ニルマトレルビルによる治療とCOVID-19後遺症のリスクとの関連性は?(コホート研究; JAMA Intern Med. 2023)

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コロナ後遺症の発症リスクとニルマトレルビル治療との関連性は?

COVID-19後遺症(コロナ後遺症)はlong COVIDとしても知られ、多くの人が罹患しています。抗ウイルス薬使用によりコロナ後遺症リスクが低減する可能性が報告されていますが、実臨床における効果についてはデータが充分とはいえません。

そこで今回は、COVID-19の急性期におけるニルマトレルビルによる治療がコロナ後遺症リスクの低下と関連するかどうかを検討したコホート研究の結果をご紹介します。本試験は、米国退役軍人省(VA)の医療データベースを用いて、2022年1月3日~2022年12月31日の間にSARS-CoV-2検査結果が陽性であった患者で、検査結果が陽性であった当日に入院しておらず、COVID-19重症化リスク因子を少なくとも1つ有し、SARS-CoV-2診断後30日間生存していた患者を同定しました。

検査陽性後5日以内にニルマトレルビル経口投与を受けた者(n=35,717)と、SARS-CoV-2感染の急性期にCOVID-19抗ウイルス薬または抗体治療を受けなかった者(対照群、n=246,076)を同定しました。ニルマトレルビルによる治療、または処方記録に基づくCOVID-19抗ウイルス薬または抗体による治療を受けなかった場合とが比較されました。

逆確率加重生存モデルを用いて、ニルマトレルビル(vs. 対照)と急性期後の死亡、急性期後の入院、および事前に規定した13の急性期後のCOVID-19後遺症(PCCの構成要素)との関連を推定し、相対的尺度では相対リスク(RR)またはハザード比(HR)として、絶対的尺度では180日後の絶対リスク減少率(ARR)として報告されました。

試験結果から明らかになったことは?

SARS-CoV-2検査結果が陽性で、COVID-19重症化リスク因子を1つ以上有する患者 281,793例(平均年齢 61.99歳[SD 14.96]、男性 242,383例[86.01%])が対象となりました。そのうち246,076例はSARS-CoV-2感染急性期にCOVID-19抗ウイルス薬または抗体治療を受けず、35,717例はSARS-CoV-2検査陽性後5日以内にニルマトレルビル経口投与を受けました。

相対リスク RR
または
ハザード比 HR
(95%CI)
絶対リスク減少率 ARR
(95%CI)
コロナ後遺症リスクRR 0.74(0.72〜0.77ARR 4.51%(4.01〜4.99
急性期後の死亡HR 0.53(0.46〜0.61ARR 0.65%(0.54〜0.77
急性期後の入院HR 0.76(0.73〜0.80ARR 1.72%(1.42〜2.01

対照群と比較して、ニルマトルビルはコロナ後遺症リスクの低下と関連していました(RR 0.74、95%CI 0.72〜0.77;ARR 4.51%、95%CI 4.01〜4.99)。これには、心臓血管系(不整脈および虚血性心疾患)、凝固および血液学的障害(肺塞栓症および深部静脈血栓症)、疲労および倦怠感、急性腎臓病、筋肉痛、神経系(神経認知障害および自律神経失調症)、および息切れにおける13の急性後遺症(コロナ後遺症の構成要素)のうち10のリスクが減少したことが含まれています。

またニルマトレルビルは、急性期後の死亡(HR 0.53、95%CI 0.46〜0.61);ARR 0.65%、95%CI 0.54〜0.77)および急性期後の入院(HR 0.76、95%CI 0.73〜0.80;ARR 1.72%、95%CI 1.42〜2.01)のリスク低下と関連していました。

コメント

コロナ後遺症はアンメットニーズの高いCOVID-19関連症状です。抗ウイルス薬によるCOVID-19に対する治療がコロナ後遺症リスクを低減させる可能性が報告されており、エビデンスの集積が求められています。

