治療抵抗性のうつ病患者における抗うつ薬の増強 vs. 抗うつ薬の切替え
うつ病に対する治療において、第一選択薬で治療が奏功しない場合があり、これを治療抵抗性うつ病と呼びます。
日本の診療ガイドライン(2022年)によれば、第一選択薬による治療に成功しない高齢者のうつ病に対して、抗うつ薬を変更あるいは併用(増強療法)を行うことについては、エビデンスが限られているとされています。したがって、エビデンスレベル、推奨度ともに低く、具体的に推奨されている薬剤はありません。
さらに、治療抵抗性うつ病の高齢者において、抗うつ薬を増強または切替えることのベネフィットとリスクは、これまで広く研究されていません。
そこで今回は、治療抵抗性うつ病の60歳以上の成人を対象に行われた、2段階の非盲検ランダム化比較試験の結果をご紹介します。
ステップ1では、患者を①アリピプラゾールによる既存の抗うつ薬の増強、②bupropion(ブプロピオン:ノルアドレナリン・ドパミン再取り込み阻害薬 NDRI、日本未承認)による増強、③既存の抗うつ薬からブプロピオンへの切り替えに1:1:1の割合でランダムに割り当てました。ステップ1で効果がなかった、あるいは不適格であった患者は、ステップ2でリチウムによる増強またはノルトリプチリンへの切り替えに1:1の割合でランダムに割り付けられました(各ステップの実施期間:約10週間)。
本試験の主要アウトカムは、National Institutes of Health Toolbox Positive AffectおよびGeneral Life Satisfactionサブスケールで評価した心理的幸福度(psychological well-being)のベースラインからの変化でした(集団平均50、スコアが高いほど幸福度が高いことを示す)。副次的アウトカムは、うつ病の寛解でした。
試験結果から明らかになったことは?
ステップ1では、合計619例の患者が登録され、211例がアリピプラゾール増強療法に、206例がブプロピオン増強療法に、202例がブプロピオンへの切替療法に割付けられました。
幸福度スコアの改善 | 群間差 | |
アリピプラゾール増強群(211例) | 4.83ポイント | 2.79ポイント(95%CI 0.56~5.02) P=0.0141、規定閾値:P=0.017 vs. ブプロピオンへの変更療法 |
ブプロピオン増強群(206例) | 4.33ポイント | |
ブプロピオンへの切替群(202例) | 2.04ポイント |
幸福度スコアはそれぞれ4.83ポイント、4.33ポイント、2.04ポイント改善しました。アリピプラゾール増強群とブプロピオンへの切替群との差は2.79ポイント(95%CI 0.56~5.02、P=0.0141、規定閾値:P=0.017)、アリピプラゾール増強とブプロピオン増強、ブプロピオン増強とブプロピオンへの切替えにおいて有意な群間差は認められませんでした。
寛解 | |
アリピプラゾール増強群(211例) | 28.9% |
ブプロピオン増強群(206例) | 28.2% |
ブプロピオンへの切替群(202例) | 19.3% |
寛解はアリピプラゾール増強群で28.9%、ブプロピオン増強群で28.2%、ブプロピオンへの切替群で19.3%でした。
転倒の割合は、ブプロピオン増強群で最も高いことが示されました。
ステップ2では、合計248例の患者が登録され、127例がリチウム増強群に、121例がノルトリプチリンへの切替群に割り当てられました。幸福度スコアはそれぞれ3.17ポイント、2.18ポイント改善しました(差 0.99、95%CI -1.92〜3.91)。寛解は、リチウム増強群で18.9%、ノルトリプチリンへの切替群で21.5%でした。また、転倒率は両群で同様でした。
コメント
治療抵抗性うつ病の高齢者において、抗うつ薬を増強または切替えることのベネフィットとリスクについては、小規模な検討が多く、これまで広く研究されていませんでした。
さて、非盲検のランダム化比較試験の結果、治療抵抗性うつ病の高齢者において、アリピプラゾールによる既存の抗うつ薬の増強は、ブプロピオンへの切り替えよりも10週間にわたって有意に幸福度を改善し、寛解の発生率が数値的に高いことと関連がありました。
診療ガイドラインにおける第一選択薬として、具体的な薬剤は推奨されておらず、薬効群として、新規抗うつ薬(SSRI,SNRIおよびミルタザピン)や非三環系抗うつ薬が記載されています。過去の研究結果も踏まえると、高齢の治療抵抗性うつ病に対して、まずは増量(治療強化)し、効果が得られない、あるいは忍容性に課題がある場合に、薬剤を切り替えた方が良いのかもしれません。ただし、幸福度スケールの臨床的に意義のある差異の最小差(MCID)は不明です。また、本試験も含めて、これまで報告された研究にはバイアスリスクが高いものが多い点も踏まえた方が良いと考えられます。
うつ病の評価においては、バイアスが入り込みやすいことから、プラセボでも転帰が改善することがあります。したがって、プラセボ対照および/または二重盲検下でのランダム化試験の実施が求められます。
続報に期待。
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