ST上昇型心筋梗塞を有する高齢者に対するテネクテプラーゼ半量投与は有効ですか?(Open-RCT; STREAM-2; Circulation. 2023)

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高齢者における血栓溶解薬は半量の方が良いのか?

ST上昇型心筋梗塞(ST-Segment-Elevation Myocardial Infarction, STEMI)は冠動脈の血栓閉塞により心筋に貫璧性虚血が生じており、発症から再灌流達成までの時間が心筋梗塞の大きさや予後に影響を与えることが知られています。したがって、STEMIでは早期の再灌流療法が必要となります。

STEMIに対する再灌流治療として、血栓溶解薬による血栓溶解療法を先行させることなく、カテーテルによる経皮的冠動脈形成術(Percutaneous Coronary Intervention, PCI)を選択することをprimary PCIといいます。血栓溶解療法よりもprimary PCIの方が予後を改善することが報告されており、日本の診療ガイドラインにおいても発症12時間以内のSTEMI患者に対し可能な限り迅速にprimary PCIを行うことが推奨されています(推奨クラス I、エビデンスレベル A)。日本では全国のほとんどの地域にPCI施行施設があるため、大部分の症例でPrimary PCIが選択され、血栓溶解療法が行われることは稀ですが、他の国や地域ではprimary PCI実施が困難とされる場合があります。

Primary PCIが不可能な場合、薬物侵襲的治療が推奨されていますが、高齢者においては頭蓋内出血のリスク増加が報告されていることから、リスク・ベネフィット評価が求められます。

そこで今回は、テネクテプラーゼ通常用量と半量による薬物侵襲的治療が高齢のSTEMI患者において有効かつ安全であるかどうかを検証したランダム化比較試験の結果をご紹介します。

STREAM-2(Strategic Reperfusion in Elderly Patients Early After Myocardial Infarction)は医師主導の非盲検ランダム化多施設共同試験でした。60歳以上で近接する少なくとも2誘導に2mm以上のST上昇を有し、1時間以内にprimary PCIを施行できない患者を、半量のテネクテプラーゼ投与後に冠動脈造影を行い、ランダム化後6~24時間後にPCI(適応があれば)を施行する群と、primary PCIを施行する群にランダムに割り付けました(2:1)。

本試験の有効性のエンドポイントはST消失と30日後の死亡、ショック、心不全、再梗塞の複合でした。安全性の評価項目は脳卒中と非頭蓋内出血でした。

試験結果から明らかになったことは?

患者は薬物侵襲的治療群(n=401)とプライマリーPCI群(n=203)に割り付けられました。ランダム化からテネクテプラーゼまたはシース挿入までの時間の中央値はそれぞれ10分と81分でした。最終血管造影後、薬物-侵襲的治療を受けた患者の85.2%、primary PCIを受けた患者の78.4%がST上昇を50%以上消失しており、ST偏位の残存中央値はそれぞれ4.5mmと5.5mmでした。最終血管造影時の血栓溶解心筋梗塞フローグレード3は両群とも≈87%でした。

薬物-侵襲的治療
(テネクテプラーゼ半量投与)
primary PCI相対リスク
(95%CI)
複合臨床エンドポイント
30日後の死亡、ショック、心不全、再梗塞
12.8%
(51/400例)
13.3%
(27/203例)
相対リスク 0.96
(95%CI 0.62〜1.48

複合臨床エンドポイントは薬物-侵襲的治療を受けた患者の12.8%(51/400例)、primary PCIを受けた患者の13.3%(27/203例)に発生しました(相対リスク 0.96、95%CI 0.62〜1.48)。

頭蓋内出血は薬物-侵襲群で6例(1.5%)に発生しました。このうち3例はプロトコール違反でした(2例は過剰抗凝固療法、1例はコントロールされていない高血圧)。Primary PCI群では頭蓋内出血は発生しませんでした。頭蓋外大出血の発生率は両群とも低いことが示されました(<1.5%)。

