アルツハイマー型認知症の焦燥感に対するブレクスピプラゾールの効果はどのくらい?(DB-RCT; Am J Geriatr Psychiatry. 2020)

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米国ではアルツハイマー型認知症のアジテーションに対する薬剤が承認されている

ブレクスピプラゾールは、セロトニン5-HT1A受容体部分アゴニスト作用、セロトニン5-HT2A受容体アンタゴニスト作用及びドパミンD2受容体部分アゴニスト作用を併せ持つ特徴的な薬剤です。日本では「統合失調症」の保険適応を取得しています(2023年5月時点)。

アルツハイマー型認知症の症状は様々ですが、なかでも焦燥感(アジテーション)は医療従事者、介護者の負担が大きく、治療戦略の確立が求められています。

そこで今回は、アルツハイマー型認知症を有する患者におけるブレクスピプラゾールの有効性、安全性および忍容性を評価したランダム化比較試験の結果をご紹介します。

本報告は、12週間のランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験2件(NCT01862640、NCT01922258)に関するもので、試験1では7ヵ国81施設、試験2では9ヵ国62施設が参加しました。

試験参加者は、介護施設またはコミュニティベースの環境にいるアルツハイマー型認知症患者でした(試験1:433例のランダム化、試験2:270例のランダム化)。安定したアルツハイマー病治療薬の服用は許可されていました。

介入として、試験1では固定用量のブレクスピプラゾール2mg/日、ブレクスピプラゾール1mg/日、またはプラセボ(1:1:1)が、試験2ではフレキシブル用量のブレクスピプラゾール0.5~2mg/日またはプラセボ(1:1)が12週間投与されました。

本試験のアウトカムは、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)(総スコア範囲 29~203、高スコアはより頻繁な興奮行動を示す)、興奮に関連したClinical Global Impression – Severity of illness(CGI-S)でした。また、安全性についても評価されました。

試験結果から明らかになったことは?

試験1(固定用量):ブレクスピプラゾール2mg/日 vs. 1mg/日 vs. プラセボ

CMAI総スコア
vs. プラセボ
ブレクスピプラゾール2mg/日調整平均差 -3.77
信頼限界 -7.38 〜 -0.17
t(316) -2.06
p=0.040
ブレクスピプラゾール1mg/日調整平均差 0.23
信頼限界 -3.40 〜 3.86
t(314) 0.12
p=0.90

ブレクスピプラゾール2mg/日は、ベースラインから12週目までのCMAI総スコアにおいて、プラセボと比較して統計的に有意な改善を示しました(調整平均差 -3.77、信頼限界 -7.38 〜 -0.17; t(316) -2.06;p=0.040; MMRM*)。ブレクスピプラゾール1mg/日では、プラセボとの有意な差は認められませんでした(0.23、-3.40 〜 3.86; t(314) 0.12; p=0.90; MMRM*)。

CGI-S
vs. プラセボ
ブレクスピプラゾール2mg/日調整平均差 -0.16
信頼限界 -0.39 〜 0.06
t(337) -1.42
p=0.16

CGI-Sについては、試験1ではブレクスピプラゾール2mg/日でプラセボより大きな数値的な改善が認められました(-0.16、-0.39 〜 0.06; t(337) -1.42; p=0.16; MMRM)。

ブレクスピプラゾール2mg/日投与群で発現率が5%以上の治療関連の有害事象(TEAE)は、頭痛(9.3%、プラセボ8.1%)、不眠症(5.7%、プラセボ4.4%)、めまい(5.7%、プラセボ3.0%)、尿路感染(5.0%、プラセボ1.5%)でした。

*mixed-effects models for repeated measures(MMRM):線形混合効果モデルの一種であり、不完全な経時測定データを解析するために利用される統計モデル。

TEAEの大部分は軽度または中等度でした。

試験2(フレキシブル用量):ブレクスピプラゾール0.5~2mg/日 vs. プラセボ

CMAI総スコア
vs. プラセボ
ブレクスピプラゾール0.5~2mg/日調整平均差 -2.34
信頼限界 -5.49 〜 0.82
t(230) -1.46
p=0.15
(事後解析)
ブレクスピプラゾール2mg/日まで漸増
調整平均差 -5.06
信頼限界 -8.99 〜 -1.13
t(144) -2.54
p=0.012

ブレクスピプラゾール0.5~2mg/日は、プラセボに対して統計学的な優越性は得られませんでした(-2.34、-5.49 〜 0.82; t(230) -1.46; p=0.15; MMRM)。しかし、ブレクスピプラゾールの最大用量である2mg/日まで漸増した患者においては、同様に漸増したプラセボ患者と比較して、事後解析で有益性が認められました(-5.06、-8.99 〜 -1.13; t(144) -2.54、p=0.012; MMRM)。

CGI-S
vs. プラセボ
ブレクスピプラゾール0.5〜2mg/日調整平均差 -0.31
信頼限界 -0.55 〜 -0.06
t(222) -2.42
p=0.016

CGI-Sについては、ブレクスピプラゾール0.5〜2mg/日で大きな改善が認められました(-0.31、-0.55 〜 -0.06; t(222) -2.42; p=0.016; MMRM)。

