下剤の常用使用と認知症発症との関連性は?
脳-腸-微生物軸(以前は腸脳相関)仮説は、無菌マウスを用いた研究結果から提唱されました。本仮説は、腸内細菌がストレス受容や脳の神経系の発達・成長、そして行動に関わる存在であることを示したものです(PMID: 15133062)。
具体例として、過敏性腸症候群(IBS)が挙げられます。ストレスがIBSを悪化させることが知られていますが、原因については不明です。この機序として迷走神経を介した経路が報告されており、IBS患者では、脳が不安やストレスを感じると、迷走神経を介して腸が過剰に反応し、知覚過敏(hyperalgesia)が引き起こされること、この刺激が脳に伝わり、苦痛や不安感が増すことが確認され、IBSは脳腸相関の悪循環によって引き起こされていることが明らかとなってきました(福土ら)。
OTC下剤の使用は一般集団に多いことが知られています。以上のことから、下剤の使用が認知症と関連することが示唆されていますが、充分に検討されていません。
そこで今回は、UK Biobank(英国バイオバンク)参加者において、下剤の常用と認知症の発生率との関連を調べることを目的に実施された前向きコホート研究の結果をご紹介します。
この前向きコホート研究は、認知症の既往歴のない40~69歳のUK Biobank参加者を対象としたものです。下剤の常用は、ベースライン時(2006~2010年)に過去4週間で、1週間のうちほとんどの日に下剤を使用したとする自己申告で定義されました。
本試験のアウトカムは全認知症、アルツハイマー病、血管性認知症とし、リンクされた病院入院または死亡登録から特定されました(2020年まで)。
試験結果から明らかになったことは?
ベースライン時の平均年齢が56.5歳(SD 8.1)の502,229例のうち、273,251例(54.4%)が女性で、18,235例(3.6%)が下剤の常用と回答しました。平均9.8年の追跡期間中に、下剤の常用者が218例(1.3%)、常用者がない1,969例(0.4%)が認知症を発症しました。
下剤の常用によるリスク増加 ハザード比[HR](95%信頼区間) | |
認知症 | HR 1.51(1.30〜1.75) |
血管性認知症 | HR 1.65(1.21〜2.27) |
アルツハイマー病 | HR 1.05(0.79〜1.40) |
多変量解析の結果、下剤の常用は認知症(ハザード比[HR]1.51、95%信頼区間 1.30〜1.75)および血管性認知症(HR 1.65、1.21〜2.27)のリスク上昇と関連しており、アルツハイマー病(HR 1.05、0.79〜1.40)には有意な関連は認められませんでした。
全認知症、血管性認知症ともに、常用する下剤の種類数が多いほどリスクが上昇しました(それぞれの傾向P=0.001、0.04)。
下剤を1種類だけ使用していると明確に報告した参加者(5,800例)において、浸透圧性下剤を使用している集団だけが、全認知症(HR 1.64、1.20〜2.24)および血管性認知症(HR 1.97、1.04〜3.75)のリスク増加と統計的有意に関連していました。これらの結果は、様々なサブグループ解析や感度解析においても堅牢でした。
コメント
下剤の慢性使用と認知症発症との関連性については充分に検討されていません。
さて、本試験結果によれば、下剤の常用は、特に複数の種類の下剤や浸透圧性下剤を使用している人において、認知症の高いリスクと関連していました。ただし、本試験は英国の前向きコホート研究であり、調整しきれていない交絡因子の影響を排除しきれないこと、便秘症や便秘症のタイプそのものが認知症発症と関連している可能性、下剤の常用が交絡因子である可能性(認知症発症の原因ではない)、浸透圧性下剤を使用している患者数が多いことそのものがバイアス、など様々な要因が考えられます。
したがって、本試験結果のみで下剤の常用が認知症を発症させるとは言えません。あくまでも相関関係が示されたに過ぎない点を踏まえた方が良いでしょう。
続報に期待。
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