さて、米国退役軍人省(VA)の医療データベースを用いたコホート研究の結果、重症化へのリスク因子を少なくとも1つ有するSARS-CoV-2感染者において、SARS-CoV-2検査結果が陽性になってから5日以内のニルマトレルビル投与は、リスクスペクトル全体にわたって、またワクチン接種の有無や過去の感染歴に関係なく、コロナ後遺症のリスク低下と関連していることが明らかとなりました。ただし、本試験で用いられたコホートは男性が約88%、年齢が約66歳、BMI 30.86であり、さらに一般的な集団よりも体格が良い可能性が高いです。したがって、一般的な集団への外挿性は低いと考えられます。同様に、一般的な集団へのニルマトレルビルの効果(重症化抑制やコロナ後遺症リスク低減など)が高い可能性もあることから、更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ コホート研究により、重症化へのリスク因子を少なくとも1つ有するSARS-CoV-2感染者において、SARS-CoV-2検査結果が陽性になってから5日以内のニルマトレルビル投与は、リスクスペクトル全体にわたって、またワクチン接種の有無や過去の感染歴に関係なく、コロナ後遺症のリスク低下と関連していることが明らかになった。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性:COVID-19後遺症(PCC)はlong COVIDとしても知られ、多くの人が罹患している。

目的:COVID-19の急性期におけるニルマトレルビルによる治療がPCCリスクの低下と関連するかどうかを検討すること。

試験デザイン、設定、参加者:このコホート研究は、米国退役軍人省(VA)の医療データベースを用いて、2022年1月3日~2022年12月31日の間にSARS-CoV-2検査結果が陽性であった患者であって、検査結果が陽性であった当日に入院しておらず、COVID-19重症化リスク因子を少なくとも1つ有し、SARS-CoV-2診断後30日間生存していた患者を同定した。検査陽性後5日以内にニルマトレルビル経口投与を受けた者(n=35,717)と、SARS-CoV-2感染の急性期にCOVID-19抗ウイルス薬または抗体治療を受けなかった者(対照群、n=246,076)を同定した。

曝露:ニルマトレルビルによる治療、または処方記録に基づくCOVID-19抗ウイルス薬または抗体による治療を受けなかった。

主要転帰と測定:逆確率加重生存モデルを用いて、ニルマトレルビル(vs. 対照)と急性期後の死亡、急性期後の入院、および事前に規定した13の急性期後のCOVID-19後遺症(PCCの構成要素)との関連を推定し、相対的尺度では相対リスク(RR)またはハザード比(HR)として、絶対的尺度では180日後の絶対リスク減少率(ARR)として報告した。

結果:SARS-CoV-2検査結果が陽性で、COVID-19重症化リスク因子を1つ以上有する患者 281,793例(平均年齢 61.99歳[SD 14.96]、男性 242,383例[86.01%])を対象とした。そのうち246,076例はSARS-CoV-2感染急性期にCOVID-19抗ウイルス薬または抗体治療を受けず、35,717例はSARS-CoV-2検査陽性後5日以内にニルマトレルビル経口投与を受けた。対照群と比較して、ニルマトルビルはコロナ後遺症リスクの低下と関連していた(RR 0.74、95%CI 0.72〜0.77;ARR 4.51%、95%CI 4.01〜4.99)。これには、心臓血管系(不整脈および虚血性心疾患)、凝固および血液学的障害(肺塞栓症および深部静脈血栓症)、疲労および倦怠感、急性腎臓病、筋肉痛、神経系(神経認知障害および自律神経失調症)、および息切れにおける13の急性後遺症(コロナ後遺症の構成要素)のうち10のリスクが減少したことが含まれる。またニルマトレルビルは、急性期後の死亡(HR 0.53、95%CI 0.46〜0.61);ARR 0.65%、95%CI 0.54〜0.77)および急性期後の入院(HR 0.76、95%CI 0.73〜0.80;ARR 1.72%、95%CI 1.42〜2.01)のリスク低下と関連していた。

結論と関連性:このコホート研究により、重症化へのリスク因子を少なくとも1つ有するSARS-CoV-2感染者において、SARS-CoV-2検査結果が陽性になってから5日以内のニルマトレルビル投与は、このコホートにおけるリスクスペクトル全体にわたって、またワクチン接種の有無や過去の感染歴に関係なく、PCCのリスク低下と関連していることが明らかになった;所見を総合すると、COVID-19の急性期におけるニルマトレルビルの投与は、急性期以降の有害な健康転帰のリスクを低下させる可能性があることが示唆される。

利益相反声明
利益相反の開示:Al-Aly博士は、Gilead Sciences社およびTonix Pharmaceuticals社からコンサルタント料を受け取り、Pfizer社へコンサルティング(無報酬)していることを報告した。

引用文献

Association of Treatment With Nirmatrelvir and the Risk of Post-COVID-19 Condition
Yan Xie et al. PMID: 36951829 PMCID: PMC10037200 DOI: 10.1001/jamainternmed.2023.0743
JAMA Intern Med. 2023 Jun 1;183(6):554-564. doi: 10.1001/jamainternmed.2023.0743.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36951829/

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