ウイルス性胃腸炎は唾液を介しても感染する?

ノロウイルス、ロタウイルス、アストロウイルスなどの腸管ウイルスは、長い間、経口感染(糞口感染)によって集団内に拡散すると考えられてきました。
ウイルスは、ある宿主から糞便中に排出され、唾液腺(SG)を迂回して別の宿主の口腔に入り、腸に到達して複製され、糞便中に排出され、感染サイクルを繰り返します。しかし、SGに感染するウイルス(例えば狂犬病)も存在します。そのため、口腔は複製場所であり、唾液は感染経路のひとつとなっていると考えられます。
このように、糞口感染経路だけでは説明のつかない感染が報告されています。
そこで今回は、唾液を介した感染経路の可能性について検証した基礎研究の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?

基礎研究の結果、腸内ウイルスが唾液中に放出されることが証明され、第2のウイルス感染経路が特定されました。
このことは、感染した乳児にとって特に重要であると考えられます。乳児の唾液は、哺乳中の逆流によって腸管ウイルスを母親の乳腺に直接感染させるためです。
これは従来の腸-乳腺軸ルートを回避し、母乳分泌性IgA抗体の急速な増加をもたらします。
最後に、唾液腺由来のスフェロイド(細胞同士が凝集して塊になったもの)と細胞株が腸内ウイルスを複製・増殖できることが示され、スケーラブルで管理可能な生産システムを構築していることも明らかとなりました。
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ウイルス性胃腸炎の原因となるノロウイルス、ロタウイルス、アストロウイルスなどは、糞口感染によるものが主であると考えられてきました。しかし、他の感染経路については充分に検証されていません。
さて、基礎研究の結果、腸内ウイルスの新たな感染経路として唾液が関与していることが明らかになりました。本研究結果は、治療薬、診断薬、そして唾液による感染を防ぐための衛生対策に重要な示唆を与えることになるります。
胃腸炎の家庭内感染等を防ぐために、唾液を介した感染経路についても対策をした方が良さそうです。
糞口感染、唾液感染を防ぐための介入が、感染リスクを低下させることができるのか、更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 基礎研究の結果、腸内ウイルスの新たな感染経路として唾液が関与していることが明らかになった。本研究結果は、治療薬、診断薬、そして唾液による感染を防ぐための衛生対策に重要な示唆を与えることになる。
根拠となった試験の抄録
背景:ノロウイルス、ロタウイルス、アストロウイルスなどの腸管ウイルスは、長い間、糞口感染によって集団内に拡散すると考えられてきた。ウイルスは、ある宿主から糞便中に排出され、唾液腺(SG)を迂回して別の宿主の口腔に入り、腸に到達して複製され、糞便中に排出され、感染サイクルを繰り返す。しかし、SGに感染するウイルス(例えば狂犬病)も存在する。そのため、口腔は複製場所であり、唾液は感染経路のひとつとなっている。ここでわれわれは、腸内ウイルスが生産的かつ持続的にSGに感染し、腸内と同等の力価に達することを報告する。
結果:我々は、腸内ウイルスが唾液中に放出されることを証明し、第2のウイルス感染経路を特定した。このことは、感染した乳児にとって特に重要である。乳児の唾液は、哺乳中の逆流によって腸管ウイルスを母親の乳腺に直接感染させるからである。これは従来の腸-乳腺軸ルートを回避し、母乳分泌性IgA抗体の急速な急増をもたらす。最後に、SG由来のスフェロイド(細胞同士が凝集して塊になったもの)と細胞株が腸内ウイルスを複製・増殖できることを示し、スケーラブルで管理可能な生産システムを構築した。
結論:これらの研究を総合すると、腸内ウイルスの新たな感染経路が明らかになり、治療薬、診断薬、そして唾液による感染を防ぐための衛生対策に重要な示唆を与えることになる。
引用文献
Enteric viruses replicate in salivary glands and infect through saliva
S Ghosh et al. PMID: 35768512 PMCID: PMC9243862 DOI: 10.1038/s41586-022-04895-8
Nature. 2022 Jul;607(7918):345-350. doi: 10.1038/s41586-022-04895-8. Epub 2022 Jun 29.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35768512/
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