2回分割投与のアスピリンはACS後の再発抑制に有効か?|糖尿病・アスピリン抵抗性高リスク患者における検証(Open-RCT; ANDAMAN試験; Eur Heart J. 2025)

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糖尿病・アスピリン抵抗性高リスク患者に対するアスピリン治療戦略

急性冠症候群(ACS)後の二次予防において、アスピリンは標準治療の中核を担っています。しかし、糖尿病(DM)患者やアスピリン抵抗性(aspirin resistance)を有する高リスク群では、標準投与(1日1回)にもかかわらず虚血性イベントの再発リスクが依然として高いことが知られています。

今回ご紹介するのは、アスピリンを1日2回に分割投与する戦略が、こうした高リスク患者の再発予防に有効かどうかを初めて検証した多施設ランダム化比較試験(RCT)です。


試験結果から明らかになったことは?

◆背景

アスピリンは血小板のCOX-1を不可逆的に阻害し、トロンボキサンA₂産生を抑制しますが、その効果は24時間持続しない可能性が指摘されています。特に、DMや肥満などでは血小板の回転が早く、再合成されたCOX-1による「日内再活性化」が起こりやすいとされます。

そのため「1日2回投与(100mg × 2)」により持続的な血小板抑制を図るアプローチが有効であるかが注目されてきました。


◆研究概要

項目内容
研究デザイン前向き・多施設・非盲検(エンドポイント判定盲検)・ランダム化比較試験
対象ACS既往を持つ患者で、以下のいずれかを有する者
・糖尿病(DM)
・アスピリン抵抗性高リスク(HRAR)
 ①アスピリン内服中の発症
 ②BMI ≥ 27kg/m²
 ③腹囲増大
介入アスピリン腸溶錠
① 1日1回群:100mg/日
② 1日2回群:100mg朝+100mg夕
主要評価項目MACE(死亡・心筋梗塞・脳卒中・緊急血行再建・ステント血栓症・急性動脈血栓症)
副次評価項目重大出血(BARC 3–5)
追跡期間中央値 18か月(IQR: 17.6–18.3)
登録数2,484例(DM 77.2%、ST上昇型心筋梗塞 55.5%)

◆試験結果(表)

主要評価項目:MACE(初回イベント)

イベント数発生率HR(95%CI)p値
1日2回投与群 (n=1228)95例7.7%0.90
(0.69–1.19)
0.42
1日1回投与群 (n=1256)110例8.8%参照

有意差なし:1日2回投与によるMACE抑制効果は確認されませんでした。


◆副次評価項目:重大出血(BARC 3–5)

発生率HR(95%CI)
1日2回投与群1.9%0.88(0.50–1.55)
1日1回投与群2.1%参照

出血リスクにも有意差なし


◆試験の限界

  • 対象は糖尿病またはアスピリン抵抗性高リスク群に限定されており、一般ACS患者への外挿は慎重な解釈が必要。
  • アスピリン効果の薬理学的マーカー(血小板機能検査など)は評価されていない。
  • 投与スケジュール以外の併用療法(P2Y12阻害薬など)の影響が考慮されていない。

◆今後の検討課題

  • 血小板反応性のサブ解析による投与時間最適化の検証
  • 他の抗血小板薬との併用下での有効性・安全性評価
  • 高齢者や腎機能低下例など、さらなるサブグループ解析

◆まとめ

本RCTは、ACS後に糖尿病またはアスピリン抵抗性高リスクを有する患者を対象に、アスピリンの1日2回分割投与標準的な1日1回投与を比較しました。

  • 主要エンドポイント(MACE)の発生率は有意に低下せず(HR 0.90, p=0.42)。
  • 出血リスクにも差は認められず(HR 0.88)。

これらの結果から、現時点では2回分割投与が再発抑制に優れるエビデンスは確認されていません。投与法変更の判断には、個別の病態・薬物動態・併用薬などを総合的に考慮する必要があります。

合計2,484名が登録され、臨床研究のサンプルサイズとしては充分であると考えられます。

そもそもアスピリン腸溶錠(商品名;バイアスピリン)の半減期は2時間程度であり、定常状態を有さない薬剤です。では、抗血小板効果がなぜ持続するのか?それは不可逆的な血小板阻害作用を有するためです。血小板は核を有さず、その寿命は7-12日とされています。つまり、一度バイアスピリンで阻害されると、その効果は7-12日程度持続することになります。とはいえ、血小板は毎日作られるわけですから、毎日服用する必要があるということです。

血小板数は午後にピークに達することが知られています(文献1)。一方、血小板凝集は午前中に活性が高いことが報告されています(文献1, 文献2)。したがって、バイアスピリンを用いた抗血小板療法では、服用タイミングが重要なのかもしれません。

あくまでもアスピリンを使用するという前提であれば、1日2回服用することの意義は現在のところ低いようです。服用タイミングの検証が気にかかるところです。

続報に期待。

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✅まとめ✅ PROBE法を用いたランダム化比較試験の結果、ACSおよび糖尿病またはアスピリン耐性高リスクを有する患者において、1日2回アスピリン投与は、1日1回投与と比較してMACEリスクを有意に低下させなかった。重篤な出血については、群間有意差は認められなかった。

根拠となった試験の抄録

背景と目的: 現在の抗血栓療法にもかかわらず、糖尿病(DM)患者または急性冠症候群(ACS)後のアスピリン抵抗性患者では、虚血性イベントの再発率が依然として高い。この集団において、1日2回のアスピリン投与が主要心血管イベント(MACE)を減少させるかどうかは未だ不明である。

方法: 本前向き多施設共同無作為化試験では、ACSおよびDMを有する患者、またはアスピリン耐性高リスク(HRAR)と定義される以下の患者を対象とする:(i) アスピリン服用中にインデックスイベントが発生する、(ii) BMI ≥ 27 kg/m2、または (iii) ウエスト周囲径の増加。
主要評価項目はMACE(死亡、心筋梗塞、脳卒中、緊急冠動脈血行再建術、ステント血栓症、または急性動脈血栓性イベントの複合)とし、初回イベント発生までの時間解析を用いて評価した。主要な副次評価項目は重篤な出血(Bleeding Academic Research Consortium type 3-5)とした。

結果: 合計2,484名が登録され、うち77.2%が糖尿病、55.5%がST上昇型心筋梗塞であった。追跡期間の中央値は18ヶ月(四分位範囲:17.6~18.3)であった。主要評価項目は、1日2回アスピリン群では1,228名中95名(7.7%)、1日1回アスピリン群では1,256名中110名(8.8%)に発現した(ハザード比[HR] 0.90、95%信頼区間[CI] 0.69~1.19、P = .42)。重篤な出血率は両群間で同程度であった(1.9% vs. 2.1%、HR 0.88、95%信頼区間[CI] 0.50~1.55)。

結論: ACSおよびDMまたはHRARを有する患者において、1日2回アスピリン投与は、1日1回投与と比較してMACEリスクを有意に低下させなかった。重篤な出血については、群間有意差は認められなかった。

試験登録: NCT02520921 /EUDRACT番号:2015-000947-18

キーワード: 急性冠症候群、アスピリン、アスピリン耐性、心血管イベント、糖尿病、心筋梗塞

引用文献

Aspirin dosing after acute coronary syndrome with suspected aspirin resistance: the ANDAMAN trial
Jean-Guillaume Dillinger et al. PMID: 40884757 DOI: 10.1093/eurheartj/ehaf680
Eur Heart J. 2025 Aug 30:ehaf680. doi: 10.1093/eurheartj/ehaf680. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40884757/

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