ブレクスピプラゾール0.5〜2mg/日投与群で発現率が5%以上のTEAEは、頭痛(7.6% vs. プラセボ12.4%)および傾眠(6.1% vs. プラセボ3.6%)でした。TEAEの大部分は軽度または中等度でした。

コメント

2023年5月11日に米国食品医薬品局(FDA)は、 アルツハイマー病による認知症に伴う焦燥感の治療に対するレキサルティ(ブレクスピプラゾール)経口錠剤の追加承認を発表しました。この適応症に対してFDAが承認した最初の治療選択肢です。実際の効果がどの程度なのか、根拠となった臨床試験を読んでみました。

さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、ブレクスピプラゾール2mg/日は、焦燥感を有するアルツハイマー型認知症の治療に有効であることが示されました。

本試験の有効性の評価項目としてCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)(総スコア範囲 29~203、高スコアはより頻繁な興奮行動を示す)、興奮に関連したClinical Global Impression – Severity of illness(CGI-S)が用いられました。しかし、これらの臨床上重要な差異の最小差(MCID)については報告されていません。実臨床における重要度の評価が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ ブレクスピプラゾール2mg/日は、焦燥感を有するアルツハイマー型認知症の治療に有効で、安全で、忍容性が高い可能性を有している。

根拠となった試験の抄録

目的:アルツハイマー型認知症の焦燥感を有する患者におけるブレクスピプラゾールの有効性、安全性および忍容性を評価すること。

試験デザイン:12週間のランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験(NCT01862640、NCT01922258)。

試験設定: 試験1_7ヵ国81施設、試験2_9ヵ国62施設。

試験参加者:介護施設またはコミュニティベースの環境にいるアルツハイマー型認知症患者(試験1:433例のランダム化、試験2:270例のランダム化)。安定したアルツハイマー病治療薬の服用は許可された。

介入方法:試験1(固定用量)_ブレクスピプラゾール2mg/日、ブレクスピプラゾール1mg/日、またはプラセボ(1:1:1)を12週間投与した。試験2(フレキシブルドーズ)_ブレクスピプラゾール0.5~2mg/日またはプラセボ(1:1)、12週間。

測定方法:Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)(総スコア範囲 29~203、高スコアはより頻繁な興奮行動を示す)、興奮に関連したClinical Global Impression – Severity of illness(CGI-S)。また、安全性についても評価した。

結果:(試験1)ブレクスピプラゾール2mg/日は、ベースラインから12週目までのCMAI総スコアにおいて、プラセボと比較して統計的に有意な改善を示した(調整平均差 -3.77、信頼限界 -7.38 〜 -0.17; t(316) -2.06;p=0.040; MMRM)。ブレクスピプラゾール1mg/日では、プラセボとの有意な差は認められなかった(0.23、-3.40 〜 3.86; t(314) 0.12; p=0.90; MMRM)。
(試験2)ブレクスピプラゾール0.5~2mg/日は、プラセボに対して統計学的な優越性は得られなかった(-2.34、-5.49 〜 0.82; t(230) -1.46; p=0.15; MMRM)。しかし、ブレクスピプラゾールの最大用量である2mg/日まで漸増した患者においては、同様に漸増したプラセボ患者と比較して、事後解析で有益性が認められた(-5.06、-8.99 〜 -1.13; t(144) -2.54、p=0.012; MMRM)。
CGI-Sについては、試験1ではブレクスピプラゾール2mg/日でプラセボより大きな数値改善が認められ(-0.16、-0.39 〜 0.06; t(337) -1.42; p=0.16; MMRM)、試験2ではブレクスピプラゾール0.5〜2mg/日で大きな改善が認められた(-0.31、-0.55 〜 -0.06; t(222) -2.42; p=0.016; MMRM)。
試験1において、ブレクスピプラゾール2mg/日投与群で発現率が5%以上の治療上有害な事象(TEAE)は、頭痛(9.3%、プラセボ8.1%)、不眠症(5.7%、プラセボ4.4%)、めまい(5.7%、プラセボ3.0%)、尿路感染(5.0%、プラセボ1.5%)でした。第2試験において、ブレクスピプラゾール0.5〜2mg/日投与群で発現率が5%以上のTEAEは、頭痛(7.6% vs. プラセボ12.4%)および傾眠(6.1% vs. プラセボ3.6%)でした。両試験とも、TEAEの大部分は軽度または中等度であった。

結論:ブレイクスピラゾール 2mg/日は、焦燥感を有するアルツハイマー型認知症の治療に有効で、安全で、忍容性が高い可能性を有している。

キーワード:アルツハイマー病、ヒト、興奮・焦燥感(アジテーション、agitation)、Brexpiprazole、臨床試験、二重盲検法

引用文献

Efficacy and Safety of Brexpiprazole for the Treatment of Agitation in Alzheimer’s Dementia: Two 12-Week, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trials
George T Grossberg et al. PMID: 31708380 DOI: 10.1016/j.jagp.2019.09.009
Am J Geriatr Psychiatry. 2020 Apr;28(4):383-400. doi: 10.1016/j.jagp.2019.09.009. Epub 2019 Oct 1.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31708380/

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