治療中の低血圧と心血管イベントとの関連性は?(日本コホート研究; Hypertens Res. 2024)

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心血管リスクの高くない高血圧患者における治療に伴う低血圧の影響は?

リスクの高くない高血圧患者における不充分な血圧コントロールは世界的な関心事であり、治療の最適化の必要性を示唆しています。しかし、これらの患者における過度の血圧降下による潜在的な有害性については、充分な研究がなされていません。

そこで今回は、3,000万人の現役世代をカバーする日本の全国代表的な公的医療保険者データベースを用いて、このエビデンスギャップに対処したコホート研究の結果をご紹介します。

降圧薬を継続的に使用しており、10年心血管リスクが10%未満の患者が同定されました。これらの患者は治療中の収縮期血圧と拡張期血圧によって分類されました。

本研究の主要アウトカムは心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院、末梢動脈疾患の複合でした。

試験結果から明らかになったことは?

収縮期血圧 mmHg補正ハザード比(95%CI)
110未満1.05(0.99〜1.12
110〜1190.97(0.93〜1.02
120〜129(基準)1(基準)
130〜1391.05(1.01〜1.09
140〜1491.15(1.11〜1.20
150〜1591.30(1.23〜1.37
160以上1.76(1.66〜1.86
拡張期血圧 mmHg補正ハザード比(95%CI)
60未満1.25(1.14〜1.38
60〜690.99(0.95〜1.04
70〜79(基準)1(基準)
80〜891.00(0.96〜1.03
90〜991.13(1.09〜1.18
100mmHg以上1.66(1.58〜1.76

920,533例の参加者(平均年齢 57.3歳、女性 48.3%、平均追跡期間 2.75年)のうち、収縮期血圧が110未満、110〜119、120〜129(基準)、130〜139、140〜149、150〜159、160mmHg以上の場合の補正ハザード比は、1.05(95%信頼区間 0.99〜1.12)、0.97(0.93〜1.02)、1(基準)、1.05(1.01〜1.09)、1.15(1.11〜1.20)、1.30(1.23〜1.37)、1.76(1.66〜1.86)であり、拡張期血圧が60未満、60〜69、70〜79(基準)、80〜89、90〜99、100mmHg以上の場合はそれぞれ1.25(1.14〜1.38)、0.99(0.95〜1.04)、1(基準)、1.00(0.96〜1.03)、1.13(1.09〜1.18)、1.66(1.58〜1.76)でした。

低リスクの高血圧患者では、拡張期血圧60mmHg未満は心血管イベントの増加と関連していましたが、収縮期血圧110mmHgは関連していませんでした。

コメント

低血圧は降圧療法に伴い認められますが、この低血圧による心血管イベントへの影響については不明です。

さて、日本のコホート研究の結果、拡張期血圧が60mmHg未満では心血管イベントのリスク増加が観察されましたが、収縮期血圧が110mmHg未満では観察されませんでした。ただし、あくまでも相関関係が示されたに過ぎず、またリスクの程度は高血圧そのもののリスクよりも低いことから、治療を躊躇う必要性は低いと考えられます。

低血圧でより課題となるのは転倒や外傷等であると考えられます。更なる検証が求められます。

続報に期待。

man and woman sitting on the couch

✅まとめ✅ 拡張期血圧が60mmHg未満では心血管イベントのリスク増加が観察されたが、収縮期血圧が110mmHg未満では観察されなかった。

根拠となった試験の抄録

背景:リスクの高くない高血圧患者における不十分な血圧コントロールは世界的な関心事であり、治療の最適化の必要性を示唆している。しかし、これらの患者における過度の血圧降下による潜在的な有害性については、十分な研究がなされていない。本研究では、3,000万人の現役世代をカバーする全国代表的な公的医療保険者データベースを用いて、このエビデンスギャップに対処した。

方法:降圧薬を継続的に使用しており、10年心血管リスクが10%未満の患者を同定した。これらの患者は治療中の収縮期血圧と拡張期血圧によって分類された。
主要アウトカムは心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院、末梢動脈疾患の複合とした。

結果:920,533例の参加者(平均年齢 57.3歳、女性 48.3%、平均追跡期間 2.75年)のうち、収縮期血圧が110未満、110〜119、120〜129(基準)、130〜139、140〜149、150〜159、160mmHg以上の場合の補正ハザード比は、1.05(95%信頼区間 0.99〜1.12)、0.97(0.93〜1.02)、1(基準)、1.05(1.01〜1.09)、1.15(1.11〜1.20)、1.30(1.23〜1.37)、1.76(1.66〜1.86)であり、拡張期血圧が60未満、60〜69、70〜79(基準)、80〜89、90〜99、100mmHg以上の場合はそれぞれ1.25(1.14〜1.38)、0.99(0.95〜1.04)、1(基準)、1.00(0.96〜1.03)、1.13(1.09〜1.18)、1.66(1.58〜1.76)であった。低リスクの高血圧患者では、拡張期血圧<60mmHgは心血管イベントの増加と関連していたが、収縮期血圧<110mmHgは関連していなかった。

考察:高リスク患者を対象とした以前の研究と比較すると、低リスクの高血圧患者においては、過度の血圧降下による潜在的な害はそれほど顕著ではなかった。治療時の低血圧と心血管イベントとの関連は、低リスクの高血圧患者においては十分な研究がなされていない。全国的に代表的な現役世代の高血圧患者を対象としたわれわれの研究では、拡張期血圧が60mmHg未満では心血管イベントのリスク増加が観察されたが、収縮期血圧が110mmHg未満では観察されなかった。これらの結果は、高リスク患者を対象とした以前の研究では、治療時の血圧が低い場合のリスクがより顕著であったのとは対照的であった。

キーワード:血圧、コホート研究、冠動脈疾患、心筋梗塞、脳卒中

引用文献

Low on-treatment blood pressure and cardiovascular events in patients without elevated risk: a nationwide cohort study
Yuichiro Mori et al. PMID: 38355817 DOI: 10.1038/s41440-024-01593-y
Hypertens Res. 2024 Feb 14. doi: 10.1038/s41440-024-01593-y. Online ahead of print.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38355817/

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