Treat-to-Target戦略とFire and Forget戦略どちらが良いのか?
Treat to Target戦略
「Treat」は治療、「Target」は目標を意味しています。言葉のとおり、低比重リポタンパクコレステロール(LDL-C)を下げるための目標値を設定しておいて、それを達成するような治療方針を設計していくことです。
Fire and Forget
脂質異常症治療において、「Fire」は高強度スタチン治療(最大忍容量)、「Forget」は忘れる(放置)を意味します。したがって、LDL-Cが基準値よりも高い場合、高強度のスタチン系薬での高用量治療を開始し、その後は用量調整などをせずに投与を続けることです。
どちらが優れているのかについては結論が出ていない
冠動脈疾患患者では、LDL-Cを少なくとも50%減少させるために、高強度スタチン系薬による初期スタチン治療を推奨する診療ガイドラインがあります(Fire and Forget)。別のアプローチとしては、中強度のスタチンから開始し、特定のLDL-C目標値まで漸増させるという方法があります(Treat to Target)。これらの選択肢は、観察研究での報告が多いものの、冠動脈疾患患者を対象とした臨床試験において直接比較されたことはありません。
そこで今回は、冠動脈疾患患者の長期的な臨床転帰において、treat-to-target戦略が高強度スタチン戦略に対して非劣性であるかどうかを評価したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験は、韓国の12施設で治療を受けた冠動脈疾患診断のある患者を対象としたランダム化多施設共同非劣性試験です(登録:2016年9月9日から2019年11月27日まで、最終フォローアップ:2022年10月26日)。
本試験では、患者を①LDL-C値が50~70mg/dLを目標とするLDL-C目標戦略、または②ロスバスタチン20mg、またはアトルバスタチン40mgを投与する高強度スタチン治療、いずれかにランダムに割り当てました。
主要評価項目は、3年間の死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の複合で、非劣性マージンは3.0%でした。
試験結果から明らかになったことは?
患者4,400例のうち、4,341例(98.7%)が試験を完了しました(平均年齢 65.1[SD 9.9]歳、女性1,228例[27.9%])。Treat-to-target群(2,200例)において、6,449人・年の追跡調査では、中強度スタチン投与が43%、高強度スタチン投与が54%で行われました。
3年間の平均LDL-C値は、treat-to-target群で69.1(SD 17.8)mg/dL、高強度スタチン群(2,200)で68.4(SD 20.1)mg/dLでした(p=0.21 vs. treat-to-target群)。
treat-to-target群 | 高強度スタチン群 | 絶対差 (片側97.5%CI上限) | |
主要エンドポイント (3年間の死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の複合) | 177例(8.1%) | 190例(8.7%) | -0.6% (−∞ ~ 1.1%) 非劣性に関するP<0.001 |
死亡 | 54例(2.5%) | 54例(2.5%) | <0.1% (−0.9 ~ 0.9) P=0.99 |
心筋梗塞 | 34例(1.6%) | 26例(1.2%) | 0.4% (−0.3 ~ 1.1) P=0.23 |
脳卒中 | 17例(0.85%) | 27例(1.3%) | −0.5% (−1.1 ~ 0.1) P=0.13 |
冠動脈血行再建術* | 112例(5.2%) | 114例(5.3%) | −0.1% (−1.4 ~ 1.2) P=0.89 |
主要エンドポイントは、treat-to-target群では177例(8.1%)、高強度スタチン群では190例(8.7%)で発生しました(絶対差 -0.6%[片側97.5%CI上限 1.1%];非劣性に関するP<0.001)。
コメント
国内外の診療ガイドラインでは、心疾患を有する患者に対するLDL-C低下戦略について、統一された推奨はありません。LDL-C低下戦略は大きく2つにわけられ、Treat-to-Target戦略とFire and Forget戦略に分けられます。しかし、どちらが患者予後に優れているのかについては明らかになっていません。
さて、本試験結果によれば、冠動脈疾患患者において、50~70mg/dLを目標とするLDL-C治療戦略は、死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の3年間の複合疾患に対して高強度のスタチン治療法と非劣性であることが示されました。個々のイベントにおいては、群間差は有意ではありませんでした。また、3年間の平均LDL-C値は両群で同様でした。したがって、いずれかのイベントの発生を減らしたことに起因しているわけではなく、LDL-C治療戦略においては、どこまでLDL-Cを低下できるのかに起因しているようです。ただし、本試験では、treat-to-target戦略群の約60%のみがLDL-C値を70mg/dL以下であったため、治療戦略、忍容性あるいはアドヒアランスなどに課題があった可能性があります。また、試験期間が約3年であるため、より長期間で検討した場合の効果については不明です。
続報に期待。
☑まとめ☑ 冠動脈疾患患者において、50~70mg/dLを目標とするLDL-C治療法は、死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の3年間の複合疾患に対して高強度のスタチン治療法と非劣性であった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:冠動脈疾患患者では、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)を少なくとも50%減少させるために、高強度スタチンによる初期スタチン治療を推奨するガイドラインがある。別のアプローチとしては、中強度のスタチンから開始し、特定のLDL-C目標値まで漸増させるという方法がある。これらの選択肢は、冠動脈疾患が判明している患者を対象とした臨床試験において、直接比較されたことはない。
目的:冠動脈疾患患者の長期的な臨床転帰において、treat-to-target戦略が高強度スタチンの戦略に対して非劣性であるかどうかを評価すること。
試験デザイン、設定、参加者:韓国の12施設で治療を受けた冠動脈疾患診断のある患者を対象としたランダム化多施設共同非劣性試験(登録:2016年9月9日から2019年11月27日まで、最終フォローアップ:2022年10月26日)。
介入:患者を、LDL-C値が50~70mg/dLを目標とするLDL-C目標戦略、またはロスバスタチン20mg、またはアトルバスタチン40mgを投与する高強度スタチン治療のいずれかにランダムに割り当てた。
主要アウトカムと指標:主要評価項目は、3年間の死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の複合で、非劣性マージンは3.0%であった。
結果:患者4,400例のうち、4,341例(98.7%)が試験を完了した(平均年齢 65.1[SD 9.9]歳、女性1,228例[27.9%])。Treat-to-target群(2,200例)において、6,449人・年の追跡調査では、中強度スタチン投与が43%、高強度スタチン投与が54%で行われた。3年間の平均LDL-C値は、treat-to-target群で69.1(SD 17.8)mg/dL、高強度スタチン群(2,200)で68.4(SD 20.1)mg/dLだった(p=0.21 vs. treat-to-target群)。主要エンドポイントは、treat-to-target群では177例(8.1%)、高強度スタチン群では190例(8.7%)で発生した(絶対差 -0.6%[片側97.5%CI上限 1.1%];非劣性に関するP<0.001)。
結論と関連性:冠動脈疾患患者において、50~70mg/dLを目標とするLDL-C治療法は、死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の3年間の複合疾患に対して高強度のスタチン治療法と非劣性であった。これらの知見は、スタチン治療に対する薬物反応の個人差を考慮したオーダーメイドのアプローチを可能にする、treat-to-target戦略の適性を支持する新たな証拠を提供するものである。
臨床試験登録:ClinicalTrials.gov Identifier. NCT02579499
引用文献
Treat-to-Target or High-Intensity Statin in Patients With Coronary Artery Disease: A Randomized Clinical Trial
Sung-Jin Hong et al. PMID: 36877807 PMCID: PMC9989958 (available on 2023-09-06) DOI: 10.1001/jama.2023.2487
JAMA. 2023 Mar 6;e232487. doi: 10.1001/jama.2023.2487. Online ahead of print.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36877807/
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