経口抗凝固薬服用中の慢性冠症候群患者におけるアスピリン追加の是非(DB-RCT; AQUATIC試験; N Engl J Med. 2025)

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経口抗凝固薬にアスピリンを追加すると?

慢性冠症候群(chronic coronary syndrome, CCS)を有し、長期に経口抗凝固薬(OAC)を服用している患者に対して、アスピリンなどの抗血小板薬を追加すべきかどうかは議論が続いています。

抗血小板薬の追加は血栓イベントの予防を期待できる一方で、出血リスク増加が懸念されますが、実臨床における検証は不充分です。

そこで今回は、フランスで実施された多施設共同の二重盲検ランダム化比較試験(AQUATIC試験)の結果をご紹介します。


試験結果から明らかになったことは?

◆方法

  • 試験デザイン:多施設・二重盲検・プラセボ対照・ランダム化比較試験(フランス)
  • 対象:ステント留置後6か月以上経過した慢性冠症候群患者、かつアテローム性血栓イベント高リスクでOAC長期内服中の患者
  • 介入
    • アスピリン群(100mg/日)
    • プラセボ群
      (いずれも背景のOACは継続)
  • 主要有効性アウトカム:心血管死、心筋梗塞、脳卒中、全身性塞栓症、冠血行再建術、急性下肢虚血の複合エンドポイント
  • 主要安全性アウトカム:大出血(major bleeding)

◆主な結果

  • 登録数:872例(アスピリン群 433例、プラセボ群 439例)
  • 追跡期間:中央値 2.2年(安全性委員会の勧告により早期終了)
アウトカムアスピリン群プラセボ群調整後HR(95%CI)P値
主要有効性アウトカム16.9%(73例)12.1%(53例)1.53(1.07–2.18)0.02
全死亡13.4%(58例)8.4%(37例)1.72(1.14–2.58)0.01
大出血10.2%(44例)3.4%(15例)3.35(1.87–6.00)<0.001
重篤な有害事象467件395件

◆考察

  • 有効性:主要複合心血管アウトカムは、アスピリン群でむしろ悪化(発症率上昇)。
  • 死亡率:全死亡もアスピリン群で増加。
  • 安全性:大出血リスクは3倍以上に上昇。

本試験は、OAC服用中の慢性冠症候群患者にアスピリンを追加することの有害性を明確に示しました。


◆試験の限界

  • 早期終了により、長期的な有効性評価は不十分。
  • 対象はフランス国内の患者であり、他国・他人種への外的妥当性には限界。

◆まとめ

  • OAC服用中のCCS患者にアスピリン追加は推奨されない
  • 心血管イベント・死亡・大出血のリスクを一貫して上昇させたため、ガイドライン見直しに影響を与える可能性がある。

ただし、国や地域、症例数が限られていることから、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。さらに、クロピドグレルなど他の抗血小板薬での検証も求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、経口抗凝固薬を服用中の動脈硬化血栓症リスクの高い慢性冠症候群患者の場合、アスピリン追加により、プラセボと比較して、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、全身性塞栓症、冠動脈血行再建術、または急性四肢虚血のリスクが高まり、また、全死亡および重篤な出血のリスクも高まった。

根拠となった試験の抄録

背景: アテローム血栓症のリスクが高く、長期にわたって経口抗凝固薬を服用している慢性冠症候群の患者に対する適切な抗血栓療法は依然として不明である。

方法: フランスにおいて、ステント留置術(登録前6ヶ月以上)を受け、アテローム血栓症リスクが高く、現在長期経口抗凝固療法を受けている慢性冠症候群患者を対象に、多施設共同、二重盲検、無作為化、プラセボ対照試験を実施した。患者は1:1の割合でアスピリン(100mg、1日1回)またはプラセボを投与される群に無作為に割り付けられた。全患者は現行の経口抗凝固療法を継続した。
主要有効性アウトカムは、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、全身性塞栓症、冠動脈血行再建術、または急性四肢虚血のいずれかの複合アウトカムであった。主要な安全性アウトカムは重篤な出血であった。

結果: 計872名の患者が無作為化され、433名がアスピリン群、439名がプラセボ群に割り付けられた。アスピリン群で全死因死亡例が過多であったため、中央値2.2年の追跡期間を経て、独立データ・安全性モニタリング委員会の助言により試験は早期に中止された。主要有効性アウトカムイベントは、アスピリン群で73名(16.9%)、プラセボ群で53名(12.1%)に発現した(調整ハザード比 1.53、95%信頼区間[CI] 1.07~2.18、P=0.02)。あらゆる原因による死亡は、アスピリン群で58例(13.4%)、プラセボ群で37例(8.4%)に認められました(調整ハザード比 1.72、95%CI 1.14~2.58、P = 0.01)。重篤な出血は、アスピリン群で44例(10.2%)、プラセボ群で15例(3.4%)に認められました(調整ハザード比 3.35、95%CI 1.87~6.00、P<0.001)。重篤な有害事象は、アスピリン群で467件、プラセボ群で395件報告されました。

結論: 経口抗凝固薬を服用している、動脈硬化血栓症リスクの高い慢性冠症候群患者の場合、アスピリンの追加により、プラセボと比較して、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、全身性塞栓症、冠動脈血行再建術、または急性四肢虚血のリスクが高まり、また、全死因死亡および重篤な出血のリスクも高まりました。

資金提供:フランス保健省およびバイエル ヘルスケアの助成

試験登録番号:ClinicalTrials.gov 番号 NCT04217447

引用文献

Aspirin in Patients with Chronic Coronary Syndrome Receiving Oral Anticoagulation
Gilles Lemesle et al. PMID: 40888725 DOI: 10.1056/NEJMoa2507532
N Engl J Med. 2025 Aug 31. doi: 10.1056/NEJMoa2507532. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40888725/

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