2型糖尿病患者の心血管イベントのリスクにおけるSGLT2阻害薬の効果は?(後向きコホート研究; JAMA Netw Open. 2024)

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心血管イベントの1次予防・2次予防におけるSGLT2阻害薬の有効性

糖尿病は様々な合併症を引き起こし、大血管障害の一つとして心血管イベントがあげられます。心血管疾患(CVD)は2型糖尿病(T2D)の進行中に再発する可能性がありますが、ナトリウム-グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2i)治療が臨床におけるT2D患者の全CVD(すなわち、初回およびその後のCVD)に対して有効であるかどうかは不明です。

そこで今回は、実臨床におけるT2D患者において、SGLT2i療法とジペプチジルペプチダーゼ4阻害薬(DPP4i)療法の全CVDとの関連を比較解析することを目的に実施されたコホート研究の結果をご紹介します。

レトロスペクティブコホート研究は、台湾の主要医療センターである国立成功大学病院の2015年から2021年までの電子カルテのデータを基に実施されました。2016~2019年に試験薬の初回使用を開始し、最長6年間の追跡を行った成人T2D患者が同定されました。

本研究の主要アウトカムは、総複合CVDイベントおよび個々のCVDサブタイプ(すなわち、心房細動、冠動脈性心疾患、心不全、脳卒中、心筋梗塞、一過性脳虚血発作)でした。治療とCVDイベントの繰り返しとの関連を評価するために、共有frailtyモデル解析が用いられました。CVD再発リスクの高い患者のデータはさらに解析されました。データは2022年9月1日から2023年12月31日まで解析されました。

試験結果から明らかになったことは?

全体で8,384例のT2D患者が同定されました(平均年齢 63.7[SD 12.4]歳;男性 4,645例[55.4%])。SGLT2i(平均年齢 57.8[SD 12.0]歳;女性 673例[41.2%]、男性 959例[58.8%])とDPP4i(平均年齢 58.2[SD 12.9]歳;女性 655例[40.1%]、男性 977例[59.9%])の使用者で傾向スコアをマッチさせた合計1,632例が組み入れられました。

ハザード比 HR
(95%CI)
SGLT2i療法 vs. DPP4i療法
総CVDリスクHR 0.82(0.69~0.98
 CVDリスクの高い患者HR 0.70(0.62~0.80
 糖尿病関連合併症を有する患者HR 0.70(0.64~0.78
 CVD既往のある患者HR 0.72(0.65~0.80

SGLT2i療法は、DPP4i療法と比較して総CVDリスクの低下と関連していましたが(ハザード比[HR] 0.82、95%CI 0.69~0.98)、最初のCVDイベントとは関連してませんでした(SGLT2i療法の使用は、CVDリスクの高い患者においてより顕著:推定糸球体濾過量が60mL/分/1.73m2未満ではHR 0.70、95%CI 0.62~0.80、糖尿病関連合併症を有する患者ではHR 0.70、95%CI 0.64~0.78、CVD既往のある患者ではHR 0.72、95%CI 0.65~0.80)。

CVDリスクが高い患者において、SGLT2i治療によるCVD総負担の軽減は女性で男性より大きいことが示されました(例えば、CVD既往歴のあるサブグループにおけるHR 0.59、95%CI 0.49~0.72)。

コメント

これまでの臨床研究の結果、ナトリウム-グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2i)治療が臨床におけるT2D患者の予後を改善することが報告されていますが、実臨床における心血管イベントの1次予防・2次予防における役割は定かではありません。

さて、T2D患者を対象としたこのコホート研究において、DPP4iと比較してSGLT2iの使用は心血管負担の減少と関連しており、この治療法の長期使用は慢性CVD患者における治療効果を最適化する可能性が示唆されました。

台湾のデータベースを利用した後ろ向きコホート研究の結果であることから、交絡因子の調整など試験の限界があります。とはいえ、これまでの報告と同様、心血管イベントの再発リスク低減、特にハイリスク患者における有用性が示されました。

日本人においても同様の結果が示されるのか気にかかるところです。

続報に期待。

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✅まとめ✅ T2D患者を対象としたこのコホート研究において、DPP4iと比較してSGLT2iの使用は心血管負担の減少と関連しており、この治療法の長期使用は慢性CVD患者における治療効果を最適化する可能性が示唆された。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性:心血管疾患(CVD)は2型糖尿病(T2D)の進行中に再発する可能性がある。ナトリウム-グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2i)治療が臨床におけるT2D患者の全CVD(すなわち、初回およびその後のCVD)に対して有効であるかどうかは不明である。

目的:臨床におけるT2D患者において、SGLT2i療法とジペプチジルペプチダーゼ4阻害薬(DPP4i)療法の全CVDとの関連を比較解析すること。

試験デザイン、設定、参加者:本レトロスペクティブコホート研究は、台湾の主要医療センターである国立成功大学病院の2015年から2021年までの電子カルテを用いた。2016~2019年に試験薬の初回使用を開始し、最長6年間の追跡を行った成人T2D患者を同定した。

主要アウトカムと評価基準主要アウトカムは、総複合CVDイベントおよび個々のCVDサブタイプ(すなわち、心房細動、冠動脈性心疾患、心不全、脳卒中、心筋梗塞、一過性脳虚血発作)であった。治療とCVDイベントの繰り返しとの関連を評価するために、共有frailtyモデル解析が用いられた。CVD再発リスクの高い患者のデータはさらに解析された。データは2022年9月1日から2023年12月31日まで解析された。

結果:全体で8,384例のT2D患者が同定された(平均年齢 63.7[SD 12.4]歳;男性 4,645例[55.4%])。SGLT2i(平均年齢 57.8[SD 12.0]歳;女性 673例[41.2%]、男性 959例[58.8%])とDPP4i(平均年齢 58.2[SD 12.9]歳;女性 655例[40.1%]、男性 977例[59.9%])の使用者で傾向スコアをマッチさせた合計1,632例が組み入れられた。
SGLT2i療法は、DPP4i療法と比較して総CVDリスクの低下と関連していたが(ハザード比[HR] 0.82、95%CI 0.69~0.98)、最初のCVDイベントとは関連していなかった(SGLT2i療法の使用は、CVDリスクの高い患者においてより顕著であった(推定糸球体濾過量が60mL/分/1.73m2未満ではHR 0.70、95%CI 0.62~0.80、糖尿病関連合併症を有する患者ではHR 0.70、95%CI 0.64~0.78、CVD既往のある患者ではHR 0.72、95%CI 0.65~0.80)。
CVDリスクが高い患者において、SGLT2i治療によるCVD総負担の軽減は女性で男性より大きかった(例えば、CVD既往歴のあるサブグループにおけるHR 0.59、95%CI 0.49~0.72)。

結論と関連性:T2D患者を対象としたこのコホート研究において、DPP4iと比較してSGLT2iの使用は心血管負担の減少と関連しており、この治療法の長期使用は慢性CVD患者における治療効果を最適化する可能性が示唆された。CVDリスクの高い患者におけるSGLT2iの有用性は、このような脆弱な患者に対するSGLT2iの使用を優先することを促すものである。

利益相反声明:報告なし。

引用文献

Cardiovascular Risks With SGLT2 Inhibitors in Clinical Practice Among Patients With Type 2 Diabetes
Hsuan-Yu Su et al. PMID: 39476235 PMCID: PMC11525605 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2024.41765
JAMA Netw Open. 2024 Oct 1;7(10):e2441765. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2024.41765.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39476235/

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