セロトニン受容体拮抗薬を併用しているとシスプラチン誘発急性腎障害リスクは減るのか?(後向き解析; Kidney360. 2024)

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セロトニン受容体拮抗薬の使用とシスプラチン誘発AKIリスクとの関連性は?

シスプラチンは様々ながんに対する有効な第一選択療法です。シスプラチンは催吐性が強く、その結果生じる体液量の減少は急性腎障害(acute kidney injury, AKI)リスクの一因となります。この合併症を予防するために、5-ヒドロキシトリプタミン3型受容体拮抗薬(5-hydroxytryptamine type 3 receptor antagonists, 5-HT3RAs)などの制吐薬が一般的に処方されています。前臨床研究では、第一世代の5-HT3RAsが腎クリアランスを変化させ、シスプラチン毒性を増加させる可能性が示唆されていますが、充分に検証されていません。

そこで今回は、異なる5-HT3RAがシスプラチン投与患者のAKIリスクを変化させるかどうかを評価したレトロスペクティブ研究の結果をご紹介します。

2010年1月1日から2016年12月31日の間にシスプラチンを投与されたがん患者が対象となりました。ベースラインおよび治療後の血清クレアチニン、シスプラチンの累積投与量、第一世代(オンダンセトロン、グラニセトロン、ラモセトロン)および第二世代(パロノセトロン)を含む5-HT3RA投与のデータが入手可能な18歳以上の患者が解析対象となりました。

AKIは血清クレアチニンの1.5倍上昇と定義されました。ベースラインの共変量とAKIとの単変量関連についてはフィッシャーの正確検定およびウィルコクソンの順位和検定が用いられ、AKIとの多変量関連についてはロジスティック回帰が用いられました。

試験結果から明らかになったことは?

シスプラチン曝露が確認された8,703例のうち、6,889例が組み入れられました。合計3,881例(56.3%)の患者が、パロノセトロン(3,750例、54.4%)、オンダンセトロン(1,399例、20.3%)およびグラニセトロン(11例、0.2%)を含む少なくとも1つの5-HT3RAsを投与されました。シスプラチン投与後にAKIを発症した患者は1,666例(24.2%)でした。

5-HT3RAsを投与された患者は、投与されなかった患者に比べてAKIを経験する可能性が低いことが示されました(22.6% vs. 26.2%、p=0.001)。

オッズ比(95%CI)
5-HT3RAsを投与された患者 vs. 投与されなかった患者
AKI発症リスクOR 0.84
0.75〜0.94
P= 0.003

高年齢、男性、アフリカ系民族、およびシスプラチンの累積投与量は、AKIの高リスクと単変量的に関連していました(P<0.001)。これらの変数で調整した後、これらの制吐薬のいずれかを使用することはAKIに対して予防的であり(OR 0.84、95%CI 0.75〜0.94;P= 0.003)、5-HT3RAsの種類による差は検出されませんでした。

コメント

シスプラチン誘発の急性腎障害リスクについて、5-ヒドロキシトリプタミン3型受容体拮抗薬(5-hydroxytryptamine type 3 receptor antagonists, 5-HT3RAs)の使用がリスク増加となる可能性が報告されていますが、充分に検証されていません。

さて、後向き解析の結果、シスプラチン治療を受けたがん患者において、制吐薬である5-HT3RAsの使用は嘔吐を軽減し、急性腎障害(AKI)のリスクの低減と関連していることが示唆されました。

あくまでも相関関係が示されたに過ぎませんが、5-HT3RAsの使用を制限する必要はなさそうです。AKIリスクを低減する可能性はあるものの、このために積極的使用することは推奨できません。あくまでも制吐薬として悪心・嘔吐の軽減という本来の使用目的において、シスプラチンと併用することが求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 後向き解析の結果、シスプラチン治療投与されたがん患者において、制吐薬である5-HT3RAsの使用は嘔吐を軽減し、急性腎障害(AKI)のリスクの低減と関連していることが示唆された。

根拠となった試験の抄録

背景:シスプラチンは様々な癌に対する有効な第一選択療法である。シスプラチンは催吐性が強く、その結果生じる体液量の減少は急性腎障害(acute kidney injury, AKI)の一因となる。この合併症を予防するために、5-ヒドロキシトリプタミン3型受容体拮抗薬(5-hydroxytryptamine type 3 receptor antagonists, 5-HT3RAs)などの制吐薬が一般的に処方されている。前臨床研究では、第一世代の5-HT3RAsが腎クリアランスを変化させ、シスプラチン毒性を増加させる可能性が示唆されている。このレトロスペクティブ研究では、異なる5-HT3RAがシスプラチン投与患者のAKIリスクを変化させるかどうかを評価した。

方法:2010年1月1日から2016年12月31日の間にシスプラチンを投与されたがん患者を対象とした。ベースラインおよび治療後の血清クレアチニン、シスプラチンの累積投与量、第一世代(オンダンセトロン、グラニセトロン、ラモセトロン)および第二世代(パロノセトロン)を含む5-HT3RA投与のデータが入手可能な18歳以上の患者を解析対象とした。AKIは血清クレアチニンの1.5倍上昇と定義した。ベースラインの共変量とAKIとの単変量関連についてはフィッシャーの正確検定およびウィルコクソンの順位和検定を用い、AKIとの多変量関連についてはロジスティック回帰を用いた。

結果:シスプラチン曝露が確認された8,703例のうち、6,889例が組み入れられた。合計3,881例(56.3%)の患者が、パロノセトロン(3,750例、54.4%)、オンダンセトロン(1,399例、20.3%)およびグラニセトロン(11例、0.2%)を含む少なくとも1つの5-HT3RAsを投与された。シスプラチン投与後にAKIを発症した患者は1,666例(24.2%)であった。5-HT3RAsを投与された患者は、投与されなかった患者に比べてAKIを経験する可能性が低かった(22.6% vs. 26.2%、p=0.001)。高年齢、男性、アフリカ系民族、およびシスプラチンの累積投与量は、AKIの高リスクと単変量的に関連していた(P<0.001)。これらの変数で調整した後、これらの制吐薬のいずれかを使用することはAKIに対して予防的であり(OR 0.84、95%CI 0.75〜0.94;P= 0.003)、5-HT3RAsの種類による差は検出されなかった。

結論:シスプラチン治療後の腎毒性は引き続き懸念される。催吐性があることから、5-HT3RAsなどの制吐薬の使用は嘔吐を軽減し、腎障害のリスクを低下させる。このレトロスペクティブ解析は、AKIリスクを低下させるために5-HT3RAを使用することを支持するものである。

引用文献

Evaluation of Cisplatin-Induced Acute Kidney Injury in Patients Co-Prescribed Serotonin Receptor Antagonists: A Retrospective Analysis
Victoria Gutgarts et al. PMID: 38814726 DOI: 10.34067/KID.0000000000000464
Kidney360. 2024 May 30 doi: 10.34067/KID.0000000000000464. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38814726/

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