PCI後の抗血小板療法として優れる薬剤は?
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の患者では、二重抗血小板療法(DAPT:アスピリン+P2Y12阻害薬)が標準的に用いられます。
しかしDAPT終了後、単剤維持療法として「アスピリン」か「P2Y12阻害薬(クロピドグレルやチカグレロル)」のどちらが優れているかは議論が続いてきました。
しかし、これまでに結論は得られていません。
そこで今回は、個別患者データ(IPD)を用いたランダム化比較試験の参加者個人データを活用することにより、両者の長期比較を行ったメタ解析の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
◆研究方法
- 対象:PCI施行後に推奨されたDAPT(中央値12か月)を完了した患者
- 平均年齢:65歳 (IQR 57~73歳)
- 女性:23.8%
- 糖尿病:28.6%
- 中等度から重度の慢性腎臓病:14.6%
- 初回入院時に急性冠症候群と診断された患者:55.5%
- 解析データ:5件のランダム化比較試験(合計16,117人)
- ASCET
- CAPRIE (Clopidogrel versus Aspirin in Patients at Risk of Ischaemic Events)
- GLASSY (GLOBAL LEADERS Adjudication Sub-Study)
- HOST-EXAM (Harmonizing Optimal Strategy for Treatment of coronary artery stenosis-Extended Antiplatelet Monotherapy)
- STOPDAPT-2
- 介入:
- P2Y12阻害薬単剤(クロピドグレルまたはチカグレロル)
- クロピドグレル(商品名:プラビックス):58.7%
- チカグレロル(商品名:):41.3%
- アスピリン単剤
- P2Y12阻害薬単剤(クロピドグレルまたはチカグレロル)
- フォローアップ期間:中央値 1351日(約3.7年、IQR 373–1791日)
- 主要評価項目:
- MACCE(主要心血管・脳血管イベントの複合)
- 大出血(主要出血)
- 副次評価項目:
- NACCE(MACCE+大出血)
- 心筋梗塞、脳卒中など個別イベント
◆主な結果

アウトカム | P2Y12阻害薬単剤 vs. アスピリン単剤 | 解釈 |
---|---|---|
MACCE | HR 0.77(95%CI 0.67–0.89),P<0.001 | P2Y12阻害薬で有意に低下(NNT=45.5) |
大出血 | HR 1.26(95%CI 0.78–2.04),P=0.35 | 有意差なし |
NACCE | P2Y12阻害薬で低下 | 総合的なイベント抑制効果あり |
心筋梗塞 | P2Y12阻害薬で有意に減少 | MACCEリスク低減の主要因の一つ |
脳卒中 | P2Y12阻害薬で有意に減少 | 長期抑制効果を確認 |
死亡 | 差は明確でない | 本解析では死亡率に有意差は示されず |
◆結果の解釈
- P2Y12阻害薬単剤は、アスピリン単剤よりもMACCEを有意に減少させました。
- 効果は主に心筋梗塞と脳卒中の減少によるものでした。
- 一方で、大出血リスクはアスピリンと差がなく、安全性においても劣らない結果でした。
◆研究の限界
- 解析対象は5試験に限られており、対象集団が臨床現場すべてに一般化できるとは限りません。
- 試験間でP2Y12阻害薬の種類(クロピドグレル/チカグレロル)や患者背景に差があります。
- 主要出血の評価はイベント数が少なく、統計的な確実性に制限があります。
◆まとめ
PCI後にDAPTを完了した患者において、P2Y12阻害薬単剤療法はアスピリン単剤よりも長期的に心血管イベントを抑制し、出血リスクも増加させませんでした。
今後の臨床実践において、「DAPT終了後はアスピリン」という従来の定説が見直される可能性があります。
クロピドグレルは代謝酵素であるシトクロムP450(チトクローム、シトクロームとも呼ばれる;CYP)により2段階の代謝を経て、活性代謝物であるR-130964となり、P2Y12を不可逆的に阻害します。この代謝過程において、しばしば遺伝子多型(CYP2C19発現の人種差、個体差)が課題となります。一方、この遺伝子多型は日本人で比較的少ないことが報告されています。
