急性期脳梗塞治療における「テネクテプラーゼ+血栓回収療法」の効果を検証
急性期脳梗塞、とくに大血管閉塞(LVO, large-vessel occlusion)を伴う症例では、血管内治療(endovascular thrombectomy)が治療の中心ですが、その前段階として血栓溶解療法(IVT)を併用すべきかどうかは議論の分かれるところです。
従来使用されてきたアルテプラーゼ(tPA)に代わり、テネクテプラーゼ(tenecteplase)の有用性を示す報告が増えつつありますが、実臨床における検証は充分に行われていません。
そこで今回ご紹介するのは、血栓回収療法前のテネクテプラーゼ静注の有効性と安全性について検討した非盲検ランダム化比較試験(BRIDGE-TNK試験)の結果です。
試験結果から明らかになったことは?
試験概要
項目 | 内容 |
---|---|
試験名 | BRIDGE-TNK試験(中国) |
登録番号 | NCT04733742 |
デザイン | 多施設共同・オープンラベル・ランダム化比較試験 |
対象 | 大血管閉塞による急性虚血性脳卒中患者(発症から4.5時間以内) |
介入群 | テネクテプラーゼ静注+血栓除去療法(n=278) |
対照群 | 血栓除去療法単独(n=272) |
主要評価項目 | modified Rankin Scale(mRS)0~2での機能的自立(90日後) |
副次評価項目 | 血栓回収前後の再灌流成功率、安全性(48時間以内の有症性頭蓋内出血、90日以内の死亡率) |
主な結果
評価項目 | テネクテプラーゼ+血栓除去療法群 | 血栓除去療法単独群 | 未調整リスク比 RR |
---|---|---|---|
mRS 0–2(90日後) | 52.9%(147/278) | 44.1%(120/272) | RR 1.20 (95%CI 1.01–1.43) P=0.04 |
血栓除去前の再灌流成功 | 6.1% | 1.1% | – |
血栓除去後の再灌流成功 | 91.4% | 94.1% | – |
有症性頭蓋内出血(48時間以内) | 8.5% | 6.7% | – |
90日以内の死亡率 | 22.3% | 19.9% | – |
コメント
本研究は、大血管閉塞による急性期脳梗塞患者において、テネクテプラーゼの静注が機能的転帰の改善につながる可能性を示した、貴重なRCTです。
一方、テネクテプラーゼ+血栓除去療法群において、頭蓋内出血および90日後の死亡リスクが高い点は注意を要します。リスクベネフィット、コストの観点から継続的な評価が求められます。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められるところです。
続報に期待。
臨床的インパクト
- 機能的自立率(mRS 0–2)が有意に改善(52.9% vs. 44.1%、P=0.04)
- テネクテプラーゼによる前方循環再開(血栓回収前)の達成が5%向上
- 有症性頭蓋内出血や死亡率において、安全性に大きな差は認められなかった
限界と考慮点
- オープンラベルデザインであるため、バイアスの影響が否定できない
- 全例が中国で登録されており、他人種・他国への一般化には慎重さが必要
- 長期予後(6か月以上)に関するデータは未評価
+αの情報:mRSとは?
modified Rankin Scale(修正ランキンスケール)の略で、脳血管障害や神経障害の機能的評価に用いられるスケールの一つです。以下の7段階に分類され、1段階の変化が臨床的に意義のあるものと捉えることができます。
mRS=0(まったく症候がない):自覚症状と他覚徴候がともにない状態。
mRS=1(症候はあっても明らかな障害なし):日常の勤めや活動が可能。自覚症状と他覚徴候はあるが、 発症以前から行っていた活動に制限はない状態。
mRS=2(軽度の障害):発症以前の活動が全て行えるわけではないが、 身の回りのことは介助なしに行える。発症以前から行っていた活動に制限はあるが、 日常生活は自立している状態
mRS=3(中等度の障害):何らかの介助を要するが、歩行は介助なしに可能。買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を要するが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助不要な状態。
mRS=4(中等度から重度の障害):歩行や身体的要求には介助を要する。通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は不要な状態。
mRS=5(重度の障害):寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを要する。常に誰かの介助を要する状態。
mRS=6(死亡)
mRS出典元:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3363593

✅まとめ✅ 非盲検ランダム化比較試験の結果、発症後4.5時間以内に受診した大血管閉塞による急性虚血性脳卒中患者のうち、静脈内テネクテプラーゼと血管内血栓除去術を併用した場合、血管内血栓除去術単独の場合よりも90日時点で機能的自立を達成した患者の割合が高かった。一方で、頭蓋内出血および90日後の死亡リスクが高かった。
根拠となった試験の抄録
背景: 大血管閉塞による急性虚血性脳卒中の患者に対する血管内血栓除去術前の静脈内テネクテプラーゼ治療の安全性と有効性は依然として不明である。
方法: 中国で実施した本オープンラベル試験では、発症後4.5時間以内に来院し、血栓溶解療法の適応となった大血管閉塞による急性虚血性脳卒中患者を、静脈内テネクテプラーゼ投与後に血管内血栓除去術を行う群と、血管内血栓除去術のみを行う群に無作為に割り付けた。
主要評価項目は、90日時点の機能的自立度(修正ランキンスケール 0~2点、範囲 0~6点、高スコアほど重度の障害を示す)とした。副次評価項目は、血栓除去術前後の再灌流成功とした。安全性評価項目は、48時間以内の症候性頭蓋内出血および90日以内の死亡とした。
結果: 278名の患者がテネクテプラーゼ血栓除去群に、272名が血栓除去単独群にランダムに割り付けられた。90日時点での機能的自立は、テネクテプラーゼ血栓除去群で147名(52.9%)、血栓除去単独群で120名(44.1%)に認められた(未調整リスク比 1.20、95%信頼区間 1.01~1.43、P=0.04)。テネクテプラーゼ血栓除去群の患者のうち6.1%、血栓除去単独群の患者のうち1.1%が血栓除去前の再灌流に成功し、血栓除去後の再灌流はそれぞれ91.4%と94.1%が成功した。48時間以内に症状のある頭蓋内出血が起こったのは、テネクテプラーゼ血栓除去群の患者で8.5%、血栓除去単独群の患者で6.7% でした。90日後の死亡率はそれぞれ22.3%と19.9%でした。
結論: 発症後4.5時間以内に受診した大血管閉塞による急性虚血性脳卒中患者のうち、静脈内テネクテプラーゼと血管内血栓除去術を併用した場合、血管内血栓除去術単独の場合よりも90日時点で機能的自立を達成した患者の割合が高かった。
資金提供:重慶科学健康共同医療研究プロジェクトなど
試験登録番号:ClinicalTrials.gov番号 NCT04733742
引用文献
Intravenous Tenecteplase before Thrombectomy in Stroke
Zhongming Qiu et al. PMID: 40396577 DOI: 10.1056/NEJMoa2503867
N Engl J Med. 2025 May 21. doi: 10.1056/NEJMoa2503867. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40396577/
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