高齢者の認知機能に対するマインドフルネス・トレーニングとエクササイズの効果はどのくらいか?(RCT; JAMA. 2022)

smiling man and woman wearing jackets 01_中枢神経系
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エピソード記憶と実行機能は生活習慣への介入により改善するのか?

エピソード記憶と実行機能は、加齢とともに低下する認知機能の重要な側面です。脳科学時点によれば、エピソード記憶とは、陳述記憶の一つで、「個人が経験した出来事に関する記憶」であり、出来事の内容 (「何」を経験したか)に加えて、出来事を経験したときのさまざまな付随情報(周囲の環境すなわち時間・空間的文脈、あるいはそのときの自己の身体的・心理的状態など)と共に記憶されていることが重要な特徴である、とされています。また、実行機能とは、複雑な課題の遂行に際し、課題ルールの維持やスイッチング、情報の更新などを行うことで、思考や行動を制御する認知システム、あるいはそれら認知制御機能の総称である、とされています。

これら能力の低下は、生活習慣への介入によって改善できる可能性がありますが、充分に検討されていません。そこで今回は、マインドフルネスに基づくストレス軽減(MBSR)、運動、または両者の組み合わせが、高齢者の認知機能を改善するかどうかを明らかにすることを目的に実施された2×2要因ランダム化臨床試験の結果をご紹介します。

本試験は、米国の2施設(ワシントン大学セントルイス校およびカリフォルニア大学サンディエゴ校)で実施され、認知症ではないが主観的な認知機能の不安を有する高齢者(65~84歳)計585例をランダム化しました(登録期間:2015年11月19日~2019年1月23日、最終フォローアップ:2020年3月16日)。

本試験の参加者は、毎日60分の瞑想を目標とするMBSR群(n=150)、毎週300分以上を目標とする有酸素、筋力、機能的要素を含む運動群(n=138)、MBSRと運動の併用群(n=144)、または健康教育のみの対照群(n=153)にランダム割り付けされました。介入は18ヵ月間継続され、グループベースのクラスと自宅での練習で構成されました。

本試験の2つの主要アウトカムは、神経心理学的検査によるエピソード記憶と実行機能の複合値(平均[SD]0[1]に標準化;複合スコアが高いほど認知能力が高いことを示す)でした。また、副次的アウトカムとして、構造的磁気共鳴画像による海馬体積と背外側前頭前野の厚さと表面積、機能的認知能力、自己申告による認知的不安の5つが報告されました。追跡期間は、主要エンドポイントが6ヵ月、副次エンドポイントが18ヵ月でした。

試験結果から明らかになったことは?

ランダム化された585例(平均年齢 71.5歳、女性 424例[72.5%])のうち、568例(97.1%)が試験開始から6ヵ月を、475例(81.2%)が18ヵ月を完了しました。

MBSR群非MBSR群平均差
(6ヵ月時点)
エピソード記憶
0.44 0.48 -0.04ポイント
(95%CI -0.15~0.07
P=0.50
(18ヵ月時点)
実行機能
0.390.310.08ポイント
(95%CI -0.02~0.19
P=0.12
運動群非運動群平均差
(6ヵ月時点)
エピソード記憶
0.49 0.42 0.07ポイント
(95%CI -0.04~0.17
P=0.23
(18ヵ月時点)
実行機能
0.39 0.320.07
(95%CI -0.03~0.18
P=0.17

6か月時点で、エピソード記憶に対するマインドフルネス・トレーニングまたは運動の有意な効果は認められませんでした(MBSR vs. 非MBSR:0.44 vs. 0.48;平均差 -0.04ポイント[95%CI -0.15~0.07]、P=0.50、運動 vs. 非運動:0.49 vs. 0.42、差 0.07[95%CI -0.04~0.17]、P=0.23)。

実行機能(MBSR vs. 非MBSR:0.39 vs. 0.31;平均差 0.08ポイント[95%CI -0.02~0.19]、P=0.12、運動 vs. 非運動:0.39 vs. 0.32;差 0.07 [95%CI -0.03~0.18];P=0.17)で、18ヵ月という二次エンドポイントで介入の効果はみられませんでした。

6ヵ月時点では、マインドフルネス・トレーニングと運動の間に有意な交互作用は認められませんでした(記憶についてはP=0.93、実行機能についてはP=0.29)。

事前に規定された5つの副次的アウトカムのうち、いずれの介入も、非介入と比較して、有意な改善を示しませんでした。

コメント

エピソード記憶と実行機能の低下は、生活習慣への介入によって改善できる可能性がありますが、充分に検討されていません。

さて、本試験結果によれば、主観的な認知の懸念を有する高齢者において、マインドフルネス訓練、運動、またはその両方は、6ヵ月時点でのエピソード記憶または実行機能を改善しませんでした。

