尿酸降下薬の開始により痛風発作は起きるのか?
痛風治療において、尿酸降下薬(ULT)の開始や増量に伴って一時的に関節炎発作(痛風発作)が誘発されることはよく知られています。そのため、コルヒチンやNSAIDsといった予防的治療(flare prophylaxis)が併用されることがあります。
しかし、実際にどの薬剤や投与方法が有効なのか、また予防の期間や副作用のリスクは充分に明らかになっていません。
そこで今回は、これらの点を整理するために行われた系統的レビューとネットワークメタ解析の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
- 研究の目的:尿酸降下薬開始・増量時における痛風発作リスクを比較し、発作予防薬の有効性・副作用・至適使用期間を検討すること。
- 対象:成人の痛風患者を対象としたランダム化比較試験(1997年~2021年)。
- 方法:MEDLINE、Embase、Web of Science、Cochrane、臨床試験登録データベースを検索。27試験(29報告)が解析対象。リロナセプト、コルヒチンなどの予防薬を含むネットワークメタ解析を実施。
主な結果
- 尿酸降下薬導入時の発作リスク
- プラセボ+予防薬と比較した場合、痛風発作の相対リスク(RR)は薬剤・用量により異なる。
- 例:フェブキソスタット40mg+予防薬 → RR 1.08(95%CI 0.87–1.33)
- フェブキソスタット80mg+レシヌラド400mg+予防薬 → RR 2.65(95%CI 1.58–4.45)と高リスク。
- 発作予防薬の効果
- ULT単独と比較すると、以下の薬剤併用で発作リスクが有意に低下:
- リロナセプト160mg:RR 0.35(95%CI 0.25–0.50)
- リロナセプト80mg:RR 0.43(95%CI 0.31–0.60)
- コルヒチン:RR 0.50(95%CI 0.35–0.72)
- その他の予防薬に関するエビデンスは限られている。
- ULT単独と比較すると、以下の薬剤併用で発作リスクが有意に低下:
- バイアス評価
- 痛風発作に関しては71.4%、副作用に関しては63.4%の試験が「高リスク」と判定。
- 主な理由は欠測データや報告選択バイアス。
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◆試験の限界
- 対象試験の多くが小規模であり、欠測データが多い。
- 報告されていない副作用や予防期間に関するデータが限られている。
- レシヌラド併用など一部の投与戦略では症例数が少なく、結果の一般化に限界がある。
◆今後の検討課題
- 発作予防薬の至適投与期間に関する大規模試験が必要。
- リロナセプト以外の生物学的製剤や新規薬剤に関するエビデンスの蓄積。
- 副作用リスクと費用対効果の評価を含めた、臨床現場での実装可能性の検討。
これまでの治療では、痛風発作後の尿酸低下療法は、炎症症状が治まった後に実施されるのが通例でした。しかし、本試験結果を踏まえると、抗炎症薬と同時に尿酸低下療法を開始することで、痛風発作を回避しつつ、尿酸値のコントロールが行えるようです。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ システマティックレビュー・メタ解析の結果、尿酸降下薬(ULT)導入時の痛風発作の発生率は、ULT薬剤と投与戦略によって異なることが示された。コルヒチンとリロナセプトによる痛風発作の予防は、発生率を低下させるようであった。
根拠となった試験の抄録
目的: さまざまな尿酸降下療法(ULT)の開始後または増量後の痛風発作リスクの比較、同時発作予防の有無による発作リスクの比較、発作予防に関連する有害事象発生率、および発作予防の最適期間を体系的に調査しました。
方法: 2021年11月までの期間に、痛風の成人患者を対象にULTを開始または増量した試験について、Medline、Embase、Web of Science、Cochraneデータベースおよび臨床試験登録を検索した。ランダム効果ネットワークメタアナリシスを実施し、治療間のリスク比(RR)を算出した。バイアスは、改訂版Cochraneバイアスリスクツールを用いて評価した。
結果: 3,775件の記録が特定され、そのうち29件の論文(27件の試験)が含まれた。プラセボと予防療法の併用と比較した場合、再燃の相対リスクは、フェブキソスタット40mgと予防療法の併用で1.08(95%信頼区間[CI] 0.87-1.33)から、フェブキソスタット80mgとレシヌラド400mgと予防療法の併用で2.65(95%CI 1.58-4.45)までの範囲であった。 ULT単独と比較して、ULT+リロナセプト160 mg(相対リスク0.35、95%CI 0.25-0.50)、ULT+リロナセプト80mg(相対リスク 0.43、95%CI 0.31-0.60)、およびULT+コルヒチン(相対リスク 0.50、95%CI 0.35-0.72)では、再燃の相対リスクが低かった。その他の再燃予防法、予防法の有害事象、および至適投与期間に関するエビデンスは限られていた。主にアウトカムデータの欠落と報告結果の選択におけるバイアスのため、研究の71.4%と63.4%が、再燃および有害事象についてそれぞれ高バイアスリスクと評価された。
結論: ULT導入時のフレア発生率は、ULT薬剤と投与戦略によって異なります。ULTの増量に関するデータは限られています。コルヒチンとリロナセプトによるフレア予防は、フレア発生率を低下させます。予防の有害事象と最適な期間については、さらなる研究が必要です。
引用文献
Comparative Risk of Gout Flares When Initiating or Escalating Various Urate-Lowering Therapy: A Systematic Review With Network Meta-Analysis
Dorsa Maher et al. PMID: 38303574 DOI: 10.1002/acr.25309
Arthritis Care Res (Hoboken). 2024 Jun;76(6):871-881. doi: 10.1002/acr.25309. Epub 2024 Mar 14.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38303574/
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