抗コリン薬の使用量増加に伴う心血管イベントのリスク増加の程度は?
最近増加した抗コリン薬負荷と高齢者における急性心血管系イベントのリスクとの関連性については充分に検討されていません。
そこで今回は、台湾の国民健康保険研究データベースを用いて、抗コリン薬負荷と高齢者における急性心血管系イベントのリスクとの関連性について検証した症例-症例-時間対照研究(すなわち、case-crossover design 症例クロスオーバーデザインと将来の症例からなるcontrol-crossover design 対照クロスオーバーデザインを組み込んだ)をご紹介します。。
試験参加者は、2011~2018年に急性心血管イベントの偶発症により入院した65歳以上の成人 317,446例でした。急性心血管イベントには、心筋梗塞、脳卒中、不整脈、伝導障害、心血管死が含まれました。
抗コリン負荷は、Anticholinergic Cognitive Burden Scaleを用いて個々の薬剤の抗コリン性スコアを合計することにより、各参加者について測定され、スコアは3段階(0点、1~2点、3点以上)に分類されました。各参加者について、ハザード期間(心血管イベント前の-1 ~ -30日目)の抗コリン負荷レベルを、ランダムに選択した30日間の参照期間(すなわち、-61 ~ -180日目)が比較されました。条件付きロジスティック回帰により、急性心血管系イベントと最近上昇した抗コリン負荷との関連を評価するためのオッズ比および95%信頼区間が求められました。
試験結果から明らかになったことは?
クロスオーバー解析には248,579例が含まれました。参加者の指標日の平均年齢は78.4歳(標準偏差 0.01)で、53.4%が男性でした。抗コリン作用を有する薬剤として多く処方されたのは、抗ヒスタミン薬(68.9%)、消化管鎮痙薬(40.9%)、利尿薬(33.8%)でした。
異なる期間において抗コリン作用の負荷レベルが異なる患者のうち、基準期間よりも危険期間の方が抗コリン作用の負荷レベルが高い患者が多いことが示されました。例えば、現在の症例 17,603例では、ハザード期の抗コリン負荷が1~2点で、基準期は0点であったのに対し、現在の症例 8,507例では、ハザード期は0点で、基準期は1~2点でした。
(抗コリン負荷1~2点と0点の比較) | オッズ比 (95%信頼区間) |
症例クロスオーバー解析 | 1.86(1.83~1.90) |
対照クロスオーバー解析 | 1.35(1.33~1.38) |
症例-症例-対照 | 1.38(1.34~1.42) |
抗コリン負荷1~2点と0点の比較では、オッズ比は症例クロスオーバー解析で1.86(95%信頼区間 1.83~1.90)、対照クロスオーバー解析で1.35(1.33~1.38)であり、症例-症例-対照オッズ比は1.38(1.34~1.42)でした。
3点以上と0点の比較(2.03、1.98~2.09)、3点以上と1~2点の比較(1.48、1.44~1.52)でも同様の結果が得られました。この結果は、一連の感度分析(例えば、抗コリン負荷カテゴリーのカットオフ点を再定義したり、抗コリン負荷の測定に異なる尺度を用いたりした)においても一貫していました。
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抗コリン薬は、一般的に安全性が高く臨床上使用されやすい薬剤ですが、使用量が増加することで心血管イベントのリスクを増加させる可能性があります。しかし、これらの関連性については充分に検証されていません。
さて、台湾の国民健康保険研究データベースを元に実施された症例-症例-時間対照研究の結果によれば、最近増加した抗コリン負荷と急性心血管系イベントのリスク増加との間に関連が認められました。さらに、抗コリン負荷の増加が大きいほど、急性心血管系イベントのリスクが高いことと関連していました。
あくまでも相関が示されたに過ぎませんが、抗コリン薬の負荷が増加することで心血管リスクが増加する可能性があります。実臨床でAnticholinergic Cognitive Burden(ABC)Scaleを使用することは比較的、簡便に行えることから、目の前の患者に活用できる可能性があります。一方で、誰に対して処方薬剤の評価が求められ、場合によっては薬剤変更が必要となるのか、慎重に検討することが求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 最近増加した抗コリン負荷と急性心血管系イベントのリスク増加との間に関連が認められた。さらに、抗コリン負荷の増加が大きいほど、急性心血管系イベントのリスクが高いことと関連していた。
根拠となった試験の抄録
目的:最近増加した抗コリン薬負荷と高齢者における急性心血管系イベントのリスクとの関連を評価すること。
試験デザイン:症例-症例-時間対照研究(すなわち、症例クロスオーバーデザインと将来の症例からなる対照クロスオーバーデザインを組み込んだ)。
試験設定: 台湾の国民健康保険研究データベース。
試験参加者: 2011~2018年に急性心血管イベントの偶発症により入院した65歳以上の成人 317,446例。急性心血管イベントには、心筋梗塞、脳卒中、不整脈、伝導障害、心血管死が含まれた。
主要評価項目:抗コリン負荷は、Anticholinergic Cognitive Burden Scaleを用いて個々の薬剤の抗コリン性スコアを合計することにより、各参加者について測定した。スコアは3段階(0点、1~2点、3点以上)に分類された。各参加者について、ハザード期間(心血管イベント前の-1 ~ -30日目)の抗コリン負荷レベルを、無作為に選択した30日間の参照期間(すなわち、-61 ~ -180日目)と比較した。条件付きロジスティック回帰により、急性心血管系イベントと最近上昇した抗コリン負荷との関連を評価するためのオッズ比を95%信頼区間とともに求めた。
結果:クロスオーバー解析には248,579例が含まれた。参加者の指標日の平均年齢は78.4歳(標準偏差 0.01)で、53.4%が男性であった。抗コリン作用を有する薬剤として多く処方されたのは、抗ヒスタミン薬(68.9%)、消化管鎮痙薬(40.9%)、利尿薬(33.8%)であった。異なる期間において抗コリン作用の負荷レベルが異なる患者のうち、基準期間よりも危険期間の方が抗コリン作用の負荷レベルが高い患者が多かった。例えば、現在の症例 17,603例では、ハザード期の抗コリン負荷が1~2点で、基準期は0点であったのに対し、現在の症例 8,507例では、ハザード期は0点で、基準期は1~2点であった。抗コリン負荷1~2点と0点の比較では、オッズ比は症例クロスオーバー解析で1.86(95%信頼区間 1.83~1.90)、対照クロスオーバー解析で1.35(1.33~1.38)であり、症例-症例-対照オッズ比は1.38(1.34~1.42)であった。3点以上と0点の比較(2.03、1.98~2.09)、3点以上と1~2点の比較(1.48、1.44~1.52)でも同様の結果が得られた。この結果は、一連の感度分析(例えば、抗コリン負荷カテゴリーのカットオフ点を再定義したり、抗コリン負荷の測定に異なる尺度を用いたりした)においても一貫していた。
結論:最近増加した抗コリン負荷と急性心血管系イベントのリスク増加との間に関連が認められた。さらに、抗コリン負荷の増加が大きいほど、急性心血管系イベントのリスクが高いことと関連していた。
引用文献
Association between recently raised anticholinergic burden and risk of acute cardiovascular events: nationwide case-case-time-control study
Wei-Ching Huang et al. PMID: 37758279 PMCID: PMC10523277 DOI: 10.1136/bmj-2023-076045
BMJ. 2023 Sep 27:382:e076045. doi: 10.1136/bmj-2023-076045.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37758279/
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