本試験の参加者は、認知症ではないが主観的な認知機能の不安を有する高齢者(65~84歳)であること、試験期間は6ヵ月(最長で18ヵ月)であることから、試験の組入れおよび試験期間の設定が不充分であった可能性が高いと考えられます。したがって、マインドフルネス・トレーニングや運動、そして、これらの併用による効果がないとは結論付けられません。

続報に期待。

two people standing in forest

☑まとめ☑ 主観的な認知の懸念を有する高齢者において、マインドフルネス訓練、運動、またはその両方は、6ヵ月時点でのエピソード記憶または実行機能を改善しなかったが、試験参加者や試験設定に課題が残っていると考えられる。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性:エピソード記憶と実行機能は、加齢とともに低下する認知機能の重要な側面である。この低下は、生活習慣への介入によって改善できる可能性がある。

目的:マインドフルネスに基づくストレス軽減(MBSR)、運動、または両者の組み合わせが、高齢者の認知機能を改善するかどうかを明らかにすること。

試験デザイン、設定、および参加者:この2×2要因ランダム化臨床試験は、米国の2施設(ワシントン大学セントルイス校およびカリフォルニア大学サンディエゴ校)で実施された。認知症ではないが主観的な認知機能の不安を有する高齢者(65~84歳)計585例をランダム化した(登録期間:2015年11月19日~2019年1月23日、最終フォローアップ:2020年3月16日)。

介入:参加者は、以下の介入を受けることにランダム化された。毎日60分の瞑想を目標とするMBSR(n=150)、毎週300分以上を目標とする有酸素、筋力、機能的要素を含む運動(n=138)、MBSRと運動の併用(n=144)、または健康教育対照群(n=153)。介入は18ヵ月間継続され、グループベースのクラスと自宅での練習で構成された。

主要アウトカムと測定法:2つの主要アウトカムは、神経心理学的検査によるエピソード記憶と実行機能の複合値(平均[SD]0[1]に標準化;複合スコアが高いほど認知能力が高いことを示す)だった。主要エンドポイントは6ヵ月、副次エンドポイントは18ヵ月であった。副次的アウトカムとして、構造的磁気共鳴画像による海馬体積と背外側前頭前野の厚さと表面積、機能的認知能力、自己申告による認知的不安の5つが報告された。

結果:ランダム化された585例(平均年齢 71.5歳、女性 424例[72.5%])のうち、568例(97.1%)が試験開始から6ヵ月を、475例(81.2%)が18ヵ月を完了した。6か月時点で、エピソード記憶に対するマインドフルネス・トレーニングまたは運動の有意な効果は認められなかった(MBSR vs. 非MBSR:0.44 vs. 0.48;平均差 -0.04ポイント[95%CI -0.15~0.07]、P=0.50、運動 vs. 非運動:0.49 vs. 0.42、差 0.07[95%CI -0.04~0.17]、P=0.23)。実行機能(MBSR vs. 非MBSR:0.39 vs. 0.31;平均差 0.08ポイント[95%CI -0.02~0.19]、P=0.12、運動 vs. 非運動:0.39 vs. 0.32;差 0.07 [95%CI -0.03~0.18];P=0.17)で、18ヵ月という二次エンドポイントで介入の効果はみられなかった。6ヵ月時点では、マインドフルネス・トレーニングと運動の間に有意な交互作用は認められなかった(記憶についてはP=0.93、実行機能についてはP=0.29)。事前に規定された5つの副次的アウトカムのうち、いずれの介入も、非介入と比較して、有意な改善を示さなかった。

結論および妥当性:主観的な認知の懸念を有する高齢者において、マインドフルネス訓練、運動、またはその両方は、6ヵ月時点でのエピソード記憶または実行機能の改善に有意差を生じさせなかった。この結果は、主観的な認知の懸念を持つ高齢者の認知を改善するためにこれらの介入を用いることを支持しない。

臨床試験の登録:ClinicalTrials.gov NCT02665481

引用文献

Effects of Mindfulness Training and Exercise on Cognitive Function in Older Adults: A Randomized Clinical Trial
Eric J Lenze et al. PMID: 36511926 DOI: 10.1001/jama.2022.21680
JAMA. 2022 Dec 13;328(22):2218-2229. doi: 10.1001/jama.2022.21680.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36511926/

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