初期治療におけるエンパグリフロジン+フィネレノン併用効果はどのくらいなのか?
慢性腎臓病(CKD)と2型糖尿病を併発する患者において、腎機能の悪化やアルブミン尿の進行をいかに抑えるかは、実臨床において大きな課題です。
SGLT2阻害薬やフィネレノン(非ステロイド性MR拮抗薬)は、それぞれ腎保護効果が示されていますが、併用療法による相加的な効果についてはエビデンスが限定的でした。
今回ご紹介するのは「CONFIDENCE試験」として実施されたランダム化比較試験です。本研究では、初期治療戦略としてエンパグリフロジンとフィネレノンの併用効果を検証しています。
試験の概要(CONFIDENCE試験)
- 研究デザイン:多施設共同・ランダム化・二重盲検
- 対象者:
- CKD(eGFR 30〜90mL/min/1.73m²)かつ尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)100〜5000mg/g
- 2型糖尿病を合併
- RAS阻害薬をすでに使用中
- 介入群:
- フィネレノン単剤群(10または20mg/日)
- エンパグリフロジン単剤群(10mg/日)
- 両薬併用群
試験結果から明らかになったことは?
UACRの変化
比較群 | 尿中アルブミン/Cr比(UACR)の変化 | 統計的有意性 |
---|---|---|
併用群 vs フィネレノン単剤 | 29%の追加的低下 (比率 0.71; 95%CI 0.61–0.82) | P<0.001 |
併用群 vs エンパグリフロジン単剤 | 32%の追加的低下 (比率 0.68; 95%CI 0.59–0.79) | P<0.001 |
中央値で見ると、ベースラインUACRは各群ともほぼ同等(約579mg/g)であり、180日後の変化において併用療法が最も大きな改善を示しました。
安全性について
- 有害事象:重篤な副作用や新たな安全性シグナルは認められず。
- 中止に至った副作用:
- 症候性低血圧、急性腎障害、高カリウム血症などはいずれの群でも稀でした。
薬剤師の視点|臨床現場での位置づけ
この試験は、「CKD+2型糖尿病」患者に対してSGLT2阻害薬とフィネレノンを同時に導入することが有効かつ安全である可能性を示した初のRCTです。ただし、ソフトアウトカムであることに注意した方が良いでしょう。現時点では、患者予後を明確に改善するとは言えません。
実際の臨床判断では以下のような活用が期待されます。
- RAS阻害薬で治療中でもUACRが残存している症例に対し、両剤の同時導入を検討する根拠
- 重篤な副作用が少ないことから、比較的早期の段階からの導入も視野に
- フィネレノンの高カリウム血症リスクをSGLT2阻害薬が一部軽減する可能性も示唆されており、併用の安全性にも注目
今後の課題と展望
- この研究は短期(180日)の変化に着目しており、長期的な腎イベントや心血管イベント抑制効果については今後の検証が必要です。
- また、日本人を含むエスニック集団ごとの効果差、フィネレノンの用量別効果についての分析にも期待が寄せられています。
2025年5月におけるフィネレノン(商品名:ケレンディア)の適応症は「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病<末期腎不全又は透析施行中の患者を除く>」のみですが、2025年2月14日、バイエル薬品がケレンディアの「慢性心不全」の適応追加を国内申請しています。
SGLT-2阻害薬の中には慢性心不全に対する適応症も有しているものがありますので、今回のケースと同様に併用療法による相乗効果が期待できるかもしれません。ただし、本試験では患者予後を直接検証していません。具体的には死亡リスクや透析導入、心血管イベントなどの、臨床上より重要なアウトカムについての検証が行われていません。
いずれにせよ、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、慢性腎臓病と2型糖尿病の両方を患っている集団において、フィネレノンとエンパグリフロジンの併用による初期治療は、どちらか一方の治療単独よりも尿中アルブミン/クレアチニン比の大幅な低下をもたらした。
根拠となった試験の抄録
背景: 慢性腎臓病および2型糖尿病患者におけるナトリウム-グルコース共輸送体(SGLT)2阻害剤と非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノン(商品名:ケレンディア)の同時開始を支持する証拠は限られている。
方法: 慢性腎臓病(推定糸球体濾過率[eGFR]、30~90mL/min/体表面積1.73m2)、アルブミン尿(尿中アルブミン/クレアチニン比 100~5000以下 [アルブミンはmg、クレアチニンはgで測定])、2型糖尿病で、すでにレニン-アンジオテンシン系阻害薬を服用している参加者を、1:1:1の比率で、フィネレノン(エンパグリフロジンと同量のプラセボを併用)1日10または20 mgの投与、エンパグリフロジン(フィネレノンと同量のプラセボを併用)、またはフィネレノンとエンパグリフロジンの併用を投与する群にランダムに割り当てた。
主要評価項目は、対数変換した尿中アルブミン/クレアチニン比のベースラインから180日目までの相対変化量とした。安全性についても評価した。
結果: ベースラインでは、尿中アルブミン/クレアチニン比は3群の参加者間で同様であり、利用可能なデータのある参加者(併用療法群では265人、フィネレノン群では258人、エンパグリフロジン群では261人)における中央値は579(四分位範囲 292~1092)であった。 180日目における尿中アルブミン/クレアチニン比の低下は、併用療法ではフィネレノン単独療法と比較して29%(ベースラインからの変化量の差の最小二乗平均比 0.71、95%信頼区間[CI] 0.61~0.82、P<0.001)、エンパグリフロジン単独療法と比較して32%(ベースラインからの変化量の差の最小二乗平均比 0.68、95%CI 0.59~0.79、P<0.001)大きく低下した。いずれの薬剤も、単独療法および併用療法において予期せぬ有害事象は認められなかった。薬剤投与中止に至った症候性低血圧、急性腎障害、および高カリウム血症はまれであった。
結論: 慢性腎臓病と2型糖尿病の両方を患っている集団において、フィネレノンとエンパグリフロジンの併用による初期治療は、どちらか一方の治療単独よりも尿中アルブミン/クレアチニン比の大幅な低下をもたらしました。
資金提供:バイエル社
試験登録番号:ClinicalTrials.gov番号 NCT05254002
参考文献
Finerenone with Empagliflozin in Chronic Kidney Disease and Type 2 Diabetes
Rajiv Agarwal et al. PMID: 40470996 DOI: 10.1056/NEJMoa2410659
N Engl J Med. 2025 Jun 5. doi: 10.1056/NEJMoa2410659. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40470996/
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