抗リン脂質抗体陽性者における低用量アスピリンの効果は?
抗リン脂質抗体(Anti-Phospholipid Antibodies, aPL)は、体内のリン脂質や関連タンパク質に対する自己抗体で、血液凝固に影響を与えることがあります。特に抗リン脂質抗体症候群(APS)や全身性エリテマトーデス(SLE)と関連し、血栓症や妊娠合併症を引き起こす可能性があります。
主な抗体として抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインI抗体、ループスアンチコアグラントがあげられます。診断は血液検査を用い、治療は抗凝固療法や低用量アスピリンが中心です。ただし、抗体があっても必ずしも症状が出るわけではなく、臨床症状との組み合わせた評価が重要です。
また、抗リン脂質抗体を有する患者における抗血栓予防の正味の臨床的有用性はまだ明らかとなっていません。
そこで今回は、aPL保有者における血栓イベントの一次予防に対する抗血小板薬の有効性と安全性を評価するために実施されたメタ解析の結果をご紹介します。
対象となる研究は、2023年5月までのMEDLINEおよびEMBASEデータベースの電子検索により同定されました。群間の転帰の差は、プールされたオッズ比(OR)および対応する95%信頼区間(CI)として推定されました。統計的異質性はI2統計量により評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
1,056人の参加者が10件の研究(2件のRCTと8件のコホート)に組み入れられました。低用量アセチルサリチル酸(Low-dose acetylsalicylic acid, LDA;低用量アスピリン)が治療患者における抗血小板薬でした。
オッズ比 (95%CI) | |
血栓性イベント | OR 0.46(0.30~0.71) I2=27%、固定効果モデル |
動脈血栓イベント | OR 0.47(0.26~0.86) I2=0%、固定効果モデル |
静脈血栓イベント | OR 0.44(0.21~0.89) I2=1%、固定効果モデル |
血栓性イベントは対照群と比較してLDA群で有意に減少しました(OR 0.46、95%CI 0.30~0.71;I2=27%、固定効果モデル)。動脈血栓イベントは対照群に比してLDA群で有意に減少しました(OR 0.47、95%CI 0.26~0.86;I2=0%、固定効果モデル)。静脈血栓イベントは対照群に比べLDA群で有意に減少しました(OR 0.44、95%CI 0.21~0.89、I2=1%、固定効果モデル)。
大出血を報告した5件の研究では、LDA群での大出血は認められませんでした。
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抗リン脂質抗体症候群(APS)や全身性エリテマトーデス(SLE)において、抗リン脂質抗体(Anti-Phospholipid Antibodies, aPL)が陽性になることが知られています。治療の基本は抗凝固薬や低用量アスピリンですが、aPL保有者(キャリア)における正味の効果については充分に検証されていません。
さて、システマティックレビュー・メタ解析の結果、長期間の低用量アスピリンを受けた抗リン脂質抗体キャリアにおいて、大出血のリスクが有意に増加することなく、血栓性イベントが有意に減少しました。結果として、動脈血栓、静脈血栓ともに減少している点が興味深いです。抗血小板薬は、静脈血の血小板の凝集を抑制することにより作用を発揮することから、主に静脈血栓の発生リスクを低減させるとされています。未知の交絡因子だけでなく、そもそもの作用機序の認識を改める必要があるのかもしれません。
更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ システマティックレビュー・メタ解析の結果、長期間の低用量アスピリンを受けた抗リン脂質抗体キャリアでは、大出血のリスクが有意に増加することなく、血栓性イベントが有意に減少した。
根拠となった試験の抄録
背景:抗リン脂質抗体(aPL)は血栓性イベントのリスクを高める自己抗体である。抗リン脂質抗体を有する患者における抗血栓予防の正味の臨床的有用性はまだ明らかではない。我々は、aPL保因者における血栓イベントの一次予防に対する抗血小板薬の有効性と安全性を評価するために系統的レビューを行った。
方法:2023年5月までのMEDLINEおよびEMBASEデータベースの電子検索により研究を同定した。群間の転帰の差は、プールされたオッズ比(OR)および対応する95%信頼区間(CI)として推定した。統計的異質性はI2統計量を用いて評価した。
結果:1,056人の参加者が10件の研究(2件のRCTと8件のコホート)に組み入れられた。低用量アセチルサリチル酸(LDA)が治療患者における抗血小板薬であった。血栓性イベントは対照群と比較してLDA群で有意に減少した(OR 0.46、95%CI 0.30~0.71;I2=27%、固定効果モデル)。動脈血栓イベントは対照群に比してLDA群で有意に減少した(OR 0.47、95%CI 0.26~0.86;I2=0%、固定効果モデル)。静脈血栓イベントは対照群に比べLDA群で有意に減少した(OR 0.44、95%CI 0.21~0.89、I2=1%、固定効果モデル)。大出血を報告した5件の研究では大出血は発生しなかった。
結論:長期間LDAを受けたaPLキャリアは、大出血のリスクを有意に増加させることなく、血栓性イベントを有意に減少させた。LDAがすべてのaPLプロファイル、すなわち一重陽性、二重陽性、三重陽性において同じベネフィット/リスクプロファイルを有するかどうかは依然として不明である。
キーワード:抗血栓的予防;aPLキャリア
引用文献
Efficacy and safety of low-dose acetylsalicylic acid for the prevention of thromboembolic events in individuals positive for antiphospholipid antibodies: A systematic review and meta-analysis
Federica De Pascali et al. PMID: 39603009 DOI: 10.1016/j.thromres.2024.109225
Thromb Res. 2024 Nov 26:245:109225. doi: 10.1016/j.thromres.2024.109225. Online ahead of print.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39603009/
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