聴覚カウンセリングと補聴器の提供は認知機能を低下できるのか?
難聴は高齢者の認知機能低下や認知症発症の増加と関連していることが報告されています。しかし、難聴に対する介入が認知機能を低下できるのかについてはエビデンスが限られています。
そこで今回は、難聴を有する認知的に健康な高齢者において、聴覚介入により認知機能の低下を抑制できるかどうかを検討したランダム化比較試験(ACHIEVE試験)の結果をご紹介します。
本試験は、70~84歳の未治療の難聴で認知機能障害のない成人を対象とした多施設、並行群、非盲検、ランダム化比較試験であり、米国内の4つの地域研究施設で実施されました。参加者は、各施設の2つの研究集団から募集されました:
(1)心血管の健康に関する長年の観察研究(Atherosclerosis Risk in Communities [ARIC]研究)に参加している高齢者
(2)健康な新規の地域ボランティア(de novo)
試験参加者は、聴覚介入(聴覚カウンセリングと補聴器の提供)と健康教育の対照介入(慢性疾患予防に関するトピックを扱った健康教育者との個別セッション)にランダムに割り付けられ(1:1)、6ヵ月ごとに追跡調査が行われました。
本試験の主要エンドポイントは、包括的神経認知バッテリー(global cognition standardised factor score from a comprehensive neurocognitive battery)によるグローバル認知標準化因子スコアの3年間の変化でした。
試験結果から明らかになったことは?
2017年11月9日から2019年10月25日まで、3,004例の参加者を適格かどうかスクリーニングし、977例(32.5%;ARICから238例[24%]、de novoから739例[76%])のうち、490例(50%)を聴覚介入に、487例(50%)を健康教育対照にランダムに割り付けました。コホートの平均年齢は76.8歳(SD 4.0)、女性523例(54%)、男性454例(46%)であり、ほとんどが白人でした(n=858 [88%])。ARICコホートの参加者は、de novoコホートの参加者よりも高齢で、認知機能低下の危険因子を多く有し、ベースラインの認知機能スコアが低いことが示されました。
聴覚介入群 (95%CI) | 対照群 (95%CI) | 群間差 (95%CI) | |
3年間の認知機能の変化 | -0.200 (-0.256 ~ -0.144) | -0.202 (-0.258 ~ -0.145) | 差 0.002 (-0.077~0.081) p=0.96 |
ARICコホートとde novoコホートを組み合わせた一次解析では、3年間の認知機能の変化(SD)は、聴覚介入群と健康教育対照群で有意差はありませんでした(聴覚介入群では-0.200、95%信頼区間 -0.256 ~ -0.144、対照群では-0.202、-0.258 ~ -0.145;差 0.002、-0.077~0.081;p=0.96)。
しかし、事前に規定した感度分析では、ARICコホートとde novoコホートの間で、3年間の認知機能の変化に対する聴覚介入の効果に有意差が認められました(交互作用P=0.010)。
全コホートで使用された分析パラメータを変化させた他の事前規定感度分析では、観察された結果に変化はみられませんでした。
聴覚介入または健康教育対照のいずれにおいても、この研究に起因する重大な有害事象は報告されませんでした。
コメント
聴覚と認知機能との関連性が報告されていますが、聴覚介入の効果については充分に検討されていません。
さて、非盲検ランダム化比較試験の結果、聴覚介入(聴覚カウンセリングと補聴器の提供)は、健康教育の対照介入(慢性疾患予防に関するトピックを扱った健康教育者との個別セッション)と比較して、全コホートの一次解析において3年間の認知機能低下を減少させませんでした。しかし、事前規定の感度分析の結果、認知機能低下のリスクが高い高齢者集団では聴覚介入により3年間の認知機能変化が抑制される可能性が示唆されました。
今回の研究の試験参加者の平均年齢は76.8歳(SD 4.0)、追跡期間は3年間であることから、追跡期間が短かった可能性があります。より長期的な介入による認知機能への影響について検証が求められます。
また、認知機能低下のリスク因子を多く有し、ベースラインの認知機能スコアが低い患者集団においては、聴覚介入により認知機能低下リスクを低減できる可能性が示唆されたことから、このような集団における介入効果の検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 非盲検ランダム化比較試験の結果、聴覚介入は、全コホートの一次解析において3年間の認知機能低下を減少させなかった。感度分析の結果、認知機能低下のリスクが高い高齢者集団では聴覚介入により3年間の認知機能変化が抑制される可能性が示唆された。
