血漿由来のヒトアポリポ蛋白A1であるCSL112の効果はどのくらい?
急性心筋梗塞後には心血管イベントの再発しやすさが報告されており、高比重リポ蛋白の主要蛋白であるアポリポ蛋白A1を介するコレステロール排出能の低下は、心血管イベントのリスク上昇と関連していることも報告されています。
CSL112は血漿由来のヒトアポリポ蛋白A1であり、コレステロール排出能を増加させることが知られていますが、CSL112の注入が急性心筋梗塞後の心血管イベントの再発リスクを低下させるかどうかは不明です。
そこで今回は、急性心筋梗塞、多枝冠動脈疾患、心血管危険因子を有する患者を対象に、CSL112投与による心血管イベントの発生リスクを検討した国際二重盲検プラセボ対照試験(AEGIS-II試験)の結果をご報告します。
対象患者はCSL112 6gを週4回点滴する群とプラセボを投与する群にランダムに割り付けられ、最初の点滴は急性心筋梗塞発症後5日以内に行われました。
本試験の主要エンドポイントは、心筋梗塞、脳卒中、心血管系の原因による死亡の複合でした。
試験結果から明らかになったことは?
合計18,219例の患者が試験に組み入れられました(CSL112群 9,112例、プラセボ群9,107例)。
CSL112群 | プラセボ群 | ハザード比 0.93(95%信頼区間[CI]) | |
追跡期間90日時点 | 439例[4.8%] | 472例[5.2%] | ハザード比 0.93 (0.81~1.05) P=0.24 |
180日時点 | 622例[6.9%] | 683例[7.6%] | ハザード比 0.91 (0.81~1.01) |
365日時点 | 885例[9.8%] | 944例[10.5%] | ハザード比 0.93 (0.85~1.02) |
追跡期間90日時点における主要エンドポイントイベントのリスクは、両群間に有意差はありませんでした(CSL112群439例[4.8%] vs. プラセボ群472例[5.2%];ハザード比 0.93、95%信頼区間[CI] 0.81~1.05;P=0.24)、追跡180日時点(622例[6.9%] vs. 683例[7.6%];ハザード比 0.91、95%CI 0.81~1.01)、または追跡365日時点(885例[9.8%] vs. 944例[10.5%];ハザード比 0.93、95%CI 0.85~1.02)。
有害事象を発現した患者の割合は両群で同程度でしたが、CSL112群では過敏症が多く報告されました。
コメント
血漿由来のヒトアポリポ蛋白A1であるCSL112の効果について、充分に検証されていません。
さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、急性心筋梗塞、多枝冠動脈疾患、および心血管危険因子を追加した患者において、CSL112の週4回の点滴は90日までプラセボと比較して心筋梗塞、脳卒中、心血管原因による死亡のリスクを低下させませんでした。
その後、180日、最長で365日まで追跡されていますが、いずれの時点においてもリスクの群間差は認められませんでした。
試験規模としては、各群9,000症例を超えていますので、大規模な試験です。抄録からは併用薬の情報が得られないため、どのような因子が影響しているのかについては更なる検証が求められますが、少なくとも現時点においては、CSL112による心血管イベントの発生リスク低減はなさそうです。
続報に期待。
✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、急性心筋梗塞、多枝冠動脈疾患、および心血管危険因子を追加した患者において、CSL112の週4回の点滴はプラセボと比較して投与90日までの心筋梗塞、脳卒中、心血管原因による死亡のリスクを低下させなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:急性心筋梗塞後に心血管イベントが再発することが多いが、高比重リポ蛋白の主要蛋白であるアポリポ蛋白A1を介するコレステロール排出能の低下は、心血管イベントのリスク上昇と関連している。CSL112は血漿由来のヒトアポリポ蛋白A1であり、コレステロール排出能を増加させる。CSL112の注入が急性心筋梗塞後の心血管イベントの再発リスクを低下させるかどうかは不明である。
方法:急性心筋梗塞、多枝冠動脈疾患、心血管危険因子を有する患者を対象とした国際二重盲検プラセボ対照試験を行った。患者はCSL112 6gを週4回点滴する群とプラセボを投与する群にランダムに割り付けられ、最初の点滴は急性心筋梗塞発症後5日以内に行われた。
主要エンドポイントは、心筋梗塞、脳卒中、心血管系の原因による死亡の複合とした。
結果:合計18,219例の患者が試験に組み入れられた(CSL112群 9,112例、プラセボ群9,107例)。追跡期間90日時点における主要エンドポイントイベントのリスクは、両群間に有意差はなかった{(CSL112群439例[4.8%] vs. プラセボ群472例[5.2%];ハザード比 0.93、95%信頼区間[CI] 0.81~1.05;P=0.24)、追跡180日時(622例[6.9%] vs. 683例[7.6%];ハザード比 0.91、95%CI 0.81~1.01)、または追跡365日時(885例[9.8%] vs. 944例[10.5%];ハザード比 0.93、95%CI 0.85~1.02)}。有害事象を発現した患者の割合は両群で同程度であったが、CSL112群では過敏症が多く報告された。
結論:急性心筋梗塞、多枝冠動脈疾患、および心血管危険因子を追加した患者において、CSL112の週4回の点滴は90日までプラセボと比較して心筋梗塞、脳卒中、心血管原因による死亡のリスクを低下させなかった。
資金提供:CSL Behring社が資金提供
試験登録番号:ClinicalTrials.gov番号 NCT03473223
引用文献
Apolipoprotein A1 Infusions and Cardiovascular Outcomes after Acute Myocardial Infarction
C Michael Gibson et al. PMID: 38587254 DOI: 10.1056/NEJMoa2400969
N Engl J Med. 2024 May 2;390(17):1560-1571. doi: 10.1056/NEJMoa2400969. Epub 2024 Apr 6.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38587254/
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