結果は、朝1回の服用では新生血小板の活性化に対応しきれず、最もリスクの高い時間帯に抑制が不十分となる可能性を示しています。


2. 夜服用で血小板抑制が強化 ― 1日2回投与も有効性を示唆

同研究では、夜服用または1日2回投与により、早朝の血小板抑制効果が改善することも明らかになりました。特に夜服用では、sTxB2の上昇が抑えられ、早朝の抗血小板作用が持続しました。また、1日2回に分けることで、新しく放出される血小板(網状血小板)に対する抑制効果が持続することも示唆されています。

この背景には、血小板生成が夜間〜早朝にピークを迎えるという生理的リズムがあります。夜にアスピリンを服用することで、この新生血小板が血中に出てくるタイミングに合わせてCOX-1を阻害できると考えられています。

また、カテコラミン(カテコールアミン)の血中濃度が起床時に高くなることからも、早朝の時間帯における血小板凝集を抑制することは、心血管イベントの発症リスク低減のために有用である可能性があります。


3. 血圧への影響 ― 夜服用でわずかに低下する可能性も

血小板抑制以外にも、アスピリンの服用時間は血圧にも影響を与える可能性があります。2024年のメタ解析(6件のRCT、1,470名)によると、夜間服用は朝服用に比べて収縮期血圧を約3.65 mmHg、拡張期血圧を約1.92 mmHg低下させることが報告されています。

この効果は、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)や一酸化窒素(NO)産生など、血圧調節に関わる因子が日内リズムに従って変動するためと考えられます。特に夜間にRAAS活性が高まる患者では、夜の服用が血圧コントロールにも寄与する可能性があります。

ただし、心血管イベントの発症リスクについては検証されていません。


4. 臨床応用のポイントと今後の課題

これらの結果から、以下のような臨床的示唆が得られます:

  • 高リスク時間帯(早朝)の血小板活性化を抑えるには、夜服用が有利
  • 新生血小板が多い糖尿病や高回転性の疾患では、1日2回投与が有効な可能性
  • 血圧管理にも影響し得るが、効果の大きさは限定的

一方で、これらの研究の多くは小規模・短期間・健康成人対象であり、実際の心血管疾患患者における臨床転帰への影響は未解明です。大規模RCTによる「夜服用 vs 朝服用」の比較が今後の課題とされています。


まとめ:服用タイミングの最適化が新たな予防戦略に

従来の「朝1回」の服用習慣は、必ずしも最も効果的とは限らないことが、近年の研究で明らかになってきました。「夜に服用する」あるいは「1日2回に分ける」といった投与法は、特に早朝の心血管イベントを防ぐ可能性を高める戦略として注目されています。ただし、1日2回投与についてfailしていますので(ANDAMAN試験)、夜服用の検証が待たれるところです。

現時点では標準治療として確立しておらず、服用時間の変更は必ず主治医・薬剤師と相談した上で行うことが重要です。今後、臨床アウトカムを伴うエビデンスが蓄積すれば、アスピリン治療の新たなパラダイムが生まれる可能性があります。

続報に期待。

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✅まとめ✅ アスピリン腸溶錠の服用タイミングにより、血小板凝集や血圧変動に影響を与えることが示されている。心血管イベントの発症リスクについての検証が待たれる。

参考文献

  1. Acetylsalicylic acid dosed at bedtime vs. dosed in the morning for circadian rhythm of blood pressure- a systematic review and meta-analysis
    Abdullah Nadeem et al. PMID: 39502192 PMCID: PMC11536354 DOI: 10.3389/fcvm.2024.1346265
    Front Cardiovasc Med. 2024 Oct 22:11:1346265. doi: 10.3389/fcvm.2024.1346265. eCollection 2024.
    ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39502192/
  2. Bedtime vs. morning aspirin intake on the diurnal variability of blood pressure and platelet aggregation for the prevention of coronary artery diseases: a systematic review and meta-analysis
    Alina Ghazou et al. PMID: 40065523 DOI: 10.1080/00015385.2025.2471654
    Acta Cardiol. 2025 Mar 10:1-11. doi: 10.1080/00015385.2025.2471654. Online ahead of print.
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  3. Aspirin intake in the morning is associated with suboptimal platelet inhibition, as measured by serum Thromboxane B2, during infarct-prone early-morning hours
    Cati Racca et al. PMID: 30346860 DOI: 10.1080/09537104.2018.1528347
    Platelets. 2019;30(7):871-877. doi: 10.1080/09537104.2018.1528347. Epub 2018 Oct 22.
    ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30346860/

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