今後は、患者予後におけるP2Y12阻害薬間の比較検証が求められるものと考えられます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 5件のランダム化比較試験の参加者個人データを用いたメタ解析の結果、PCIを受けDAPTを中止した患者では、約5.5年間の追跡調査で、チカグレロルまたはクロピドグレルによるP2Y12阻害剤単独療法は、アスピリン単独療法と比較して心筋梗塞および脳卒中の発生率が低下したためMACCEが低下し、同時に重篤な出血のリスクが増加することはなかった。
根拠となった試験の抄録
目的: 経皮的冠動脈インターベンション (PCI) および二重抗血小板療法 (DAPT) の中止後の患者におけるアスピリン単独療法と比較した P2Y 12阻害剤単独療法 の長期的な比較有効性を評価すること。
試験デザイン: ランダム化臨床試験の個別参加者データ (IPD) メタ分析。
データソース: PubMed/Medline、Scopus、Web of Science、Ovid/Embase。
研究を選択するための適格基準: PCIを受けた冠動脈疾患患者の虚血性イベントの二次予防を目的とした P2Y12阻害剤またはアスピリンの単独療法を検討するランダム化試験。
データ抽出と統合: 匿名化されたIPDは、専用の電子スプレッドシートによって抽出され、コーディネーションセンターに転送された。データは主に混合効果モデル(一段階解析)によって統合され、多変量混合効果モデルおよびランダム効果モデルに基づく二段階解析によって補完された。主要評価項目および副主要評価項目は、それぞれ主要な心血管系有害事象(MACCE)および脳血管系有害事象(重篤出血)の複合であった。副次的評価項目には、主要評価項目および副主要評価項目の組み合わせから算出された心血管系有害事象(NACCE)の純複合、ならびに個々の虚血性および出血性イベントが含まれた。
結果: 5件のランダム化試験において、PCIおよび推奨DAPTレジメンの完了後にP2Y 12阻害剤またはアスピリン単独療法 に割り当てられた患者16,117人が対象となった。追跡期間中央値1351日(四分位範囲 373~1791日)で、P2Y12阻害剤単独療法は、アスピリン単独療法と比較してMACCEのリスクが低いことが示され(1段階解析:ハザード比 0.77(95%信頼区間(CI)0.67~0.89)、P<0.001、多変量1段階解析:補正ハザード比 0.77(0.67~0.89)、P<0.001、2段階解析:ハザード比 0.77(0.67~0.89)、P<0.001)、有益性を得るための治療必要数は45.5(95% CI 31.4~93.6)となった。大出血については有意差は認められなかった(1段階解析:ハザード比1.26(0.78~2.04)、P=0.35、多変量1段階解析:1.12(0.74~1.70)、P=0.60、2段階解析:1.15(0.69~1.92)、P=0.59)。P2Y12阻害剤を投与された患者では、アスピリンを投与された患者と比較して、NACCE、心筋梗塞、および脳卒中の発生率が低かった。これらの結果は、複数の感度分析およびサブグループ解析を通じて確認された。
結論: PCIを受けDAPTを中止した患者では、約5.5年間の追跡調査で、チカグレロルまたはクロピドグレルによるP2Y 12阻害剤単独療法は、アスピリン単独療法と比較して心筋梗塞および脳卒中の発生率が低下したためMACCEが低下し、同時に重篤な出血のリスクが増加することはなかった。
レビュー登録: PROSPERO CRD42024517983
引用文献
P2Y12 inhibitor or aspirin after percutaneous coronary intervention: individual patient data meta-analysis of randomised clinical trials
Daniele Giacoppo et al. PMID: 40467090 PMCID: PMC12135077 DOI: 10.1136/bmj-2024-082561
BMJ. 2025 Jun 4:389:e082561. doi: 10.1136/bmj-2024-082561.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40467090/
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