抗凝固療法時代でも脳梗塞は「再発」する
心房細動(AF)は虚血性脳卒中の主な原因とされており、抗凝固薬(OAC)による予防が推奨されています。しかし、近年の研究や臨床現場からは「抗凝固薬を服用していても再発する」というケースが一定数報告されています。
そこで今回は、AFに起因する脳梗塞の再発リスクを明らかにすることを目的に、過去の複数研究を統合したシステマティックレビューおよびメタ解析の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
指標 | 結果 | 95%信頼区間 |
---|---|---|
再発虚血性脳卒中(全体) | 3.75%/年 | 3.17–4.33 |
‐ 観察研究 | 4.20%/年 | 3.41–4.99 |
‐ RCT | 2.26%/年 | 1.96–2.57 |
全再発脳卒中(虚血+出血) | 4.88%/年 | 3.87–5.90 |
出血性脳卒中(ICH) | 0.58%/年 | 0.43–0.73 |
抗凝固薬使用中に脳梗塞を発症した人の再発率 | ||
‐ 再発虚血性脳卒中 | 7.20%/年 | 5.05–9.34 |
‐ 全脳卒中 | 8.96%/年 | 8.25–9.67 |
‐ ICH | 1.40%/年 | 0.40–2.40 |
- 抗凝固療法(OAC)を行っていても年間3.75%の再発虚血性脳卒中リスクが残存
- 抗凝固薬を服用していても1年間で10人中1人近くが何らかの脳卒中を再発
- 観察研究のほうが再発率が高く(RCTとの比較)、現実臨床の厳しさが反映されている可能性あり
コメント:抗凝固療法は万全ではないという事実
このメタ解析により、以下の臨床的な示唆が得られます。
1. OAC服用中でも再発は起こる
本研究の最大のメッセージは、抗凝固薬を適切に服用していても再発リスクは決してゼロではないという現実です。特に、すでにOAC使用中に脳梗塞を発症した症例では、年間7.2%という非常に高い再発リスクが示されました。
2. RCTよりも観察研究の方がリスクは高く報告
日常臨床では服薬アドヒアランス、高齢者のフレイル、合併症などが複雑に絡むことが、再発率の高さに影響している可能性があります。
3. 今後の課題:リスク層別化と新たな治療戦略
既存のCHA₂DS₂-VAScスコアだけでは不十分な可能性もあり、新たなリスク層別化手法や機序標的型治療の導入が求められています。たとえば、抗血小板薬併用や、抗凝固薬の最適化、リズムコントロール戦略などの組み合わせが検討対象です。
心房細動患者では、心不全を効率に発症することが報告されています。このような背景からも、抗凝固療法のみでは脳梗塞、心筋梗塞の発症リスクをゼロにできないことは自明でしょう。
どのような患者に、どのような治療を、どのくらいの期間実施するのが患者予後の改善につながるのか、更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ システマティックレビュー・メタ解析の結果、現代的な予防療法を用いても、AF関連脳卒中後の再発リスクは高く、5年時点で6人に1人の患者が再発性虚血性脳卒中を経験すると推定された。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性: 心房細動(AF)は脳卒中の主な原因であり、経口抗凝固薬(OAC)はこのリスクを低減します。しかし、AF患者における再発性脳卒中の残存リスクに関するデータは限られています。
目的: 系統的レビューとメタ解析を実施して、AF患者の再発性脳卒中リスクを決定すること。
データソース: 対象となる研究は、開始時(Ovid: 1946年1月、Embase: 1970年1月)から2025年1月までOvid MEDLINEおよびEmbaseを検索して特定されました。
研究の選択: 虚血性脳卒中および心房細動の既往歴を有する患者を登録し、再発性脳卒中の発症率に関する情報が報告され、1年以上の追跡調査データを有する研究を適格とした。3名の査読者が独立して抄録を審査し、全文レビューを実施した。
データ抽出と統合: データ抽出は2名の査読者によって行われ、3人目の査読者によって独立して検証されました。発生率はランダム効果メタアナリシスを用いて統合されました。OACにもかかわらず適格イベントが発生した患者についても解析が繰り返されました。研究の質はQuality In Prognosis Studiesツールを用いて評価されました。
主要評価項目および評価基準: 主要評価項目は再発性虚血性脳卒中であった。副次評価項目は、再発性脳卒中(虚血性脳卒中または脳内出血[ICH])および追跡期間中のICHであった。
結果: 合計23件の研究が同定され、78,733人の患者と140,307年間の追跡調査が含まれていました。研究全体におけるOAC使用率の中央値は92%でした。再発性虚血性脳卒中の統合発生率は年間3.75%(95%信頼区間 3.17%~4.33%)でした。このリスクは、非介入観察コホート(年間4.20%、95%信頼区間 3.41%~4.99%)の方が、ランダム化比較試験(年間2.26%、95%信頼区間 1.96%~2.57%)よりも高かった(交互作用のP値<0.001)。再発性脳卒中のリスクは年間4.88%(95%信頼区間 3.87%~5.90%)、脳出血(ICH)リスクは年間0.58%(95%信頼区間 0.43%~0.73%)でした。OACにもかかわらず脳卒中を発症した患者では、虚血性脳卒中のリスクは年間7.20%(95%信頼区間 5.05%~9.34%)、あらゆる脳卒中のリスクは年間8.96%(95%信頼区間 8.25%~9.67%)、脳出血のリスクは年間1.40%(95%信頼区間 0.40%~2.40%)でした。
結論と関連性: 本システマティックレビューとメタアナリシスでは、現代的な予防療法を用いても、AF関連脳卒中後の再発リスクは高く、5年時点で6人に1人の患者が再発性虚血性脳卒中を経験すると推定されています。これらのデータは、再発の原因となる生物学的プロセスの理解を深め、リスク層別化を改善し、AF関連脳卒中後の新たな二次予防戦略を開発することが緊急に必要であることを示しています。
引用文献
Residual Risk of Recurrent Stroke Despite Anticoagulation in Patients With Atrial Fibrillation: A Systematic Review and Meta-Analysis
John J McCabe et al. PMID: 40394992 PMCID: PMC12096328 (available on 2026-05-21) DOI: 10.1001/jamaneurol.2025.1337
JAMA Neurol. 2025 May 21:e251337. doi: 10.1001/jamaneurol.2025.1337. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40394992/
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