心房細動および糖尿病を有する高齢者における心不全リスクと抗凝固薬の関連性はどのくらい?(台湾 人口ベース後向き観察研究; Cardiovasc Diabetol. 2023)

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使用する抗凝固薬により心不全合併リスクは異なるのか?

心不全は、心房細動(AF)や糖尿病(DM)を有する高齢者における重要な合併症です。最近の前臨床研究では、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)が心筋線維化および虚血性心筋症の進行を抑制する可能性が示唆されています。しかし、AFおよびDMを有する高齢者において、異なる経口抗凝固薬がHFリスクに影響を与えるかどうかは不明です。

そこで今回は、NOACsまたはワルファリンを投与された心房細動とDMを有する高齢者におけるHFのリスクを評価することを目的に実施された人口ベースのコホート研究の結果をご紹介します。

台湾の全人口からの請求データに基づき、全国規模の後ろ向きコホート研究が実施されました。観察データを用いた因果関係の推論を強化するために、ターゲットトライアルエミュレーションデザインが適用されました。2012年から2019年の間にNOACまたはワルファリン治療を受けた65歳以上のAFおよびDMの患者を対象とし、2020年まで追跡されました。

主要アウトカムは、新たに診断されたHFでした。NOAC群とワルファリン群間の患者特性のバランスをとるために、傾向スコアに基づく細かな層別化の重み付けが用いられました。ハザード比(HR)はCox比例ハザードモデルを用いて推定されました。

試験結果から明らかになったことは?

本研究では、合計24,835例(NOAC使用者 19,710例、ワルファリン使用者 5,125例)が対象となりました。

心不全リスク
(vs. ワルファリン)
NOACsHR 0.80
(95%CI 0.74~0.86
P<0.001
 ダビガトランHR 0.86
(95%CI 0.80~0.93
P<0.001
 リバーロキサバンHR 0.80
(95%CI 0.74~0.86
P<0.001
 アピキサバンHR 0.78
(95%CI 0.68~0.90
P<0.001
 エドキサバンHR 0.72
(95%CI 0.60~0.86
P<0.001

NOAC服用者はワルファリン服用者に比べてHFのリスクが有意に低いことと関連していました(HR 0.80、95%CI 0.74~0.86、P<0.001)。個々のNOACのサブグループ解析では、ダビガトラン(HR 0.86、95%CI 0.80~0.93、P<0.001)、リバーロキサバン(HR 0.80、95%CI 0.74~0.86、P<0.001)、アピキサバン(HR 0.78、95%CI 0.68~0.90、P<0.001)、エドキサバン(HR 0.72、95%CI 0.60~0.86、P<0.001)はワルファリンより低いHFのリスクと関連していました。

この知見は、年齢や性別のサブグループに関係なく一貫しており、薬剤保有率が高い人ほど顕著でした。いくつかの感度分析により、結果の頑健性がさらに裏付けられました。

コメント

基礎研究の結果、NOACsに心臓保護作用を有している可能性が示されています。しかし、ヒトを対象とした研究は充分に行われていません。

さて、本試験結果によれば、台湾の全国規模のコホート研究により、NOACsを服用している心房細動と糖尿病の高齢者は、ワルファリン服用者と比較して心不全の発症リスクが低いことと関連していることが示されました。

ただし、本試験はデータベース研究であることから、あくまでも相関関係が示されたにすぎません。そもそも心不全リスクの低い患者に対してNOACsが処方された可能性を排除できません。また、ライフスタイル、喫煙・飲酒歴、詳細な検査結果(血糖値や腎機能など)を取得できなかったようです。さらに適応症についても確認できなかったようですので、誤分類バイアスも含めて、傾向スコアマッチでは調整しきれていないバイアスが残存しています。質の高い前向き研究の結果が求められます。

続報に期待。

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☑まとめ☑ 台湾の全国規模のコホート研究により、NOACsを服用している心房細動と糖尿病の高齢者は、ワルファリン服用者と比較して心不全の発症リスクが低いことと関連していることが示された。

根拠となった試験の抄録

背景:心不全は、心房細動や糖尿病を有する高齢者における重要な合併症である。最近の前臨床研究では、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)が心筋線維化および虚血性心筋症の進行を抑制する可能性が示唆された。心房細動とDMを有する高齢者において、異なる経口抗凝固薬がHFのリスクに影響を与えるかどうかは不明である。本研究では、NOACsまたはワルファリンを投与された心房細動とDMを有する高齢者におけるHFのリスクを評価することを目的とした。

方法:台湾の全人口からの請求データに基づき、全国規模の後ろ向きコホート研究を実施した。観察データを用いた因果関係の推論を強化するために、ターゲットトライアルエミュレーションデザインを適用した。2012年から2019年の間にNOACまたはワルファリン治療を受けた65歳以上のAFおよびDMの患者を対象とし、2020年まで追跡した。
主要アウトカムは、新たに診断されたHFであった。NOAC群とワルファリン群間の患者特性のバランスをとるために、傾向スコアに基づく細かな層別化の重み付けを用いた。ハザード比(HR)はCox比例ハザードモデルを用いて推定した。

結果:本研究では、合計24,835例(NOAC使用者 19,710例、ワルファリン使用者 5,125例)が対象であった。NOAC服用者はワルファリン服用者に比べてHFのリスクが有意に低かった(HR 0.80、95%CI 0.74~0.86、P<0.001)。個々のNOACのサブグループ解析では、ダビガトラン(HR 0.86、95%CI 0.80~0.93、P<0.001)、リバーロキサバン(HR 0.80、95%CI 0.74~0.86、P<0.001)、アピキサバン(HR 0.78、95%CI 0.68~0.90、P<0.001)、エドキサバン(HR 0.72、95%CI 0.60~0.86、P<0.001)はワルファリンより低いHFのリスクと関連していた。この知見は、年齢や性別のサブグループに関係なく一貫しており、薬剤保有率が高い人ほど顕著であった。いくつかの感度分析により、我々の知見の頑健性がさらに裏付けられた。

結論:この全国規模のコホート研究により、NOACsを服用している心房細動と糖尿病の高齢者は、ワルファリン服用者と比較してHFの発症リスクが低いことが示された。本結果は、このような脆弱な集団における心不全予防を考慮した場合、NOACが経口抗凝固薬として望ましい治療法である可能性を示唆するものであった。今後、因果関係を解明し、その背後にある機序を検討することが望まれる。

キーワード:心房細動、糖尿病、高齢者、心不全、経口抗凝固薬

引用文献

Risk of heart failure in elderly patients with atrial fibrillation and diabetes taking different oral anticoagulants: a nationwide cohort study
Shu-Man Lin et al. PMID: 36609317 PMCID: PMC9824984 DOI: 10.1186/s12933-022-01688-1
Cardiovasc Diabetol. 2023 Jan 6;22(1):1. doi: 10.1186/s12933-022-01688-1.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36609317/

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