アスピリン継続と中止のリスクベネフィットの比較
アスピリンは、子癇(しかん)前症のリスクが高い妊婦において、早発子癇の発生率を62%減少させることが示されています。しかし、アスピリンは周産期出血のリスク上昇と関連する可能性があります。このリスクは、妊娠期(妊娠37週)前にアスピリンを中止し、妊娠第1期に子癇前症のリスクが高い人を正確に選択することによって軽減される可能性がありますが、充分に検証されていません。
そこで今回は、妊娠24週から28週の可溶性fms様チロシンキナーゼ-1と胎盤成長因子(sFlt-1:PlGF)の比*が正常な妊娠者におけるアスピリン中止が、早発性子癇予防のためのアスピリン継続に劣らないかどうかを明らかにしたランダム化比較試験の結果をご紹介します。
*sFlt-1/PlGF比:基準値38.0(>38.0で4週間以内の妊娠高血圧腎症の発症予測)
本試験は、スペイン全土の9つの産科病院で実施された多施設共同、非盲検、ランダム化、第3相、非劣性試験であり、妊娠第1期のスクリーニングで子癇前症のリスクが高く、妊娠24~28週でsFlt-1:PlGF比が38以下の妊娠者(968例)を2019年8月20日から2021年9月15日に募集し、そのうち936例を解析しました(介入:473例、対照:463例)。フォローアップは、すべての参加者について出産までとされました。
本試験では、登録された患者をアスピリン中止(介入群)または妊娠36週までのアスピリン継続(対照群)に1:1の割合でランダムに割り付けました。主要アウトカムは、群間の早発性子癇発症率の差の95%CIの上限が1.9%未満であれば、非劣性を満たすこととしました。
試験結果から明らかになったことは?
936例の参加者の平均年齢は32.4(SD 5.8)歳、黒人は3.4%、白人は93%でした。
介入群 (アスピリン中止) | 対照群 (アスピリン継続) | 絶対差 (95%CI) | |
早発性子癇の発生率 | 1.48%(7/473例) | 1.73%(8/463例) | -0.25% (-1.86%~1.36%) |
早発性子癇の発生率は、介入群 1.48%(7/473例)、対照群 1.73%(8/463例)(絶対差 -0.25%、95%CI -1.86%~1.36%)で、非劣性が示されました。
コメント
妊娠20週以降にはじめて発症するけいれん発作のことを「子癇(しかん)」と呼びますが、頭痛や目のかすみ、みぞおちの疼痛などに続いて痙攣が起きることが特徴です。重症の場合は呼吸困難や昏睡状態に陥ることもあるため、アスピリンの予防的投与、早期発見・早期治療が求められます。
子癇になる一歩手前の症状を「子癇前症」と呼びますが、日本産科婦人科学会の定義では「妊娠高血圧症候群」の合併症の一つに含められています。アスピリンは、子癇前症のリスクが高い妊婦において、早発子癇の発生率を62%減少させることが示されていますが、周産期出血のリスク上昇と関連する可能性があることから、アスピリン治療の中止タイミングの検証が求められています。
さて、本試験結果によれば、妊娠24~28週でのアスピリン中止は、早発性子癇のリスクが高く、sFlt-1:PlGF比が正常な妊婦(妊娠高血圧腎症のリスクが低い)の早発性子癇の予防においてアスピリン継続と比較して非劣性でした。
患者背景にもよりますが、出血リスクの高い妊婦においては、妊娠24~28週でアスピリンを中止することも考慮できるのかもしれません。
続報に期待。
☑まとめ☑ 妊娠24~28週でのアスピリン中止は、早発性子癇のリスクが高く、sFlt-1:PlGF比が正常な妊婦の早発性子癇の予防においてアスピリン継続と比較して非劣性であった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:アスピリンは、子癇(しかん)前症のリスクが高い妊婦において、早発子癇の発生率を62%減少させる。しかし、アスピリンは周産期出血のリスク上昇と関連する可能性がある。このリスクは、妊娠期(妊娠37週)前にアスピリンを中止し、妊娠第1期に子癇前症のリスクが高い人を正確に選択することによって軽減される可能性がある。
目的:妊娠24週から28週の可溶性fms様チロシンキナーゼ-1と胎盤成長因子(sFlt-1:PlGF)の比*が正常な妊娠者におけるアスピリン中止が、早発性子癇予防のためのアスピリン継続に劣らないかどうかを明らかにする。
*sFlt-1/PlGF比:基準値38.0(>38.0で4週間以内の妊娠高血圧腎症の発症予測)
試験デザイン、設定、参加者:スペイン全土の9つの産科病院で実施された多施設共同、非盲検、ランダム化、第3相、非劣性試験。妊娠第1期のスクリーニングで子癇前症のリスクが高く、妊娠24~28週でsFlt-1:PlGF比が38以下の妊娠者(968例)を2019年8月20日から2021年9月15日に募集し、そのうち936例を解析した(介入:473例、対照:463例)。フォローアップは、すべての参加者について出産までとした。
介入:登録された患者を、アスピリン中止(介入群)または妊娠36週までのアスピリン継続(対照群)に1:1の割合でランダムに割り付けた。
主要アウトカムと指標:群間の早発性子癇発症率の差の95%CIの上限が1.9%未満であれば、非劣性を満たすとした。
結果:936例の参加者の平均年齢は32.4(SD 5.8)歳、黒人は3.4%、白人は93%であった。早発性子癇の発生率は、介入群 1.48%(7/473例)、対照群 1.73%(8/463例)(絶対差 -0.25%、95%CI -1.86%~1.36%)で、非劣性が示された。
結論と関連性:妊娠24~28週でのアスピリン中止は、早発性子癇のリスクが高く、sFlt-1:PlGF比が正常な妊娠者において、早発性子癇の予防においてアスピリン継続と比較して非劣性であった。
試験登録:ClinicalTrials.gov Identifier. NCT03741179、ClinicalTrialsRegister.eu Identifier. 2018-000811-26
引用文献
Aspirin Discontinuation at 24 to 28 Weeks’ Gestation in Pregnancies at High Risk of Preterm Preeclampsia: A Randomized Clinical Trial
Manel Mendoza et al. PMID: 36809321 PMCID: PMC9945069 (available on 2023-08-21) DOI: 10.1001/jama.2023.0691
JAMA. 2023 Feb 21;329(7):542-550. doi: 10.1001/jama.2023.0691.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36809321/
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