血液透析中の心房細動患者における出血リスク:アピキサバン vs. ワルファリン
血液透析を受けている心房細動を有する末期腎臓病患者における脳卒中予防のためのアピキサバンの安全性および有効性については充分に検討されておらず、また既存治療薬であるワルファリンと比較検討したランダム化データはありません。
そこで今回は、血液透析を受けている心房細動でCHA2DS2-VAScスコアが2以上の患者を対象に、アピキサバンとワルファリンの出血リスクを比較したRENAL-AF試験(Renal Hemodialysis Patients Allocated Apixaban Versus Warfarin in Atrial Fibrillation)の結果をご紹介します。本試験は、前向き、ランダム化、オープンラベル、盲検アウトカム評価(PROBE)です。
患者を、アピキサバン5mg 1日2回投与(80歳以上、体重60kg以下、またはその両方の場合は 2.5mg 1日2回投与)または用量調節したワルファリンに1:1でランダムに割り付けました。本試験の主要評価項目は、大出血または臨床的に関連性のある非大出血が発生するまでの期間でした。副次的アウトカムは、脳卒中、死亡率、アピキサバンの薬物動態でした。
試験結果から明らかになったことは?
2017年1月から2019年1月までに、154例の患者がアピキサバン(n=82)またはワルファリン(n=72)にランダムに割り付けられましたが、登録に課題があったため、早期に中止されました。
ワルファリン投与患者の治療域(国際正規化比 INR 2.0~3.0)における時間は44%(四分位範囲 23%~59%)でした。
アピキサバン群 | ワルファリン群 | ハザード比 HR (95%CI) | |
大出血または臨床的に重要な非大出血の1年発生率 | 32% | 26% | HR 1.20 (0.63~2.30) |
脳卒中または全身性塞栓症の1年発生率 | 3.0% | 3.3% | – |
死亡 | 26% (21例) | 18% (13例) | – |
大出血または臨床的に重要な非大出血の1年発生率は、アピキサバン群で32%、ワルファリン群で26%(ハザード比 1.20、95%CI 0.63~2.30)であり、脳卒中または全身性塞栓症の1年発生率は、アピキサバン群で3%、ワルファリン群で3.3%でした。死亡は、アピキサバン群(21例[26%])およびワルファリン群(13例[18%])で最も多く見られた主要イベントでした。
薬物動態サブ試験では、目標である50例の患者が登録され、定常状態における12時間の曲線下面積の中央値は、アピキサバン5mg 1日2回投与で2,475ng/mL×h(10~90%値 1342~3285)、アピキサバン2.5mg 1日2回投与で1,269ng/mL×h(10~90%値 615~1946)でした。また、大出血あるいは臨床的に関連性のない非大出血事象の有無にかかわらず、アピキサバンの最小血中濃度、12時間曲線下面積、最大血中濃度にはかなりの重複がみられました。
コメント
2022年12月現在、腎不全(CLcr 15mL/min未満)を有する非弁膜症性心房細動患者において、アピキサバンは投与しないよう記載されていますが、この根拠としては充分に検証されていないためです。心房細動を有する血液透析を受けている末期腎不全患者におけるアピキサバンの有効性・安全性の評価が求められています。
さて、本試験結果によれば、血液透析を受けている末期腎不全の心房細動患者において、アピキサバンとワルファリンを比較し、重大な出血または臨床的に関連する非大出血の発生率について結論を出すには検出力が不十分であったものの、アピキサバン群でリスク増加傾向でした(ハザード比 1.20、95%CI 0.63~2.30)。したがって、今のところはワルファリンをまず使用した方が良いと考えられます。
患者数が少ないことが予測されるため、患者数の登録が難しいのかもしれないですね。末期腎不全患者におけるNOACの有効性・安全性についての検証が待たれます。
続報に期待。
☑まとめ☑ 血液透析を受けている末期腎不全の心房細動患者において、アピキサバンとワルファリンを比較し、重大な出血または臨床的に関連する非大出血の発生率について結論を出すには検出力が不十分であったものの、アピキサバン群でリスク増加傾向であった。
根拠となった試験の抄録
背景:血液透析を受けている心房細動を有する末期腎臓病患者における脳卒中予防のためのアピキサバンの安全性および有効性を評価したランダム化データはない。
方法:RENAL-AF試験(Renal Hemodialysis Patients Allocated Apixaban Versus Warfarin in Atrial Fibrillation)は、血液透析を受けている心房細動でCHA2DS2-VAScスコア2以上の患者において、アピキサバン対ワルファリンの前向き、ランダム化、オープンラベル、盲検アウトカム評価(PROBE)であった。患者を、アピキサバン5mg 1日2回投与(80歳以上、体重60kg以下、またはその両方の場合は 2.5mg 1日2回投与)または用量調節したワルファリンに1:1でランダムに割り付けた。
主要評価項目は、大出血または臨床的に関連性のある非大出血が発生するまでの期間とした。副次的アウトカムは、脳卒中、死亡率、アピキサバンの薬物動態とした。薬物動態のサンプリングは1日目、3日目、1ヵ月目に行われた。
結果:2017年1月から2019年1月までに、154例の患者がアピキサバン(n=82)またはワルファリン(n=72)にランダムに割り付けられた。本試験は、登録に課題があったため、早期に中止された。ワルファリン投与患者の治療域(国際正規化比 INR 2.0~3.0)における時間は44%(四分位範囲 23%~59%)であった。大出血または臨床的に重要な非大出血の1年発生率は、アピキサバン群で32%、ワルファリン群で26%(ハザード比 1.20、95%CI 0.63~2.30)であり、脳卒中または全身性塞栓症の1年発生率は、アピキサバン群で3%、ワルファリン群で3.3%であった。死亡は、アピキサバン群(21例[26%])およびワルファリン群(13例[18%])で最も多く見られた主要イベントであった。薬物動態サブ試験では、目標である50例の患者を登録した。定常状態における12時間の曲線下面積の中央値は、アピキサバン5mg 1日2回投与で2,475ng/mL×h(10~90%値 1342~3285)、アピキサバン2.5mg 1日2回投与で1,269ng/mL×h(10~90%値 615~1946)であった。また、大出血あるいは臨床的に関連性のない非大出血事象の有無にかかわらず、アピキサバンの最小血中濃度、12時間曲線下面積、最大血中濃度にはかなりの重複がみられた。
結論:血液透析を受けている末期腎不全の心房細動患者において、アピキサバンとワルファリンを比較し、重大な出血または臨床的に関連する非大出血の発生率について結論を出すには検出力が不十分であった。抗凝固療法を行うこの集団では、臨床的に関連する出血事象は脳卒中や全身性塞栓症よりも約10倍多く、血液透析中の心房細動および末期腎不全患者における抗凝固療法のリスクと利益を評価する今後のランダム化試験の必要性が強調された。
試験登録番号:NCT02942407
キーワード:抗凝固薬、アピキサバン、心房細動、慢性腎不全、腎臓透析、ワルファリン
引用文献
Apixaban for Patients With Atrial Fibrillation on Hemodialysis: A Multicenter Randomized Controlled Trial
Sean D Pokorney et al. PMID: 36335914 DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.121.054990
Circulation. 2022 Dec 6;146(23):1735-1745. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.121.054990. Epub 2022 Nov 6.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36335914/
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