コメント

ST上昇型心筋梗塞を有する高齢者において、primary PCIを実施できない場合の血栓溶解薬の用量について、患者予後は充分に検証されていません。

さて、非盲検ランダム化比較試験の結果、早期発症の高齢STEMI集団における薬理学的侵襲的戦略におけるテネクテプラーゼの半量投与は、少なくともprimary PCI後の心電図変化と同等でした。頭蓋内出血はテネクテプラーゼ半量投与群の6例に発生しましたが、このうちの3例はプロトコール違反であり、全体の発生率としても高くはない値です。したがって、過剰な抗凝固療法を避けることで、テネクテプラーゼ半量投与後のPCI実施は、primary PCIの代替療法になり得ると考えられます。

より大規模な試験での追試が求められます。続報に期待。

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✅まとめ✅ 早期発症の高齢STEMI集団における薬理学的侵襲的戦略におけるテネクテプラーゼの半量投与は、少なくともprimary PCI後の心電図変化と同等であった。

根拠となった試験の抄録

背景:ST上昇型心筋梗塞(STEMI)のガイドラインでは、適時の一次的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が不可能な場合、薬物侵襲的治療が推奨されている。フル用量のテネクテプラーゼは高齢者では頭蓋内出血のリスク上昇と関連している。半量のテネクテプラーゼによる薬物侵襲的治療が高齢のSTEMI患者において有効で安全であるかどうかは不明である。

方法:STREAM-2(Strategic Reperfusion in Elderly Patients Early After Myocardial Infarction)は医師主導の非盲検ランダム化多施設共同試験であった。60歳以上で近接する少なくとも2誘導に2mm以上のST上昇を有し、1時間以内にprimary PCIを施行できない患者を、半量のテネクテプラーゼ投与後に冠動脈造影を行い、ランダム化後6~24時間後にPCI(適応があれば)を施行する群と、primary PCIを施行する群にランダムに割り付けた(2:1)。有効性のエンドポイントはST消失と30日後の死亡、ショック、心不全、再梗塞の複合であった。安全性の評価項目は脳卒中と非頭蓋内出血であった。

結果:患者は薬物侵襲的治療群(n=401)とプライマリーPCI群(n=203)に割り付けられた。ランダム化からテネクテプラーゼまたはシース挿入までの時間の中央値はそれぞれ10分と81分であった。最終血管造影後、薬物-侵襲的治療を受けた患者の85.2%、primary PCIを受けた患者の78.4%がST上昇を50%以上消失しており、ST偏位の残存中央値はそれぞれ4.5mmと5.5mmであった。最終血管造影時の血栓溶解心筋梗塞フローグレード3は両群とも≈87%であった。複合臨床エンドポイントは薬物侵襲的治療を受けた患者の12.8%(51/400例)、primary PCIを受けた患者の13.3%(27/203例)に発生した(相対リスク 0.96、95%CI 0.62〜1.48)。頭蓋内出血は薬物-侵襲群で6例(1.5%)発生した:3例はプロトコール違反であった(2例は過剰抗凝固療法、1例はコントロールされていない高血圧)。Primary PCI群では頭蓋内出血は発生しなかった。頭蓋外大出血の発生率は両群とも低かった(<1.5%)。

結論:この早期発症の高齢STEMI集団における薬理学的侵襲的戦略におけるテネクテプラーゼの半量投与は、少なくともprimary PCI後の心電図変化と同等であった。臨床効果と血管造影上のエンドポイントは両治療群で同等であった。頭蓋内出血のリスクはprimary PCIよりも半量のテネクテプラーゼの方が高かった。即時PCIが不可能な場合、線溶の禁忌を遵守し、過剰な抗凝固療法を避けることを条件に、この薬理侵襲的戦略は妥当な代替法である。

試験登録:Clinicaltrials.gov. NCT02777580

キーワード:ST上昇型心筋梗塞、経皮的冠動脈インターベンション、再灌流、テネクテプラーゼ

引用文献

Half-Dose Tenecteplase or Primary Percutaneous Coronary Intervention in Older Patients With ST-Segment-Elevation Myocardial Infarction in STREAM-2: A Randomized, Open-Label Trial
Frans Van de Werf et al. PMID: 37439219 DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.123.064521
Circulation. 2023 Jul 13. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.123.064521. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37439219/

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