DOACとスタチン系薬との相互作用はどのくらいのリスクなのか?
直接経口抗凝固薬(DOAC)はスタチン系薬剤とよく併用されます。生物学的にはもっともらしいものの、DOACとアトルバスタチン/シンバスタチンとの間に薬物相互作用があるかどうかは不明です。
そこで今回は、DOACとアトルバスタチン/シンバスタチンの併用と出血、心血管疾患、死亡率との関連を検討した研究結果をご紹介します。
データベースは、Clinical Practice Research Datalink Aurum(2011/1~2019/12/31)が用いられました。
コホートデザインにより、DOAC+アトルバスタチン/シンバスタチンとDOAC+他のスタチン(フルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチンはDOACとの相互作用がないと予想される)が比較され、臨床的に関連する薬理学的相互作用の安全性アウトカム(頭蓋内出血、消化管出血、その他の出血)のハザード比が推定されました。有効性のアウトカム(虚血性脳卒中、心筋梗塞、静脈血栓塞栓症、心血管死、全死亡)についても検証されました。また、ケースクロスオーバーデザインにより、個人内のハザードウィンドウと参照ウィンドウにおける異なる薬剤開始パターンへの曝露のオッズについて比較されました。
試験結果から明らかになったことは?
DOAC使用者397,459人のうち、アトルバスタチンと併用している70,318人、シンバスタチンと併用している38,724人が抽出されました。
コホート解析では、DOAC+アトルバスタチン/シンバスタチンとDOAC+他のスタチンとの比較において、すべての転帰のリスクに差はみられませんでした。
(ケースクロスオーバー解析) | 各アウトカム発生のオッズ比 (95%CI) vs. DOAC単独療法 |
アトルバスタチン服用中にDOACを開始した群 ・その他の出血 | OR 4.04(3.07~5.31) |
シンバスタチン服用中にDOACを開始した群 ・消化管出血 | OR 5.16(3.66~7.28) |
・その他の出血 | OR 5.12(3.61~7.26 |
ケースクロスオーバー解析では、アトルバスタチン服用中にDOACを開始した群ではその他の出血(OR 4.04、99%CI 3.07~5.31)のORが、シンバスタチン服用中にDOACを開始した群では消化管出血(OR 5.16、99%CI 3.66~7.28)およびその他の出血(OR 5.12、99%CI 3.61~7.26)のORが、DOAC単独療法を開始した群よりも大きいことが示されました。
心血管死と全死亡についても同様のパターンが観察されました。
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直接経口抗凝固薬(DOAC)はP-糖タンパク質の基質であり、CYP3A4により代謝されます。また、アトルバスタチンとシンバスタチンもP-糖タンパク質の基質であり、CYP3A4により代謝されることから、両者が競合する可能性があります。理論上、相互作用が引き起こされる可能性がありますが、実臨床における検証は充分に行われていません。
さて、本研究ではDOACとアトルバスタチン/シンバスタチンとの相互作用のエビデンスは示されませんでした。しかし、アトルバスタチン/シンバスタチン服用中にDOACを開始した患者は出血と死亡のリスクが高く、これはおそらく一時的な臨床的脆弱性によるものであることが示されました。
ただし本研究では、服薬アドヒアランスと服用の持続性が不明であったため、曝露の誤分類バイアスが生じる可能性があります。また、いくつかの薬剤-アウトカムの組み合わせについて、特に頭蓋内出血については大規模コホートが見当たらなかったため評価されていません。さらに研究の多くは白人を対象としたものであるため、日本人に外挿することは困難であると考えられます。
そもそもスタチン系薬の選択において、脂質(特にLDLコレステロール)低下作用の低いレギュラースタチンが使用されるケースが減っています。ストロングスタチンでの更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 本研究ではDOACとアトルバスタチン/シンバスタチンとの相互作用のエビデンスは示されなかった。しかし、アトルバスタチン/シンバスタチン服用中にDOACを開始した患者は出血と死亡のリスクが高く、これはおそらく一時的な臨床的脆弱性によるものであろう。
根拠となった試験の抄録
背景:直接経口抗凝固薬(DOAC)はスタチン系薬剤とよく併用される。生物学的にはもっともらしいが、DOACとアトルバスタチン/シンバスタチンとの間に薬物相互作用があるかどうかは不明である。
目的:DOACとアトルバスタチン/シンバスタチンの併用と出血、心血管疾患、死亡率との関連を検討する。
試験デザインと設定:Clinical Practice Research Datalink Aurum(2011/1~2019/12/31)。
方法:コホートデザインを用いて、DOAC+アトルバスタチン/シンバスタチンとDOAC+他のスタチン(フルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチンはDOACとの相互作用がないと予想される)を比較し、臨床的に関連する薬理学的相互作用の安全性アウトカム(頭蓋内出血、消化管出血、その他の出血)のハザード比を推定した。有効性のアウトカム(虚血性脳卒中、心筋梗塞、静脈血栓塞栓症、心血管死、全死亡)も含めた。また、ケースクロスオーバーデザインにより、個人内のハザードウィンドウと参照ウィンドウにおける異なる薬剤開始パターンへの曝露のオッズを比較した。
結果:DOAC使用者397,459人のうち、アトルバスタチンと併用している70,318人、シンバスタチンと併用している38,724人を抽出した。コホート解析では、DOAC+アトルバスタチン/シンバスタチンとDOAC+他のスタチンとの比較において、すべての転帰のリスクに差はみられなかった。ケースクロスオーバー解析では、アトルバスタチン服用中にDOACを開始した群ではその他の出血(OR 4.04、99%CI 3.07~5.31)のORが、シンバスタチン服用中にDOACを開始した群では消化管出血(OR 5.16、99%CI 3.66~7.28)およびその他の出血(OR 5.12、99%CI 3.61~7.26)のORが、DOAC単独療法を開始した群よりも大きかった。心血管死と全死亡についても同様のパターンが観察された。
結論:本研究ではDOACとアトルバスタチン/シンバスタチンとの相互作用のエビデンスは示されなかった。しかし、アトルバスタチン/シンバスタチン服用中にDOACを開始した患者は出血と死亡のリスクが高く、これはおそらく一時的な臨床的脆弱性によるものであろう。
引用文献
Potential interactions between direct oral anticoagulants and atorvastatin/simvastatin: cohort and case-crossover study
Angel Ys Wong et al. PMID: 39609078 DOI: 10.3399/BJGP.2024.0349
Br J Gen Pract. 2024 Nov 28:BJGP.2024.0349. doi: 10.3399/BJGP.2024.0349. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39609078/
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