中国で使用されている経口抗ウイルス薬”シムノトレルビル”の有効性は?
Simnotrelvir(シムノトレルビル)は経口の3-キモトリプシン様プロテアーゼ阻害剤(3-chymotrypsin-like protease inhibitor)であり、in vitroで重症急性呼吸器症群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する活性が認められ、第1B相試験で有効性が期待されています。しかし充分に検証されていません。
そこで今回は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が軽度から中等度であり、過去3日以内に症状が発現した患者を、シムノトレルビル750mg+リトナビル100mgまたはプラセボを1日2回、5日間投与する群に1:1の割合で割り付け、有効性・安全性を検証した第2-3相二重盲検ランダム化プラセボ対照試験の結果をご紹介します。
有効性の主要エンドポイントは、症状が持続的に消失するまでの期間とし、11のCOVID-19関連症状が2日間連続して消失した場合と定義されました。安全性およびウイルス量の変化も評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
中国の35施設で合計1,208例の患者が登録され、603例がシムノトレルビル投与群に、605例がプラセボ投与群に割り付けられました。
シムノトレルビル群 | プラセボ群 | 差の中央値 | |
COVID-19症状が持続的に消失するまでの時間 | 180.1時間 (95%CI 162.1~201.6) | 216.0時間 (95%CI 203.4~228.1) | 差の中央値 -35.8時間 (95%CI -60.1 ~ -12.4) Peto-Prentice検定によるP=0.006 |
症状発現後72時間以内に治験薬またはプラセボの初回投与を受けた修正intention-to-treat集団の患者において、COVID-19症状が持続的に消失するまでの時間は、シムノトレルビル群がプラセボ群よりも有意に短いことが示されました(180.1時間、95%信頼区間{CI} 162.1~201.6 vs. 216.0時間、95%CI 203.4~228.1;差の中央値 -35.8時間、95%CI -60.1 ~ -12.4;Peto-Prentice検定によるP=0.006)。
5日目のベースラインからのウイルス量の減少は、シムノトレルビル群でプラセボ群よりも大きいことが示されました(平均差[±SE] -1.51±0.14 log10コピー/mL、95%CI -1.79 ~ -1.24)。
治療中の有害事象の発生率は、シムノトレルビル群がプラセボ群よりも高いことが示されました(29.0% vs. 21.6%)。ほとんどの有害事象は軽度または中等度でした。
コメント
COVID-19患者数は増減を繰り返しており、流行の終息は困難です。このため、基本的な感染予防対策の他、治療薬の開発が求められています。治療薬としては抗ウイルス薬が挙げられますが、バイオアベイラビリティの観点から静脈内投与が選択されています。静脈内投与は患者負担が大きいことから、より負担の少ない投与経路の開発が求められます。
さて、中国の二重盲検ランダム化比較試験の結果、経口抗ウイルス薬であるシムノトレルビル+リトナビルの早期投与により、成人COVID-19患者の症状消失までの期間が短縮されました。短縮された期間は35.8時間であり、約1.5日ほどです。
安全性に関する明らかな懸念は認められなかったとのことですが、発生数はシムノトレルビル+リトナビル群の方が多いようです。本文献は有料であることから、詳細の確認ができませんが、これまでの報告結果を参照しモニタリング項目を設定した方が良いでしょう。
今回、対象となったのは軽症から中等症の患者であるため、そもそも治療薬投与の必要性があったのかについて疑問が残ります。更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、シムノトレルビル+リトナビルの早期投与により、成人COVID-19患者の症状消失までの期間が短縮されたが、安全性に関する明らかな懸念は認められなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:Simnotrelvir(シムノトレルビル)は経口の3-キモトリプシン様プロテアーゼ阻害剤であり、in vitroで重症急性呼吸器症群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する活性が認められ、第1B相試験で有効性が期待されている。
方法:この第2-3相二重盲検ランダム化プラセボ対照試験では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が軽度から中等度であり、過去3日以内に症状が発現した患者を、シムノトレルビル750mg+リトナビル100mgまたはプラセボを1日2回、5日間投与する群に1:1の割合で割り付けた。
有効性の主要エンドポイントは、症状が持続的に消失するまでの期間とし、11のCOVID-19関連症状が2日間連続して消失した場合と定義した。安全性およびウイルス量の変化も評価した。
結果:中国の35施設で合計1,208例の患者が登録され、603例がシムノトレルビル投与群に、605例がプラセボ投与群に割り付けられた。症状発現後72時間以内に治験薬またはプラセボの初回投与を受けた修正intention-to-treat集団の患者において、COVID-19症状が持続的に消失するまでの時間は、シムノトレルビル群がプラセボ群よりも有意に短かった(180.1時間、95%信頼区間{CI} 162.1~201.6 vs. 216.0時間、95%CI 203.4~228.1;差の中央値 -35.8時間、95%CI -60.1 ~ -12.4;Peto-Prentice検定によるP=0.006)。5日目のベースラインからのウイルス量の減少は、シムノトレルビル群でプラセボ群よりも大きかった(平均差[±SE] -1.51±0.14 log10コピー/mL、95%CI -1.79 ~ -1.24)。治療中の有害事象の発生率は、シムノトレルビル群がプラセボ群よりも高かった(29.0% vs. 21.6%)。ほとんどの有害事象は軽度または中等度であった。
結論:シムノトレルビル+リトナビルの早期投与により、成人COVID-19患者の症状消失までの期間が短縮されたが、安全性に関する明らかな懸念は認められなかった。
資金提供:江蘇シムセレ製薬(Jiangsu Simcere Pharmaceutical)
ClinicalTrials.gov番号:NCT05506176
引用文献
Oral Simnotrelvir for Adult Patients with Mild-to-Moderate Covid-19
Bin Cao et al. PMID: 38231624 DOI: 10.1056/NEJMoa2301425
N Engl J Med. 2024 Jan 18;390(3):230-241. doi: 10.1056/NEJMoa2301425.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38231624/
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