脳卒中とCOPDを有する患者における経皮吸収型ツロブテロールの影響は?
経皮吸収型ツロブテロール(商品名:ホクナリンテープ)は、経皮吸収型の長時間作用型β作動薬であり、日本、韓国、中国を含む一部の国で入手可能です。経皮吸収型ツロブテロールは、急性脳卒中など吸入器を効果的に使用できない患者における慢性閉塞性肺疾患(COPD)管理の代替治療選択肢となる可能性があります。しかし、実臨床における検証は充分ではありません。
そこで今回は、急性脳卒中で入院し、COPDの基礎疾患を有する患者における経皮ツロブテロールの短期転帰を検討したコホート研究の結果をご紹介します。
本研究では、日本の全国入院患者データベースであるDiagnosis Procedure Combinationデータベースを用いて、2010年7月~2021年3月に入院した脳卒中および基礎疾患としてCOPDを有する患者が同定されました。
入院後2日以内に経皮ツロブテロールを開始した患者と、入院中に使用しなかった患者との間で、傾向スコア重複重み付けを行い、院内死亡、COPD増悪、肺炎、心合併症について比較しました。
試験結果から明らかになったことは?
対象患者1,878例のうち、189例が入院後2日以内に経皮ツロブテロールの投与を受けました。
経皮ツロブテロール使用群 | 非使用群 | オッズ比 (95%CI) | |
院内死亡 | 18.3% | 16.1% | オッズ比 1.17 (0.72~1.90) |
ベースライン変数で調整した後、経皮ツロブテロールは院内死亡の減少とは関連していませんでした(18.3% vs. 16.1%;オッズ比 1.17、95%信頼区間 0.72~1.90)。
さらに、COPD増悪、肺炎、心合併症についても両群間に有意差は認められませんでした。
経皮ツロブテロールは、急性脳卒中でCOPDを基礎疾患とする患者の短期転帰の改善とは関連しませんでした。
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脳卒中は、年齢や喫煙など、慢性閉塞性肺疾患(COPD)といくつかの危険因子を共有しています。さらに、COPD患者は脳卒中発症リスクが高いことが報告されており、脳卒中とCOPDを基礎疾患として有する患者では、COPDを有さない患者よりも院内合併症と死亡リスクが高いことが報告されています。
COPDに対する適切な治療の不徹底は、急性増悪の頻度と死亡率を増加させ、さらにCOPD治療を中止することは、急性脳卒中を発症したCOPD患者の転帰を悪化させる可能性があります。吸入薬の代替として経皮吸収型ツロブテロールが有効であるか否かについては充分に検証されていません。
さて、日本のデータベースを用いた後向きコホート研究の結果、経皮吸収型ツロブテロール使用者と非使用者との間で、院内死亡、COPD増悪、肺炎、心合併症について明確な差は認められませんでした。
COPDの治療薬は基本的に吸入薬ではありますが、使用が困難な場合は貼付薬の選択肢も考慮できるのかもしれません。総死亡リスクなどのより長期的な検討、再現性の確認が求められるところですが、院内死亡やCOPD増悪、合併症などのリスクに差はなさそうです。
続報に期待。

✅まとめ✅ 日本のデータベースを用いた後向きコホート研究の結果、経皮吸収型ツロブテロール使用者と非使用者との間で、院内死亡、COPD増悪、肺炎、心合併症について明確な差は認められなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:経皮吸収型ツロブテロールは、経皮吸収型の長時間作用型β作動薬であり、日本、韓国、中国を含む一部の国で入手可能である。経皮吸収型ツロブテロールは、急性脳卒中など吸入器を効果的に使用できない患者における慢性閉塞性肺疾患(COPD)管理の代替治療選択肢となる可能性がある。本研究では、急性脳卒中で入院し、COPDの基礎疾患を有する患者における経皮ツロブテロールの短期転帰を検討した。
方法:日本の全国入院患者データベースであるDiagnosis Procedure Combinationデータベースを用いて、2010年7月~2021年3月に入院した脳卒中および基礎疾患としてCOPDを有する患者を同定した。入院後2日以内に経皮ツロブテロールを開始した患者と、入院中に使用しなかった患者との間で、傾向スコア重複重み付けを行い、院内死亡、COPD増悪、肺炎、心合併症を比較した。
結果:対象患者1,878例のうち、189例が入院後2日以内に経皮ツロブテロールの投与を受けた。ベースライン変数で調整した後、経皮ツロブテロールは院内死亡の減少とは関連していなかった(18.3% vs. 16.1%;オッズ比 1.17、95%信頼区間 0.72~1.90)。さらに、COPD増悪、肺炎、心合併症についても両群間に有意差は認められなかった。経皮ツロブテロールは、急性脳卒中でCOPDを基礎疾患とする患者の短期転帰の改善とは関連しなかった。
結論:本研究は、この患者群における経皮ツロブテロールのルーチン使用を支持するものではない。しかし、脳卒中とCOPDを合併した患者における経皮ツロブテロールの長期的な有効性を検討する研究がさらに進めば、これらの患者の管理におけるツロブテロールの役割を確立することができるであろう。
引用文献
Association between use of transdermal tulobuterol and short-term outcomes in patients with stroke and underlying chronic obstructive pulmonary disease: A retrospective cohort study
Yuichiro Matsuo et al. PMID: 37746980 PMCID: PMC10519481 DOI: 10.1097/MD.0000000000035032
Medicine (Baltimore). 2023 Sep 22;102(38):e35032. doi: 10.1097/MD.0000000000035032.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37746980/
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