根拠となった試験の抄録
背景:難聴は高齢者の認知機能低下や認知症発症の増加と関連している。我々は、難聴を有する認知的に健康な高齢者において、聴覚介入により認知低下を抑制できるかどうかを検討することを目的とした。
方法:ACHIEVE試験は、70~84歳の未治療の難聴で認知機能障害のない成人を対象とした多施設、並行群、非盲検、ランダム化比較試験であり、米国内の4つの地域研究施設で実施された。参加者は、各施設の2つの研究集団から募集された:
(1)心血管の健康に関する長年の観察研究(Atherosclerosis Risk in Communities [ARIC]研究)に参加している高齢者
(2)健康な新規の地域ボランティア(de novo)
試験参加者は、聴覚介入(聴覚カウンセリングと補聴器の提供)と健康教育の対照介入(慢性疾患予防に関するトピックを扱った健康教育者との個別セッション)にランダムに割り付けられ(1:1)、6ヵ月ごとに追跡調査が行われた。
主要エンドポイントは、包括的神経認知バッテリー(global cognition standardised factor score from a comprehensive neurocognitive battery)によるグローバル認知標準化因子スコアの3年間の変化であった。
解析はintention to treatで行われた。本試験はClinicalTrials.gov(NCT03243422)に登録された。
所見:2017年11月9日から2019年10月25日まで、3,004例の参加者を適格かどうかスクリーニングし、977例(32.5%;ARICから238例[24%]、de novoから739例[76%])のうち、490例(50%)を聴覚介入に、487例(50%)を健康教育対照にランダムに割り付けた。コホートの平均年齢は76.8歳(SD 4.0)、女性523例(54%)、男性454例(46%)であり、ほとんどが白人であった(n=858 [88%])。ARICの参加者は、de novoコホートの参加者よりも高齢で、認知機能低下の危険因子を多く有し、ベースラインの認知機能スコアが低かった。ARICコホートとde novoコホートを組み合わせた一次解析では、3年間の認知機能の変化(SD単位)は、聴覚介入群と健康教育対照群で有意差はなかった(聴覚介入群では-0.200、95%信頼区間 -0.256 ~ -0.144、対照群では-0.202、-0.258 ~ -0.145;差 0.002、-0.077~0.081;p=0.96)。しかし、事前に規定した感度分析では、ARICコホートとde novoコホートの間で、3年間の認知機能の変化に対する聴覚介入の効果に有意差が認められた(交互作用P=0.010)。全コホートで使用された分析パラメータを変化させた他の事前規定感度分析では、観察された結果に変化はみられなかった。聴覚介入または健康教育対照のいずれにおいても、この研究に起因する重大な有害事象は報告されなかった。
解釈:聴覚介入は、全コホートの一次解析において3年間の認知機能低下を減少させなかった。しかし、事前に規定された感度分析では、コホートを構成する2つの研究集団間で効果が異なることが示された。これらの所見から、認知機能低下のリスクが高い高齢者集団では聴覚介入により3年間の認知機能変化が抑制される可能性があるが、認知機能低下のリスクが低い集団では抑制されないことが示唆された。
資金提供:米国国立衛生研究所
引用文献
Hearing intervention versus health education control to reduce cognitive decline in older adults with hearing loss in the USA (ACHIEVE): a multicentre, randomised controlled trial
Frank R Lin et al. PMID: 37478886 DOI: 10.1016/S0140-6736(23)01406-X
Lancet. 2023 Jul 17;S0140-6736(23)01406-X. doi: 10.1016/S0140-6736(23)01406-X. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37478886/
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